2020年02月18日 公開
2023年12月27日 更新
しかもトランプ大統領にとって頭痛の種はこれだけではない。
国防総省からの最新報告によると、北朝鮮が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15型」改良型を搭載した移動式ミサイル発射台を国内の各地に展開したという。少なくとも計六台の配備が衛星情報により確認されたようだ。
「キムはいったい何を考えている」
トランプ氏の怒りは収まらない。北朝鮮の動きはトランプ氏の苦境を見計らったかのようである。
2020年、米朝間にはさまざまな紆余曲折があった。3月、米韓は恒例の合同軍事演習を実施した。演習は規模を縮小して実施されたが、北朝鮮は強く反発し、寧辺(ニョンビョン)の核関連施設を再稼働させ、プルトニウム生産を再開させた。
豊渓里(プンゲリ)核実験場でも、爆破したトンネルを再び整備する様子が衛星写真で捕捉された。北朝鮮は、東倉里(トンチャンリ)にあるロケット発射場での新型大型エンジンの燃焼実験の様子も公開した。
4月、北朝鮮は平壌での軍事パレードで新型の潜水艦発射型中距離弾道ミサイル(SLBM)と新型ICBMを誇示してみせた。
その後、「戦略型潜水艦」を就航させると同時に、自国領海から日本の排他的経済水域(EEZ)近辺に向けてSLBMを試験発射し、東京オリンピックの準備中の日本を慌てさせた。北朝鮮は日本のEEZにSLBMも撃ち込み、日本をさらに狼狽させた。
5月初め、北朝鮮の新型ICBMを搭載した移動式ミサイル発射台が中朝国境付近に配備されている様子が、米軍の衛星情報により初めて捕捉された。
ほぼ同時期に、北朝鮮のミサイル技術陣がシリアとイランの両国内のミサイル関連施設で目撃されたとの情報も入ってきた。新型弾道ミサイル技術の中東諸国への拡散の懸念が深まったと言える。
北朝鮮側と接触していた米政府の交渉チームが、ようやく米朝実務レベル交渉再開の糸口を掴んだのは、その直後のことだ。
だが北朝鮮は以前と同様、国連制裁の全面解除と米韓合同軍事演習の完全中止を頑なに要求する一方、核計画の全面破棄を拒否した。
米国としては北朝鮮に対する圧力は強めようがない。中ロは国連制裁の緩和を強く主張している。韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は朝鮮半島の軍事的緊張を望まず、米軍増派の費用負担を拒んでいる。
米韓の足並みの乱れは明らかだ。日本もオリンピックを控えて、軍事的緊張は望んでいない。外交的妥結にもち込むしかない。
日韓の強い要望もあり、トランプ大統領は金委員長に書簡を送った。
もし北朝鮮が東京オリンピック期間中に挑発行為を控えるならば、米政府は2018年6月の「シンガポールでの米朝合意の実施を巡る初期段階の措置」について、金氏の意向を最大限尊重するかたちで合意する用意がある、と。
こうして米朝実務者交渉が再開した。米朝が交渉を重ねて、やがて7月半ば、各々が声明を同時に発表した
北朝鮮は、①寧辺のプルトニウム関連施設・核実験場・東倉里のロケット発射場の廃棄、②核・長距離弾道ミサイル技術の不拡散の再確認、③ミサイル発射の停止に向けた意志を表明した。
他方、トランプ政権は、①国連制裁措置の緩和、②朝鮮戦争の終結、③北朝鮮の核・長距離弾道ミサイル関連施設の廃棄に対する査察の実施、④米韓合同軍事演習の条件付き中止、⑤韓国との南北経済協力プロジェクトの承認、⑥米朝国交正常化に向けた意志を表明した。
米朝両国はこれらの措置の実施のための作業部会設置について合意した。北朝鮮のウラン濃縮施設や既存の核弾頭、短・中距離ミサイル、生物・化学兵器の廃棄については継続協議とされ、日本人拉致問題についてはとくに議論されなかった。
米国内では「北朝鮮に妥協しすぎ」と批判されたが、トランプ大統領は早速、米朝交渉の成果を選挙戦にフル活用した。
「私が大統領だからこそ、朝鮮戦争を終わらせて、北朝鮮の核の脅威を排除できたのだ」
その後、米朝の実務者チームは「シンガポールでの米朝首脳合意の実施のための初期段階の措置」について交渉を続けた。しかし、まもなく北朝鮮側の姿勢が硬化した。
米政府は国連制裁の一時凍結を提案したが、北朝鮮側は国連制裁の全面解除を要求した。さらに北朝鮮は、米韓合同軍事演習を条件付きではなく全面的に中止するよう求めた。ここで交渉は難航する。
そして9月26日。トランプ大統領は、北朝鮮が部隊を陸上配備したとの情報に激怒している。だが、中東政策の失政を問われているトランプ大統領にとって、いまさら、米朝交渉まで失敗させるわけにはいかない。すでに自分の成果として、あれだけ誇示した経緯もある。
「今回はキムの顔を立ててやる」
ビーガン国務副長官には、金委員長の要望を尊重する方向で早く米朝合意をまとめさせよう。そもそも北朝鮮なんて、あんな遠い国、長距離弾頭ミサイルさえ持たせなければ、米国には無関係だ。
残りの問題は日本と韓国に対処させよう。北朝鮮問題でこれだけ協力してやってるのに、米軍駐留費用を公平に負担しない同盟国など、米国がそこまで付き合う必要はない。
日本と韓国は、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに各々、海上自衛隊と海軍の部隊を独自派遣しているが、米国主導のイラン包囲網の有志連合には参加していない。
米軍が中東の原油の安定供給のために尽力するのに、日韓はただ乗りだ。そうだ。ポンペオ国務長官が主張していたとおり、やはり日韓も有志連合に参加させよう。
トランプ大統領はすぐにポンペオ国務長官に伝えた。
「(安倍)シンゾー(首相)との電話会議をすぐに準備してくれ」
大統領選の投票日までまだ1カ月以上ある。何とかできる。トランプ氏はいつも前向きだ。
更新:11月22日 00:05