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中国が尖閣諸島を奪う“3つのシナリオ”

2021年12月29日 公開
2022年07月08日 更新

村井友秀(東京国際大学特命教授)

村井友秀

尖閣諸島は実質的に日本の統治下にある。しかし、中国は尖閣諸島が中国固有の領土だと主張し、さまざまな手段を講じて尖閣諸島を支配下に置こうとしている。中国が実際に尖閣を奪うとしたら、どのようなシナリオがありうるのか。

※本稿は、村井友秀著『日中危機の本質』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

条件は「米国と戦争しないこと」

中国が尖閣諸島を日本から奪取しようとする場合、3つのシナリオが考えられる。(1)軍事作戦、(2)国際裁判、(3)外交交渉、である。

軍事作戦で奪取する場合は、中国が戦争に勝たなくてはならない。戦争に関与する国は、中国、日本、米国であろう。3カ国の軍事力を比較すると、米国が圧倒的に強く、次いで中国、日本は3番手である。したがって、中国は米国と戦争すれば負ける。中国が戦争に勝つためには米国と戦争しないことが条件になる。

日本と中国の戦争は3つのレベル、すなわち核戦争、通常兵器による全面戦争、小規模な局地戦争に分けられる。核戦争や全面戦争では核兵器を持たず中国軍の10分の1の兵力しかない日本が、数百発の核兵器とミサイルを持つ軍事大国の中国に勝つ可能性はない。

しかし、中国と日本の間に大戦争が発生すれば米国が介入する可能性が高くなる。米国本土の安全や米国の世界支配を脅かすような深刻な脅威に対抗するためには、米国は大規模に軍事介入する。日本が中国に負けて中国の支配下に入れば、米国はインド太平洋戦略の要石を失い、米国の世界戦略は重傷を負うことになる。

したがって、日中間の核戦争や全面戦争に米国は軍事介入するだろう。米国が大規模に介入すれば、中国は戦争に負け、共産党政権は倒れる。中国共産党は共産党による独裁政権の維持を何よりも重視する合理的なアクターであり、自殺行為はしないだろう。

 

小さな戦争に負けても共産党政権は倒れない

核戦争や全面戦争になれば負けた国の政府は倒れる。しかし、参加兵力が1000人以下、死傷者が100人以下といった小さな戦争に負けても政府は倒れない。局地戦争に負けても、小さな戦争に負けただけで、戦争を拡大すれば最終的に勝てると政府は国民に主張するだろう。その主張を国民が信じれば政府は倒れない。

また、1万㎞離れた海上に浮かぶ小さな島が、米国にとって死活的に重要な島であると米国政府が説明しても多くの米国民は納得せず、米軍が介入することに米国民は同意しないだろうと中国政府が考える可能性がある。

米国が介入しなければ、局地戦争は日中の戦いになる。兵力と戦場が限定され、中国の物的優位が生かせない局地戦争では、日中の軍事バランスは中国に有利ではない。

米国が介入すれば中国に勝ち目はないが、局地戦争の場合は、米国が介入しなくても中国軍が勝てる保証はない。中国共産党が合理的なアクターなら軍事行動に慎重になるだろう。

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