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英・仏・独の世論は「米国よりも中国を『頼りにすべき』」と見ている この時代に日本の首相が持つべき大局観とは

田村重信(政治評論家、元自民党政務調査会調査役)

アメリカと中国の国旗

いま英仏など米国の同盟国の中で、米国よりも中国のほうが「頼りにすべき」と見なす動きが広まっている。高市政権が持つべき大局観とは何か。自民党政務調査会職員として9人の首相に仕えた田村重信氏が、安倍晋三氏の例を挙げながら論じる。

 

「米国よりも中国を頼りにすべき」

私は2018年に自民党本部定年退職をするまで、政務調査会職員として9人の総理に仕えてきた。その経験を通じて実感しているのは、危機の時代にこそ、指導者には大局観が求められるということである。

いまの世界は、大国による力の行使が横行する危機の時代であり、指導者には広い視野を持って現下の情勢を把握する姿勢が求められるといえよう。

その点でわれわれがまず押さえておくべきことは、じつは米国の同盟国で、「トランプの米国よりも中国を頼りにすべきで、中国の技術のほうが米国より優れていると思っており、さらに10年後の世界の覇者は中国であると思っている」という世論調査の結果が出始めていることだ。その結果に対する評価はさまざまな見方があるかもしれないが、私たちはその現実から目を背けることは許されない。

以下、遠藤誉著『G2構想 勝つのは米国か中国か』(PHP新書)の記述から引用しながら、この世論調査の詳細について述べていく。同書の文言をかなり使っているが、世界の現実を知るためには非常に重要な記述なのでお許し願いたい(もちろん遠藤誉氏の許可をいただいた)。

『G2構想 勝つのは米国か中国か』によれば、2026年3月15日、米メディアのポリティ(POLITICO)がイギリスの世論調査会社パブリック・ファースト(Public First)に依頼して、米国とそのトップ同盟国(米国、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ)を対象とした世論調査を発表したとのこと。

まず、「トランプの米国と中国、どちらを頼りにするのがよいか?」という問いについて、下記のような結果が出ている。

図表4‐1:トランプ大統領が統治する米国と中国、どちらを頼りにするのはよいか?

 

(前掲書より転載)

この結果には私も驚いた。どの国も「トランプの米国より中国を頼りにするのがよい」と回答している。特にカナダは中国が57%、米国が23%とダブルスコアで中国が勝っている。

これは遠藤氏も同書で分析している通り、トランプがカナダに対して「カナダを米国の第51番目の州にする」と暴言を吐いたことが大きく影響しているのだろう。私も先日カナダを訪れたのだが、トランプに対する反発を如実に感じとった。

 

10年後には中国が覇権国になるという予測

このアンケートの結果をさらに二つ紹介しよう。「米国と中国、どちらの技術が先進的か?」という質問に対しては下記のような結果が出ている。

図表4‐2:最も先進的な技術を持っている国は中国か米国か?

 

(前掲書より転載)

こちらも米国以外の4か国が、米国よりも中国のほうが先進的な技術を持っていると見なしている。

実際の両国の製造業と軍事力の分析は『G2構想 勝つのは米国か中国か』で的確になされているので、現実を直視するために是非読んでいただきたいのだが、端的にいうと中国の製造業は米国のそれをはるかにリードしている。

そして、「米国と中国、10年後にはどちらが覇権国になっているか?」という質問に対しては、下記の結果が出ている。

図表4‐3:10年後に世界の覇権国となるのは中国か米国か?

 

(前掲書より転載)

遠藤氏は、同世論調査に答えている米国の同盟国が全て『10年後には中国が覇権国となる』と考えているというのは、相当に衝撃的な話だと述べているが、全く同感である。そして遠藤氏は「決定打となったのは、このたびのイラン攻撃だ。イラン攻撃によって、トランプはイスラエル一国を除いた全世界、とりわけ同盟国の信用を失った」と分析しており、たしかに米国はこの世論調査の後に行なわれたイラン攻撃によって、さらに同盟国の信頼を失ってしまったといえよう。

 

中国に対する高市政権の姿勢

このような世界の情勢に対して、日本はどう向き合っているか。

まず対米関係だが、遠藤氏が同書で指摘している通り、上記のイギリス、フランス、ドイツ、カナダほか世界各国が、いずれも米国のイラン攻撃を批判する意思表明を出しているが、日本はイラン攻撃に対して公式な批判の声をあげていない。日本政府に言わせれば「日米首脳会談で衝突するのは避けるべき。下手なことは言えない」ということだろう。その立場もわかるが、私は日米関係が重要であればこそ、日本はもっと米国に対して毅然とした態度をとるべきだと考えている。元米国国防総省アジア・太平洋部局特別補佐官のマイケル・グリーン氏が私に対して「横須賀に米軍基地があることで、米国は非常に助かっている」と述べたことがあるが、独立国に米国基地が多数あるという現状を、高市政権はもっと対米関係において重視すべきだろう。

その一方で、対中関係が冷え込んでいるのは戦略的な観点からも気にかかる。そのきっかけとなったのは、言うまでもなく2025年11月の「高市発言」(中国が台湾に対して戦艦による武力行使を行なった場合、日本の存立危機事態になり得る、という内容)であるが、私はさらに、高市政権で「議員外交」が実行されていないことを懸念している。議員外交とは超党派の日中友好議員連盟などによる訪中を指すが、高市政権が発足してから、日中友好議連の中国との接触は、非公式の場にとどまっているのだ。

もし高市氏本人が、中国に対する交渉をスムーズにすすめることができないのであれば、このような議員外交を進めるというやり方もあるはずだが、このチャネルも活用されていない。高市政権のこのような姿勢は、ややバランスが欠けているのではないかと心配だ。

 

安倍元首相がいま、政権を担っていたら...

では、歴代の総理でバランス感覚に優れていた総理は誰かと問われれば、候補の一人はやはり安倍晋三氏になるのではないだろうか。

周知の通り安倍氏はトランプ大統領と非常に親密な関係を結んだが、ロシアのプーチン大統領とも信頼関係を結んでおり、名うての外交上手の首相として知られた。外交面だけでなく、国内の政治家同士の付き合いでも、安倍氏はバランス感覚に秀でていた。他の政治家と比較して言えば、橋本龍太郎や小泉純一郎は、我が道を進むタイプの政治家で、両氏は会合にあまり参加せず、「つき合いが悪い」と言われても気にしなかった。逆に、総理の座をつかめなかった安倍晋太郎や渡辺美智雄は、周りに対して丁寧すぎた。彼らのような態度だと、総理になった場合、すぐ疲弊してしまっていただろう。

そして安倍晋三氏は、この両者の両方の面を兼ね備えた総理であった。だからこそ、長期にわたって安定した政権運営を行なえたのではないだろうか。

読者のなかには、「安倍氏の対中外交はあまりうまくいっていなかったのではないか」と考える方もいるだろう。たしかにそのような面があったことは否定できないが、いまは、トランプ氏と習近平氏が一定の関係を結んでいる時代である。私はもしも現在、安倍氏が政権を担っていたら、大局的な戦略眼から、あえて中国との関係強化に動くのではないかと推測する。仮に安倍氏個人が難色を示したとしても、周囲の側近がそのように促したのではないか。

安倍氏は周囲の側近に仕事を任し、側近の声に耳を傾けることができる首相であった。高市氏がXで、自らが膨大な量の仕事をこなしていることを示唆するポストをしたことがあったが、自身の職務に対する責任感とは別の話として、周囲に仕事を任せることも首相にとっては重要なことである。そうしなければ、指導者の「大局観」は生まれてこないのではないだろうか。一国の首相にはやはり、世界情勢を的確に把握する大局観と、周囲に仕事を任せる姿勢が不可欠であるといえよう。

プロフィール

田村重信(たむら・しげのぶ)

政治評論家、元自民党政務調査会調査役

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