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アメリカ軍は弱体化している...世界トップに躍り出た「中国海軍の軍事力」

2024年04月08日 公開
2024年05月10日 更新

北村淳(軍事社会学者)

アメリカ軍と中国軍の軍事力の差

日本がアメリカと同盟関係を築いてきた最大の理由は、「世界最強」の軍事力にある。ところがいま、この前提が土台から崩れ始めている。アメリカで海軍の調査・分析を行い、戦略コンサルタントを務める著者が、中国軍の軍事力増強と知られざるアメリカ軍の「弱体化」をレポート。

※本稿は、北村淳著『米軍最強という幻想』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

戦力レベルが「弱体」に転落

アメリカ政府の国防政策決定過程に大いに影響を与えている保守系シンクタンクであるヘリテージ財団(Heritage Foundation)は、毎年多数の専門家を動員して国際軍事環境と、それに対してアメリカ軍がどの程度の戦力レベルを維持している状況なのか、に関する報告書を作成し、公刊している。

『Index of U.S.Military Strength』(以下、ヘリテージ報告書)というこの報告書がアメリカ軍の現時点における能力を「正確に評価している」とはいいきれないのは、一シンクタンクの分析評価である以上、当然であろう。

ただし、米軍の現状に関して様々な観点から厳しいチェックを日々実施している連邦会計監査院や、連邦議会調査局が公刊している多数の米軍関係報告書などと突き合わせると、ヘリテージ報告書の評価はかなり的を射た内容であると頷ける。そのため、米軍自身としてもこの報告書を尊重しているようである。

このヘリテージ報告書によると、2015年以来アメリカ軍の戦力レベルは全体として「必要最低限レベルを保っている」という評価が続いていた。

しかしながら「必要最低限」という評価は「仮想敵国と何とか戦いを交えることが可能である」という意味であるため、想定されているアメリカにとっての軍事的脅威を打ち払うだけの「強力」あるいは「極めて強力」なレベルには達していない、ということを意味している。

もっとも、2015年から2021年の7年間では、空軍の戦力レベルが2015年に「強力」と評価されたのみで、各軍種にしろ全体にしろ、その1回しか「強力」はなかった。逆に陸軍は2016年から2018年にかけて、海兵隊は2018年と2019年に、それぞれ「弱体」と評価されていた。

この「弱体」の原因は、陸軍と海兵隊はそれまで長年にわたってイラクやアフガニスタンなどでテロリスト集団との近接地上戦を中心として戦ってきたため、トランプ政権によって新たにアメリカの主敵とされた中国やロシアとの本格的地上戦や、島嶼部ならびに海岸地帯での戦闘を想定すると「弱体」と評価されたのであった。

 

吹き飛んだ「アメリカ軍最強神話」

ただし、陸軍も海兵隊も新たな仮想敵との対決に備えるべく改革を推進してきたため、「弱体」を脱することができた。とりわけ組織再編を伴う大規模な戦略転換を実施している海兵隊は、2022年からは「強力」と評価されるに至った。

また、トランプ政権が核武装強化路線に踏み切ったため、核戦力は海兵隊と同じく「強力」レベルを維持している。

しかしながら、かつては突出して世界最強といわれていた空軍が、2022年には「弱体」に転じ、2023年には「極めて弱体」に転落してしまった。それに加えてアメリカの海洋国家防衛原則を支える大黒柱である海軍も2023年には「弱体」と評価されるに至ってしまった。

海軍が「弱体」であると、海軍と行動を共にする海兵隊がいくら「強力」でも、宝の持ち腐れとなってしまうことになる。そのため、アメリカ軍で他国の軍隊に勝っているのは核戦力だけという状態になってしまっており、2023年はアメリカ軍全体としての戦力レベルが「弱体」に転落してしまったのである。

要するに、現状では(あくまでヘリテージ報告書の評価ではということであるが)アメリカ軍が戦争に投入されたとしても「弱体」な軍隊ではとても勝利は覚束なく、ただ一つ核戦力を投入すれば勝利を手にすることができるであろう、という状況なのである。

かつての「アメリカ軍最強神話」などは、まさに吹き飛んでしまっているのが実情といえよう。

 

米空母の撃退力強化に傾注した中国

第二次世界大戦で大日本帝国海軍を打ち破って以降、アメリカ海軍の主戦力は空母艦隊になった。

現在に至るまで、空母艦隊こそがアメリカの軍事力が世界最強であることの象徴だと多くの米国民や米軍関係者でさえ自認しているし、日本をはじめとしてアメリカ軍に頼り切っている国々でも、そのように信じられている感が強い。

実際に、中国が台湾の独立を志向する動きに対して軍事的圧力をかけたいわゆる第三次台湾海峡危機(1995〜96年)に際しては、空母艦隊2セットを台湾周辺海域に派遣したアメリカ海軍に対して、中国側は沈黙せざるをえなくなった。

国際社会に米国の海洋軍事力の強大さを再確認させるとともに、中国の軍事力の弱体ぶりをさらけ出すことになってしまったこの事件をきっかけとして、中国は海洋軍事力(艦艇戦力、海軍と空軍の航空戦力、ロケット軍の長射程ミサイル戦力など)を中心とした接近阻止戦力(アメリカ軍が中国沿岸海域に接近してくるのをできるだけ遠方海上で撃退するための戦力)の強化に邁進した。

とりわけ中国が努力を傾注したのは、太平洋やインド洋から東シナ海や南シナ海に進行して中国沿岸域に接近してくる米空母艦隊を撃退する戦力の整備であった。

とはいっても、1990年代後半の中国海軍や航空戦力(空軍、海軍航空隊)は自衛隊にも対抗しえないほど脆弱なものであり、米海軍と衝突することなど思いも寄らないレベルであった。

そこで中国は、まずは近代的艦艇や航空機の取得や開発に着手し、海軍と空軍の強化に全精力を傾けた。

 

戦闘艦艇数は中国海軍の半分以下に

東アジア方面におけるアメリカの海洋軍事力の低下は、しばしば中国海軍との戦力の比較によって論じられている。

アメリカ海軍の再興を掲げたトランプ政権は、戦力強化が著しい中国海軍を念頭に置いて、米海軍の主要艦艇数を355隻以上に拡大することを義務化する政策を打ち出した(アメリカ海軍にせよ中国海軍にせよ、耐用年数に達したり旧式化したり事故で深刻なダメージを受けたりした軍艦は退役することになるので、艦艇数を増加させるには、退役する艦艇数より新たに誕生する新造艦艇の数が多くなければならない)。

ただし米海軍やシンクタンクなどの海軍戦略関係者からは、常識を覆すスピードで戦力拡大を続ける中国海軍や復活しつつあるロシア海軍を念頭に置くならば、目標が355隻では少なすぎ、500隻は必要であるといった意見も少なくなかった。

ところが、アメリカ海軍の艦艇数の増加ペースが遅々として進まず、300隻にも達しないでいるうちに、2021年には中国海軍は米当局が掲げていた355隻に達してしまい、数量的には世界最大の海軍の座を占めるに至った、と米国防総省が発表した。それとともに米国防総省は、2025年には中国海軍主要艦艇保有数は少なくとも420隻に達するとの深刻な危惧の念を表した。

しかしながら、米軍情報筋やシンクタンクによる中国海軍戦力予測が常に過小評価であったのと同じく、この予測も過小評価であった。

2023年12月現在、アメリカ海軍自身が「戦闘部隊艦艇」としてリストアップしている主要艦艇保有数は291隻となっており、そのうち「戦闘艦艇」(原子力潜水艦、航空母艦、駆逐艦といった各種戦闘用艦艇)は227隻となっている(5年前の2018年12月には287隻であった)。

これに対して中国海軍は、艦艇保有数などが明確に公表されているわけではないが、上記の米海軍「戦闘部隊艦艇」に準拠して数字を割り出すと、2023年12月時点で「戦闘艦艇」保有数は最小でも490隻となる。

要するに、アメリカ海軍の戦闘艦艇数は中国海軍の半分以下になっている。ただし中国海軍とアメリカ海軍はそれぞれ戦略、任務、戦術が異なっており、たとえば中国海軍が多数保有している小型戦闘艦艇(ミサイル艇やコルベットなどの沿岸・沿海域での戦闘に用いられる軍艦)をアメリカ海軍は保有していない、といった事情もあるため、単純に艦艇数を比較するわけにはいかない。

しかし、アメリカ海軍は戦力を太平洋側と大西洋側に分割しなければならないという地形的ハンディキャップを負っていることを考慮すると、米国防総省や米海軍当局自身が認めているように、米海軍は世界最大の海軍の座を中国に明け渡してしまったことは否定できない。

 

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