
デジタル民主主義の実装を粛々と進める――。テクノロジーの現在と将来について、チームみらい党首・安野貴博氏に話を聞いた。
★本論稿は、意見集約プラットフォーム「Surfvote」と連動しています。
※本稿は、『Voice』2026年1月号より加筆・編集した内容をお届けします。
――安野さんが参議院議員としての活動を開始されたのは、今年(2025年)7月末のことです。その具体的な内容については、YouTube「新党『チームみらい』公式チャンネル」の週次活動報告などでも発表されており、さまざまな改革を進めている様子が窺えます。政治家になられてから、どのような手応えを感じていますか。
【安野】現時点では国会が開かれていませんので(編集部注:取材を行なったのは10月21日に臨時国会が開会される前)、やれることは限定的ですが、党内の組織づくりや、他党との連携を模索したり政策を検討したりしてきました。とくに、「チームみらい」のマニフェストにも掲げていた政治資金の流れを「見える化」するプロダクト「みらいまる見え政治資金」のリリースなど、私たちとしてやるべきことは順調に進められています。
政治家になってから知った「バッドニュース」を挙げると、永田町ではFAXを使う文化が依然として健在だったり、本会議場には情報機器をもち込んではいけなかったり、オンライン参加も禁止されていたり。知識としては知っていましたが、改めて実態に触れて、実感したところでした。
その一方で「グッドニュース」もあって、僕は政界の「異分子」として当選したようなものですから、じつは他党の議員から煙たがられ、場合によっては排除されるのではないか、と懸念していたんです。しかし実際には、いろいろな政党の方とお話しすると、多かれ少なかれ「チームみらい」の活動に興味をもっていただいていると実感しています。
――東京都の外郭団体のアドバイザーも務めていた今年1月には、「2025年はデジタル民主主義元年になる」と発言されていました。実際にこの1年で、日本のデジタル民主主義はどのくらい進んだでしょうか。
【安野】僕は「デジタル民主主義元年」と呼ぶに値する1年であったと感じています。というのも、みずから言うのは憚られますが、デジタル民主主義を掲げる「チームみらい」が国政政党になり、1議席を得たことは大きな前進だと言えるはず。また私たちに限らず、少なくない政治家が「テクノロジーを使わなければいけない」と言い始めていて、これは大きな変化ではないでしょうか。
僕は7月の選挙期間中、政党のビジョンや政策を学習させたAIアバター「AIあんの」を公開し、多くの方とコミュニケーションをとりました。その後、10月の自民党総裁選では、高市早苗候補の政策や発言をもとに質問に答える「教えて⁉ AIサナエさん」が登場するなど、同じような取り組みが行なわれていました。この件に限らず、「チームみらい」の活動も参考にしていただきながら、各党がテクノロジーの活用を模索している印象です。
とはいえ良い話ばかりでもなくて、参議院選挙では「SNS上で外国からの選挙介入があったのではないか」という指摘もありました。「ボット」という自動投稿プログラムが使われて、政府や特定の政党に対する批判的な投稿に「いいね!」が大量に押されたり、リポスト(転載)が繰り返されたりする仕組みです。そうした悪い面も含めて、政治とテクノロジーの距離はぐっと近づいた1年だったと言えるでしょう。
――「チームみらい」としては、来る2026年はどのような活動をめざしていますか。
【安野】今年がデジタル民主主義の「元年」ならば、来年は本格的に実装し始める年にすべく、引き続き粛々と準備を進めていきます。やはり国会で1議席をとれた事実は非常に大きくて、政党交付金を活動資金に安定的に開発を進める、「永田町エンジニアチーム」を発足させることができました。このチームの活動によって、新しいテックプラットフォームを実装していきたいと考えています。
すでに二つのプラットフォームをリリースしていて、一つが先ほど紹介した「みらいまる見え政治資金」、もう一つが「みらい議会」です。「みらい議会」とは、国会の議論の内容を国民にわかりやすく伝え、理解を深めていただくプラットフォームです。現在のものをアップデートさせて、やがては国会で議論される法案について広く意見を募り、意思決定に活かせないかと検討しています。
「チームみらい」としてめざしているのは、①政党としてのシンクタンク機能、②テクノロジーの活用(エンジニアチーム&プラットフォーム)、③メディア機能、です。まずは私たちが、この三つが垂直統合された組織になれば、日本のデジタル民主主義の実装をさらに進められるはずです。
以前から、共産党であれば『しんぶん赤旗』、公明党であれば『公明新聞』のように、政党とメディアという二つの垂直統合はありました。また近年の新しい動きとしては、国民民主党や参政党、日本保守党などのYouTubeチャンネルも政党と垂直統合しています。
私たちの場合はそこからさらに一歩進み、YouTubeチャンネルも使いながら、より多くの人の声を集められるテックプラットフォームの実装をめざしている。これにより、従来の政党よりもさらに大規模なメディアやテクノロジーとの垂直統合を可能にできるはずです。
――超党派のAI勉強会(「AIと民主主義に関する超党派勉強会」)の第1回が10月に開かれ、台湾の初代デジタル大臣であるオードリー・タン氏も登壇したことが話題となりました。この勉強会にはどういった意図があるのでしょうか。
【安野】AIやテクノロジーの活用については、与野党という枠組みに囚われず広く話し合う場が必要です。これまでもAIの産業政策などは国会で話し合われてきましたが、AIやテクノロジーを民主主義そのものにいかに活用するかについては、残念ながら議論されてきませんでした。
また、2021年にデジタル庁が発足して以降、行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)は考えられているものの、立法府のDXはあまり検討されていません。しかし立法府のDXも喫緊の課題で、冒頭で申し上げたように、本会議場に通信機器をもち込めなければ、オンラインでの参加もできない。
たとえば、審議を聞いている議員にとって、もしも理解が曖昧な専門用語があったとき、デジタル機器を使ってその場で調べられれば、議論のクオリティが上がるかもしれません。
議会へのオンライン参加を認めるかどうかについては、細かい話だと感じる方もいるかもしれません。でもそれが認められれば、その先にはどのようなシステムを使ってどう導入するかという議論になります。最終的には、デジタル民主主義そのものをいかに進めるかという話につながるでしょう。
勉強会にはまずは主要政党の六党から3人ずつの計18名に参加していただきましたが、立法府のDXを進めるため、これからも他党と議論を重ねていくつもりです。
――お話を伺い、テクノロジーの活用を迅速に検討していかなければならない実情がよくわかりました。このような話に対する国会議員の反応はいかがでしょうか。テクノロジーに精通していない政治家もいるはずです。
【安野】僕個人の印象としては、AIに興味のある議員は多いと感じています。とはいえ、抵抗なく「僕と接している」議員であれば、必然的にテクノロジーに関心がある傾向が強いでしょうから、実際のところは何とも言えないところはあります。
ただ、僕は国会議員の全員がテクノロジーに関して、プロフェッショナルである必要はないと考えているんです。むしろ、各議員にそれぞれ専門分野があり、さまざまなタイプの政治家がいるほうが望ましい。AIやテクノロジーの話に限らず、どれだけ重要なテーマであっても、時間をかけて説明したところで全員が興味をもつわけではない、とも思っています。
――「いまの時代、AIを活用できない政治家は退陣すべきだ」との意見もあります。ここまで言ってしまうと分断につながるように思いますが、安野さんはどう考えますか。
【安野】「批判」の声はあってもいいと思うんです。世の中を変えるうえでは、そういう考えが存在することは決して悪いことではない。でも、そこから相手を過度に攻撃したり、「あいつは馬鹿だから」などと侮辱したりすることには、断じて賛同できません。
――政治家に限らず、テクノロジーに慣れることが難しい国民もいるでしょう。今日お話しいただいたように、テクノロジーを活用することでより多くの意見を収集できる一方で、テクノロジーに不慣れな国民の意見にはどう向き合うのでしょうか。
【安野】私たちが掲げているデジタル民主主義は、「これまでのやり方をやめよう」という取り組みではありません。そうではなくて、「新しいやり方を導入すれば、より多くの人びとの声が聞けるでしょう?」と呼び掛けているのです。
つまりは、従来の手法で国民の意見を集約する政党がある一方で、私たちのようにテクノロジーを利用した政党もあったほうが社会にとっていいよね、という考えです。重要なことは、情報を集めるうえでのチャンネルを増やすことではないでしょうか。
たとえば、街頭演説に来る人にしても属性や立場に何がしかの偏りがあるわけで、それは政治集会に来る人やインターネット上でコメントする人にも言えることでしょう。それらに横串を刺してみたうえで、「おおよその民意はこうだろう」と政治家が判断して、適切に意思決定することが、政治にとっては大事なことではないでしょうか。
――言い換えるならば、社会のいろいろな場所で起きている「フィルターバブル」を懸念されているのですね。その問題意識はいつからあったのでしょうか。
【安野】おそらく10年くらい前からでしょうか。たとえば、政治家は「陳情」する人たちの声を聞きますよね。でも陳情なんて、国民の99.9%はしたことがないはずです。そこには大きな不均衡があると、以前から感じていました。政治家が陳情の声を聞いて「それはたしかに問題だ」と解決に動くとしても、実際には大多数の国民の声は届いていないのです。
数年前に『FACTFULLNESS(ファクトフルネス)』(邦訳版は2019年、日経BP)という書籍が世界中で大ベストセラーになりました。著者は小児科医のハンス・ロスリングさんらですが、彼がアフリカのある国に赴任したときの話がとても印象的です。その地域では子どものあいだでひどい病気が流行っていて、次々に命を落とす状況でした。実際にロスリングさんが赴任した病院も病気の子どもで溢れていて、同僚の医者は毎日のように定時を越えて働き続けていた。しかし、彼は必ず定時で帰るのです。
それを見かねた同僚が非難するのですが、ロスリングさんは次のように答えたといいます。「この病院のなかで死ぬ子よりも、外で死んでいる子のほうが統計的には多い。そうであるならば、帰って公衆衛生プログラムについて研究し、普及させるほうが多くの命を救えるのだ」。
これまでの日本の政治のやり方も、じつは似たような構図ではないでしょうか。目の前に陳情に来た人が並んでいるとしても、国民の大多数はその「外」にいる。 だからこそ私たちは、その「外」の人たちの声も聞くことができるシステムをつくりたいのです。
――とても頷かされるお話である一方で、たとえばネットに書かれたコメントには、陳情を行なう人と比べて責任なく放たれた意見も多いのではないでしょうか。
【安野】たしかにネットには無責任なコメントも多いですし、事実を誤認している書き込みも少なくない。さらに言えば、アカウントを大量につくって、「みんなでこの内容を投稿しよう」と呼びかける「多数派工作」も行なわれています。皆で書き込んで大きな声にすることで、世論を自分たちに有利に誘導しようとする活動です。
ただ僕は、これらの問題はいずれもテクノロジーで解決できると考えています。たとえば、それぞれマイナンバーと認証した意見なのかそうでないかをサイトと連携させれば、一人で複数のアカウントを利用することは防げます。
間違った知識に基づくコメントに対しても対応は可能です。一例として、「税率は低いほうがいい」「福祉は充実したほうがいい」などの意見は反射的に言われやすいですよね。そこでいま発達しているAIのLLM(大規模言語モデル)を活用すれば、「なぜそう思うのですか」「こういう意見もありますがどう思いますか」と問いかけて、相手にいま一度考えさせることができる。その過程で、自分の事実誤認に気付くことがあるかもしれない。
もちろん人間の質問と比べれば質は下がるかもしれませんが、そうした過程を経たコメントは、一方的に放たれたものよりは深い内容になるはずです。最先端の技術を使い、また利用者の背景にどういうバイアスがあるのかをふまえて最終的に人間が判断すれば、多くの問題を解決できると考えています。
2000年代以降のインターネット環境の変化を経て、誰でもネット上に意見を表明できるようになりました。それからさらに進んで、いまでは「大量にある情報をどう処理するか」が重要なボトルネックとなっています。
じつは、その解決に資するLLMはもう登場しているのですが、ここで問題なのが、それを社会のために推進できる組織や人が多くないこと。なぜかというと、儲かる仕組みではないので営利企業は目を向けませんし、行政は取り組むためのリソースやノウハウが少なく進めづらい。ならばNPOが担うべきかといえば、資金調達が簡単ではありません。
そこで辿り着くのが、一定の予算と時間を自分たちで決められる「政党」が課題を解決すべきだという答えです。その意味では、「チームみらい」がいま政党として存在しているのはとても大切で、行政や社会全体に対して積極的に働きかけたいと考えています。
――「チームみらい」は子育てや教育などへの長期的な投資も重視されていますが、裏を返せば既存の権利をもつ人の理解を得にくいとも言えます。デジタル民主主義は、政策の実現をどのように可能にするでしょうか。
【安野】まず一つは、人は議論を重ねることで態度が変容することがあるため、「熟議」を低コストでできる仕組みをつくることができれば、非常に大きな意味があります。
スタンフォード大学の政治学者ジェイムズ・フィシュキンは、1988年にデリバラティブポーリング(討論型世論調査)という社会実験を行ないました。無作為に抽出した調査対象者に資料や情報を提供し、十分な討論を経たうえで再度アンケートを行なう内容で、結果としては、熟議が行なわれたあとはテーマへの賛成と反対の立場が一定数入れ替わることがわかりました。そうであるならば、社会全体としても熟議を経ることで、同じような分布になるのではないかというのが彼の理論です。
とても面白い説ですが、ここで問題になるのが、調査対象者を無作為に抽出するのも、十分な熟議を行なうのも膨大なコストがかかることです。ならば、無作為の抽出については条件を緩め、熟議は先ほども提案したように、ネット上でのAIを介した議論にするのはいかがでしょうか。そうした工夫によってコストを下げつつ、熟議によって歩み寄れる社会をつくることは、僕は可能だと考えています。
また、素晴らしい政策のアイデアがある政党や政治家がいても、人口分布の偏りなどによってどうしても選挙では勝ちようがないケースがあります。そこで、政策の議論を直接的に立法府に届けるシステムをつくるのはいかがでしょうか。
台湾ではすでに行なわれている取り組みで、政府がつくったプラットフォーム「公共政策網路參與平臺(ジョイン)」では、誰でも法案を提案できます。そのアイデアが一定数の賛同を得た場合、行政の関連部門は2カ月以内にその提案に対して回答しなければならないルールもある。
台湾ではその結果、10年で約200本の法案が通っています。このようなシステムがあれば、「自分の提案次第で社会が変わるかもしれない」という体験をつくることができます。それが積み重なれば、若年層の政治的効力感も上がり、投票率も上がるのではないでしょうか。そして最終的には世代間の分断の緩和につなげたい、というのが僕の考えです。
――デジタル民主主義を参照するうえでは、やはり台湾が一つのモデルケースとなるのでしょうか。
【安野】そう思います。欧米諸国は良くも悪くも民主主義が育った場所なので、現状のかたちを変えることには意識的にも困難が伴うように思います。加えて欧米では、日本や台湾と比べてはるかに深刻な分断が広がっています。分断が進みきっていないほうが、社会全体として新しい仕組みを一緒に模索することができるはずで、その意味でも日本は、台湾のようにデジタル民主主義を推進しやすい土壌があると言えそうです。
台湾についてもう一つお話しすると、多民族の社会なので言語的にも国内の多様性が高く、さらに中国との関係性という問題も抱えていますから、ある意味では「自分たちの軸」を打ち出すことが求められる。そうした流れのなかでオードリー・タンさんのような方に政治的な活躍の場が与えられ、デジタル民主主義が実装されていったのでしょう。
また、「アジア的世界観」という表現は言い過ぎかもしれませんが、一神教に対して多神教の価値観のほうが多党制に近いモデルと親和性があり、さまざまな背景がある者同士でコミュニケーションをとるうえでのモードチェンジをしやすいかもしれません。
これは日本政治にとって、今後の重要なテーマの一つだと言えるでしょう。というのも、7月の参院選では自民党や公明党、立憲民主党という既存のプレーヤーが勝ちきれませんでした。SNSが登場し、社会が多様化した結果、新しい政党が伸びたのです。
僕はこれを「マクロトレンド」だと認識していて、新聞やテレビなどのマスメディアしかなかった時代から、細分化したメディア環境に変わったことも背景にあるでしょう。こうした傾向も含めて、社会全体に「多党化」の流れがあるのならば、そのなかでいかに物事を決めていくかが問われてくる。
ところが政界には依然として、従来めざされてきた二大政党制で物事を決めることに最適化されたプロトコルがあります。可及的速やかに、霞が関と永田町がどのようにコミュニケーションをとるか、与党は野党とどう協議するかといった根本的な部分から、多党化の時代に適切なかたちへ変えなければいけないはずです。
――近い将来に「AGI(人間のような汎用的な知能をもつ人工知能)」が登場するとされます。安野さんはAI教育や安全性に対する投資の重要性も訴えていますが、将来の社会についてはどう想像されていますか。
【安野】テクノロジーの進化については「ソフトランディング」は難しく、負の影響は少しずつ出始めると覚悟しています。でもそれを放っておくわけにはいかないので、安全に対する投資などの膨大な作業にも速やかに着手するしかない。AIの進化に対してどれくらい「ショック」を緩和できるかが、ここ10年の政治の大きなテーマになるはずです。
正直に言えば、AGIが登場したあとの世界がどうなるかは、誰にもわかりません。でも僕は、人間って暇になったらきっと「遊ぶ」生き物だと思うんです。ならば、皆が「全力で遊ぶ」世の中になればいい。
お祭りがわかりやすい例で、学校の文化祭だって多くの学生がものすごい熱量で打ち込んでいるわけです。どんな時代が訪れても、たとえばチェスや将棋は指されているだろうし、小説やマンガが読まれたり、つくられたりしているはずです。こう考えていくと、人間が文化で人生を全うする未来があり得るかもしれないし、その意味でも、多様な文化を守り、育てていく重要性を強く認識しています。
【安野貴博(あんの・たかひろ)】
参議院議員/チームみらい党首。1990年生まれ。東京大学工学部卒業。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にAIチャットボットの株式会社BEDORE(現PKSHA Communication)を創業。18年にリーガルテックのMNTSQ株式会社を共同創業。21年、『サーキット・スイッチャー』で第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞し、作家デビュー。24年7月、東京都知事選に立候補し、「デジタル民主主義」を掲げて15万票超を獲得。24年11月には、東京都のデジタル化を推進するGovTech東京のアドバイザーに就任。25年7月、参議院選挙に初当選。党首を務める「チームみらい」が国政政党となる。
更新:03月06日 00:05