2018年12月26日 公開
2024年12月16日 更新
本サイト「篠田英朗 揺れる「元徴用工」判決、韓国に国内法と国際法の『調整』を求めよ」に引き続き、日韓双方の国内法学者が陥りがちな「憲法優位説」、そして「元徴用工」判決が東アジアをめぐる安全保障環境に及ぼす影響について指摘。
※本稿は『Voice』2019年1月号、篠田英朗氏の「教条的な国内法学者の異常さ」を一部抜粋、編集したものです。
法律論として韓国大法院判決を見た際に気になるのは、日本国内の足元での国際法軽視の風潮だ。
日本の憲法学界を中心とした法曹界こそ、「憲法優位説」を主張して、憲法を持ち出せば国際法は軽視してよいかのような雰囲気をつくり出している。
実態として、司法試験でも公務員試験ですら、憲法を中心とする国内法の「基本書」にもとづく知識が必須である一方、国際法はまったく勉強しなくてもよい仕組みになっている。日本の法律家の国際法知識の欠落に驚くような場面に出合うこともよくある。
今回の韓国大法院判決は、いわば日本の憲法学界が長年主張している「憲法優位説」に依拠したものだ。
大韓民国憲法は、その前文で、次のように宣言している。
「悠久なる歴史と伝統に輝く我が大韓国民は、三・一運動によって建立された大韓民国臨時政府の法的伝統……を継承し……」
「三・一運動」とは、韓国併合後の1919年に、日本の統治に反対して沸き起こった運動のことを指す。つまり、韓国の憲法それ自体が、日本による統治を否定してつくられた「臨時政府」の正当性を認め、その「法的伝統」なるものを受け継いでいることを宣言しているのである。
そう考えると、韓国大法院が「植民地支配と直結した不法行為」について語ること自体は、少なくとも国内憲法との関係でいえば、ありうることである。
もちろん大韓民国憲法は、その第6条1項において、次のようにも定めている。
「憲法に基づいて締結し、公布された条約および一般的に承認された国際法規は、国内法と同等の効力を有する」。
日本国憲法98条2項にも条約遵守義務が書かれているが、日本の憲法学の基本書では、そこはむしろ「憲法優位説」を力説する場となっている。
韓国政府は、自国の大法院の決定を理由にして、国際法(二国間協定)遵守の義務の免除を唱えることはできない。韓国大法院も、請求権協定それ自体を否定したわけではなかった。
ただそれでも今回、韓国大法院は、伝統的な協定解釈を否定し、国際法に対する憲法優位説を取るかのように、「三・一運動によって建立された大韓民国臨時政府の法的伝統」に沿った立場を選択した。
国際法を見ず、「調整」の必要性を認めない教条的な国内法学者は、日韓の違いを見ず、一方的に憲法優位説を唱える。
ほんとうの日本国憲法は、憲法学者がつくったものではなく、むしろ国連憲章などの国際法規範を重視する者たちがつくったものである。
もともとは、日本国憲法前文も、9条1項も2項も、国際法との「調和」を希求する意図でつくられたものだった。
ところが、日本の憲法学者は、そのような解釈を否定する。そして憲法学の基本書を根拠として、声高に「憲法優位説」を主張し、いわば日本の憲法学通説の国際法に対する優越を主張する。
こういった教条的な態度は、危険である。日本でも、韓国でも、危険である。
国際社会の秩序を重んじ、国際法を踏まえた「法の支配」を尊重するならば、憲法の尊重は、国際法の軽視のことではない、ということを、真剣に受け止めなければならない。まず日本国内の足元の議論から、見つめ直す必要がある。
更新:12月28日 00:05