2020年01月13日 公開
2020年01月16日 更新
オーストラリアにおける中国のシャープ・パワー戦略の展開で挙げられるのは、孔子学院と中国人留学生などによる大学への浸透などと並行してオーストラリア政治の取り込みを行ったことである。
そして、そのなかで言論の封じ込めという要素が連動してくる。中国がオーストラリアをターゲットにして、いかに文化・教育の交流を積極的に展開してきたかは、孔子学院の配置を見るとよくわかる。
オーストラリアにある大学の数は41だが、うち14大学に孔子学院が設置されており、じつにオーストラリアの大学の3分の1に孔子学院があるということになる。
また豪政府の統計によれば、2017年7月現在でオーストラリアに留学に来ている外国人留学生は56万4869人。うち中国出身者は29%で16万4000人。大学・大学院生は13万1000人であり、最大勢力である。
こうした状況が、たんに中国がオーストラリアでの中国語普及に関心をもっている、というだけなら問題はないわけだがそうではない。
中国に対して批判的な言動を行うと、猛烈な抗議と圧力を掛けてくる中国人学生の行為がオーストラリアで増えてきており、それに対する中国政府のアシストも同じように明確に見て取れるのである。
ある教授の中国に対する見解に不満を表明してネットで話題になった一人の中国人学生は、現地の領事館に定期的に招かれて歓迎された。さらにその際に、キャンパス内で中国人学生がどのような言動をしているか尋ねられたともいう。
こうしたことは必ずしも中国政府の考えに納得していない他の中国人学生の、自由な言動を自粛させることにもつながっている。
他の事例では豪ニューカッスル大学で、ある教員が台湾を独立国として扱って発言したところ、中国人留学生がそれをひそかに映像に撮ってネットにアップして、「教室に3分の1いる中国人学生を不快にした」とつるし上げた。
またオーストラリア国立大学では、中国が警戒する法輪功(気孔を健康法として提唱するが、宗教的側面もある)の新聞が学内の薬局に置かれていたのを見つけた中国人学生が、そのことに抗議。激しい抗議に危険を感じたその薬局は新聞の撤去に応じることを強いられた。
こうした中国の弾圧に対して、オーストラリア政府が何らかのアクションを起こすのかと思いきや、オーストラリアの政治はすでに中国マネーにからめ取られていた。
オーストラリアにとって最大の貿易相手国である中国との経済関係は重要である。同時に、中国にとってもオーストラリアは太平洋において経済でも地政学的にも戦略的な価値があるため、とくにターゲットにしてきた国だ。
そうした中豪関係のなかで、オーストラリアの選挙資金制度は外国からの寄付・献金が合法であり、それがどこから来たお金なのか、どのように使ったのかなどを追跡することが難しく、透明性も低い。
アメリカやカナダ、ほとんどの欧州の国々ではその種の献金は広く禁じられているが、それがないオーストラリアには中国が関与できる余地を生んだ。
そして、そこから生まれた中国勢力の政治的な介入が同国における学問や言論の自由な活動を押さえ込み、中国の行為への批判的な発言を封じているのである。
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更新:11月25日 00:05