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「INF条約失効」でミサイル射程距離に入る日本の危機

2019年09月17日 公開
2022年01月17日 更新

能勢伸之(フジテレビ報道局上席解説委員)

 

米ソの合意で最大の恩恵を受けた日本

だが、米ソ交渉に決定的な影響を与えたのは、次のようなアイディアだったようだ。1987年6月、ベネチア・サミットに出席した中曽根首相は、INF交渉について次のような考えを表明したという。

「アジアの犠牲においてヨーロッパの問題が解決されてはならない。…終始それを私は強く主張してきた。ソ連側がどうしてもシベリアに百置くということを主張した由であります。

それに対して、アメリカはアラスカを含むアメリカ本土に百置く権利を留保する。アメリカは本土に百という権利を留保すると言っているわけでありますから、ゼロにするためにそういう交渉上の道具をアメリカが持つということを私は容認してしかるべきである」(1987年7月6日 衆議院・本会議)

ソ連が、ソ連領内に配備を進めていたINF射程の兵器は、ワシントンDCやロサンゼルス等、米国本土には届かないが、米領アラスカのほか、NATO諸国や日本など、米の同盟国には届く。

それに対して、米が欧州NATOやアラスカにINF兵器を配備すれば、ソ連本国を射程にすることになる。これは、当時のソ連にとっては、日米からの強烈なメッセージとなっただろう。

米ソがINF条約に署名したのが、1987年12月8日。結果は、中曽根首相の主張どおり、対象地域を欧州に限定せず、米ソ(のちにロシア)は、射程500㎞から5500㎞の地上発射弾道ミサイルと地上発射巡航ミサイルを全廃することで合意した。

これによって、ソ連が「シベリアに百置く」こともなくなり、日本も安全保障上の利益を得たかたちとなった。

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