2020年02月18日 公開
2023年12月27日 更新
今年の11月に米大統領選を控えているものの、世界情勢は落ち着きを見せない。依然として各国の外交関係には緊張が漂っている。米・イラン関係は予断を許さず、北朝鮮の非核化は一向に進まない。
国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員を務め、安全保障問題に詳しい古川勝久氏が、今後の世界情勢に関する独自の「仮想シナリオ」を提示する。
本稿は月刊誌『Voice』2020年3月号、古川勝久氏の『中東・朝鮮半島「同時危機」』より一部抜粋・編集したものです。
今後の中東・東アジア情勢を考えてゆくための「思考シミュレーション」として、1つの仮想シナリオを以下に提示する。現実的に考えられうるさまざまな想定をできる限り踏まえて考えてみた。読者の皆さんの参考になれば幸いである。
今日は、2020年9月26日の土曜日。米大統領選挙投票日の11月3日まであと約5週間。トランプ大統領と民主党大統領候補との最初の討論会は、3日後の29日に開催予定だ。
トランプ氏は再選に向けての追い込みに余念がないはずだが、いまはそれどころではない。CNNニュースのテレビ画面に目がくぎ付けだ。
「先ほど入ってきたニュースです。米国防総省の発表によると、ペルシャ湾内を航行中の米海軍の掃海艇に、多数の小型高速戦闘艇が警告を無視して接近してきたため交戦となりました。
高速戦闘艇のほとんどは近くにいた米海軍の護衛艦により一掃されたものの、掃海艇はダメージを受けて航行不能となったうえ、複数の米海軍乗組員が行方不明になっているとのことです。
米国防総省によると、これらの高速戦闘艇はイラン革命防衛隊の指揮下にあったとのことです。攻撃を受けたのは1980年代建造の旧型の掃海艇です。
他方、イラン外務省は、米軍の艦艇がイランの領海内に無断で侵入したとして、米軍を強く非難するとともに、イラン革命防衛隊の海軍部隊が米軍との果敢な激戦の末に米艦艇を自国領海から撃退し、複数の米国籍乗組員を逮捕したと発表しました」
いま、トランプ大統領は民主党の大統領候補と僅差の支持率で競り合っている。もともと8月ごろまでは、好調な米国経済を受けて、トランプ大統領のほうが民主党候補よりも少しだが高い支持率を安定的に確保していた。
だがその後、中東各地で米軍や米外交官が武装民兵組織に相次いで攻撃され、トランプ氏の中東政策への国内批判が高まっている。
中東情勢の緊迫化を受けて、原油高を懸念する株式市場も敏感に反応し、米国内の株価は下落傾向にある。トランプ大統領の支持率も少しずつ下がっている。
2020年7月以降、イラク、シリア、イスラエル、レバノン、アフガニスタンなどの国々で米軍や米国大使館等に対する攻撃が頻発して、米軍部隊や米外交官に多数の死者が出ている。
一連の攻撃はすべてイランに近い武装勢力の仕業である。イランが背後にいると思われるが、確証はまだない。革命防衛隊のソレイマニ司令官が殺害されたあと、イランはこれらの武装勢力をコントロールできなくなったとの情報もある。
トランプ大統領は中東からの米軍撤退を公約に掲げてきたが、ソレイマニ氏の殺害後、4500人の米軍兵士を中東へ追加派遣した。米国内では、なぜ米軍が中東への関与を深めるのかと共和党支持層からも反発が強まっている。
現時点ではこれ以上の中東への米軍増派は難しい。米軍を中東に増派したあと、武装勢力による対米攻撃はむしろ激化した。
米国は1月にイランとの大規模武力衝突を回避したものの、その戦いはまったく終わっていなかった。イランによる米軍追放作戦は本格的に始まったばかりだ。
更新:11月21日 00:05