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国際法の日本vs歴史認識の韓国、相容れない対立の本質とは

2019年09月20日 公開
2022年07月08日 更新

篠田英朗(東京外国語大学教授)

歴史認識に関する防ぎ手

歴史認識については、守りの態度が必要だ。慰安婦問題や徴用工問題は残念な歴史である、という考え方を反映した態度が必要だ。韓国世論に対してだけでなく、国際世論に対してアピールするためである。

加えて、民族の独立への思いに対する尊重や、苦難の人生を送った者への敬意を表明してもいいはずだ。

そうした人間味のある姿勢を見せたうえで、元徴用工をめぐる具体的な史実をめぐる情報なども、しっかりと英語で簡易に参照可能なかたちで、提供していかなければならない。

国際世論に訴えるために、第三者が見る情報の提供が重要である。

根源的な問題は、日韓併合の歴史認識である。韓国は、歴史認識の問題として、これを「植民地主義」の問題として捉え、国際的なキャンペーン活動もしている。しかし実際には「併合」である。

日韓併合を過度に美化すべきだということではない。

しかし「植民地主義」の結果だったという歴史認識が確定してしまえば、実態とは乖離した人種差別や排外政策および迫害のイメージが、史実とは関係なく独り歩きしてしまう。

地政学的事情を踏まえつつ、当時の国際法では違法ではなかったという歴史認識を語る機会を増やしたい。

1907年にオランダのハーグで開かれた第2回万国平和会議に大韓帝国(韓国)の皇帝高宗が密使を派遣し、日本が韓国の外交権を握った第2次日韓協約の不当性を各国に訴えたことがある。各国は訴えに耳を貸さなかった。

事態を問題視した日本は、高宗を退位させ、1910年に韓国を併合した。伊藤博文は、当初は外交権の確保だけで十分で、併合は不要だと考えていたという。

しかし「ハーグ密使事件」後の韓国内の情勢と、地政学的な事情を踏まえて、最終的に併合やむなしの意見に傾いた。日本は、むき出しの植民地主義的野心に追い立てられて韓国を併合したわけではない。

1905年の桂・タフト協定は、大日本帝国がフィリピンにいっさい野心をもたないことと、アメリカが日本の大韓帝国の保護国化を認めることを、交換的に、確認した。

ヨーロッパ諸国も、数百年の歴史を通じて、「勢力均衡」などを理由にした隣国の「併合」政策などに慣れていた。諸国は、そのような行為のことを「植民地主義」とは呼ばない。

戦前の日韓の歴史について、事実を記述する研究を推奨し、歴史を語る機会を増やすべきだ。地政学的事情を話したところで、韓国人が納得するわけではないだろう。

しかしイデオロギー先行の歴史認識がはびこりすぎている。守りの意識の程度で淡々と、英語で、歴史を語っていく機会を増やしたい。

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