フランスでの燃料税増税への反対デモ「黄色いベスト運動」のように、いま世界中で政治への不満が高まっている。その背景として、世界の政党の大きな変容が挙げられる。
かつて左派といえば、労働者の権利を守る集団だった。だが現在の左派政党は労働者の味方であることをやめ、エリートのための政党に変容しつつあると、金融アナリストの吉松崇氏は指摘する。
吉松氏の著書『労働者の味方をやめた世界の左派政党』では、『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティの政治分析をヒントに、21世紀の労働者を救う道を探っている。
本稿では同書より、ピケティの分析から左派政党の支持基盤が知的エリートに変容し、ブルーカラーの味方がいなくなりつつある現状を指摘した一節を紹介する。
※本稿は吉松崇著『労働者の味方をやめた世界の左派政党』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
ピケティが研究対象としたフランス、イギリス、アメリカの3国には、選挙の出口調査の膨大なデータベースがある。国により多少の差異はあるが、投票者の投票先、性別、人種、宗教、最終学歴、所得、資産、といったさまざまな属性が分かる。選挙ごとのサンプル数も数千~1万件くらいはあるので、信頼性はかなり高い。
ピケティは、1948年から2017年にわたるこの膨大なデータを使用して、投票者の投票先ごとに、彼ら(彼女ら)の属性が時代とともにどう変化したのかを分析した。すると驚くべきことに、3国のいずれでも、ほとんど同じ傾向が見られたのだ。
ピケティの「発見」を整理すると、以下のようになる。
1.資産の多い人は「右派」に投票し、少ない人は「左派」に投票する。この傾向は、1948年から2017年まで変わっていない。
2.所得の多い人は「右派」に投票し、少ない人は「左派」に投票する。この傾向も変わっていない。ただし所得と投票先の相関は近年、弱まっている(高所得者が「左派」に投票する割合が増えている)。
3.マイノリティ(非白人)はいつの時代も圧倒的に「左派」に投票する。
4.女性は1948年には圧倒的に「右派」に投票していた。だが、徐々に「左派」に投票する人が増え、現在では、「左派」に投票する人の半数以上が女性である。
5.1948年には高学歴者の大多数が「右派」に投票していたが、高学歴者の「左派」に投票する比率が徐々に増えている。現在では、高学歴者のなかの「左派」に投票する比率が、低学歴者のなかの「左派」に投票する比率を超えている。
前述の1~3はほとんど変化していない属性であり、4と5は大きく変化した属性であるが、このなかで、ピケティはとくに5に注目する。
もともと左派政党というのは労働者階級の政党で、その支持基盤は労働組合であった。労働者は総じて低学歴であり、一方、高等教育が大衆化する以前の高学歴者とは、富裕な資産階級の子弟が圧倒的だから、1948年にいずれの国でも高学歴者が富裕層を代弁する右派政党に投票する傾向が強いのは納得できる。
ところが、先進国では高等教育が徐々に大衆化する。いずれの国でも、大学進学率が大きく上昇した。これは資本主義経済がより技能の高い労働者、すなわちエンジニアやホワイトカラーのような知識労働者を必要とするようになった結果である。
そして、このようにして高学歴になった人びとは、終戦直後の高学歴者とは異なり、必ずしも右派政党に投票する保守層ではなく、むしろ左派政党に投票する傾向がある。
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左派政党の支持基盤は高学歴の知的労働者へとシフトした >
更新:11月21日 00:05