2018年09月05日 公開
2024年12月16日 更新
9月20日に自民党総裁選を控えるなか、安倍政権は「地球儀を俯瞰する外交」を展開し、アメリカやオーストラリア、インドとの連携を深めるインド太平洋戦略を掲げる。平和構築を専門とする国際政治学者・篠田英朗氏と、外交官を経験した参議院議員・松川るい氏は安倍外交をどう見るのか。2018年8月某日、激論が交わされた。
写真:遠藤宏
篠田 安倍政権の外交政策で特徴的な点は、インド太平洋戦略のようなグランド・ストラテジー(大戦略)の重視です。インド太平洋戦略は、麻生太郎政権が掲げた「自由と繁栄の弧」から、インド、オーストラリア二国により重きを置いた概念に映ります。
松川 インド太平洋戦略も「自由と繁栄の弧」と基本的発想は同じです。ただ、「自由と繁栄の弧」は、民主主義や法の支配などの普遍的価値を重視する政策です。
インド太平洋戦略は、中国に対峙する点は共通していますが、海洋における航行の自由とインドの地政学的重要性がより明確になっています。
その理由は、中国が「真珠の首飾り戦略(香港からスーダンまで延びる海上交通路戦略)」や「一帯一路」を標榜し、南シナ海のみならずアフリカにまで進出するなど、中国の行動がより具体化しその地政学的影響が顕著になってきたからです。
中国の進出に対応するために必要なのが海洋航行の自由であり、海上ルートの要衝であるインドとの関係強化なのです。
冷戦時代、米ソのどちらにも与せず自主独立を貫いてきたインドを日米同盟の側に引き込むことがインド太平洋戦略の根幹であり、リアルポリティックに軸を置いた海洋国家連合というビジョンが見て取れます。
篠田 インド太平洋という概念は元来、海洋学の分野で生まれ、それを安倍首相が国際政治に持ち込んだとされています。その発想の根底には間違いなく、地政学があります。
東南アジアから中東に至る地域はいま、インド太平洋戦略と一帯一路構想のせめぎ合い、という構図になっています。
そのなかでインドは唯一、ユーラシア大陸に属する国であり、本来の地政学理論で見ると海洋国家ではない。しかし巨大な半島で要衝としての重要性が高いため、海洋国家連合の橋頭堡としての役割を見出されたわけです。
ところがインドは、前述した冷戦期の振る舞いからもわかるように、情勢に応じて合理的に行動する国です。BRICS(2000年代以降著しい経済発展を遂げているブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国)や上海協力機構に入って中国やロシアとの関係を保ちつつ、日米とも協調する両睨みの外交を行なっている。
日本はこうしたインドの基本的な性格を踏まえたうえで、インド太平洋戦略のメッセージをこれからも送り続けるべきでしょう。
松川 おっしゃるように、インドの振る舞いはある種、便宜的な面があり、日米陣営に全面的に入ったなどと勘違いすべきではありません。インドは自国の国益に資する限りにおいて日米と連携しているにすぎないし、日米がどう振る舞うかもじっと見ていることでしょう。
じつはインド太平洋戦略も一帯一路のいずれも参加をオープンにしていますから、建前上は互いに一定の連携を取ることも可能なのです。現在の米中対立構造では現実的ではありませんが、中国次第で今後のバランスは変わる可能性があります。
インドについては、安倍総理が2007年にインドを訪問したことや、中国の海洋進出もあり、海洋安全保障の面では日米と連携する方向に舵を切っています。
今年7月30日、アメリカがインド太平洋地域のインフラ整備支援に125億円を拠出すると発表したことは、大いに歓迎すべきでしょう。
もちろん中国経済の影響力は巨大ですから、インドやASEAN(東南アジア諸国連合)の国々は、中国の安全保障面での脅威に対抗しながらも、経済的協調を重視しています。日本も中国とは安全保障面では譲れませんが、経済的には相互依存関係にあります。
インド太平洋戦略と一帯一路は、冷戦期の米ソのようなイデオロギー対立とは異なる次元での複雑なせめぎ合いである、と考えられます。
更新:12月22日 00:05