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台湾有事で想定される2つのシナリオ...中国が「米軍を奇襲する」可能性

2023年10月10日 公開
2024年05月10日 更新

高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)

 

台湾有事は「負けられない戦争」になる

台湾有事というのは、おそらく非常に難しい戦争になります。中国が台湾に上陸することは可能でしょう。ただし、台湾全土の占領には至らない。その段階でいったいどこに停戦の糸口を見い出すのでしょうか。

中国共産党からすると、台湾有事は始まったら負けられない戦争です。負けたら中国共産党の統治体制の正当性そのものがひっくり返りかねないのですから、当然です。

同様に、アメリカにとっても負けられない戦争になります。台湾海峡でアメリカが負けるようなことがあれば、アメリカは世界の覇権的な地位、世界で一番影響力のある大国としての地位を中国に譲り渡すことになりかねないのです。

もちろん、そこを割り切って退いてしまうという選択肢もありますが、今のアメリカの立場を続ける限りは負けられません。

もう1つ、具体的な停戦のプロセスを考えていったときにも、負けられない戦争の姿が浮かんできます。

先制奇襲シナリオで米軍が介入したとしましょう。戦争が起こり、何万人もの台湾の民間人と何千人ものアメリカ兵が亡くなるかもしれません。それだけの犠牲を出して中国と戦った後で、現在の対中外交の基本原則となっている"ひとつの中国"を維持するかたちでの停戦がありえるでしょうか。

アメリカは台湾と一緒に戦って、それだけの犠牲を出した後もなお、「台湾はまだ国じゃない、正当な中国は中華人民共和国」という姿勢を維持することは政治的にできないでしょう。

その一方で、アメリカが"ひとつの中国"という原則を捨てたが最後、中国側は絶対に停戦を呑めないのです。ですから、この戦争が始まってしまった場合、終わる見通しがまったくつかないシナリオになります。

その後に待ち構えているかもしれない最悪の事態を回避するためにも、台湾有事を起こさないことが重要なのです。

 

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