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大卒ホワイトカラーは危険な道? トランプ関税・移民対策が変える若者の人気職

渡瀬裕哉(国際政治アナリスト)

工場

AIの台頭が労働市場の構造を変え、米国の若者の間では「手に職」を求める動きが加速している。パシフィック・アライアンス総研所長の渡瀬裕哉氏によれば、この技能職への回帰は、トランプ政権が掲げる関税・移民対策による「海外の労働者に依存してきた構造を見直す」方向性と合致するという。書籍『トランプ・高市同盟で日米は繁栄する』より解説する。

※本稿は、フレッド・フライツ、スティーブ・イエーツ、渡瀬裕哉著『トランプ・高市同盟で日米は繁栄する』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

ホワイトカラーの仕事は、エリート層以外にとっては危険な道

ワシントンDC近郊に居宅を構えていたころ、街中で非常に多くの配管工トラックが走っている光景を見かけた。冬になると水道管が凍結して、ヒビなどが入りやすいことが原因であった。筆者もちょっとした油断で水道管を破裂させ、配管工に自宅の修理を頼んだことがある。彼が現場状況を診断し、すぐに適切な処置をしてくれて非常に助かった。

人間が生きていくためのサービスや商品は、デスクワークのホワイトカラー労働者のみで提供できるものではない。実際には、熟練した技能を持って現場で仕事をする人や、汗を流して働く人材が必要だ。

米国の学歴競争は厳しい。そして、高レベルの学歴コミュニティに加わることは成功への切符であると考えられてきた。実際、一流大学大学院のコミュニティは排他的であり、さながら現代の貴族階級のように見える。

しかし、かつては憧れとされてきたステータスも、近年の高等教育の学費の著しい高騰もあり、Z世代においてはやや見直されつつあるようだ。法外な学費を支払い、人生の船出に際して莫大な借金を背負うことに本当に意味があるのか、と考えることは妥当な問いであろう。

実際、米国労働統計によると、2024年に仕事を失った米国人労働者の4人に1人が専門的およびビジネスサービスに属していた。これはホワイトカラーの労働市場が高金利とAI(人工知能)による代替などの影響で厳しさが増しており、米国の労働市場が静かな構造変化に直面しつつあることを示唆している。

そして、いつの時代も若者は時代の変化に敏感である。若者の間ではキラキラした学歴の代わりに、実践的な技能を身に付けるための職業訓練を重視したコミュニティカレッジなどの人気が高まりつつある。全米学生情報センターによると、2019年から2024年春にかけて、学士号取得者数は3.6%減少し、準学士号取得者数は15.9%減少する一方、専門学校進学率は同時期に4.6%増加しているとのことだ。

ホワイトカラーの仕事の多くはAIによって代替される可能性があり、実は中長期的な雇用安定の面から考えても、ごく限られたエリート層以外にとっては危険な道だと認識されはじめているのだろう。

 

AIで代替困難な職種の給与は上がり続ける

直近では、熟練工がホワイトカラーの給与を上回ることはザラにあり、建設などの分野を中心として新卒給与などで上回る例も出てきている。理由は簡単で、専門的な技能職は人手不足に陥っているからだ。

そしてトランプ政権が重視する方向は、この米国のトレンドに合致するものだ。なぜなら、空調の利いたオフィス内で怠惰を貪ってきた米国の労働者がまともに働くようになるための政策だからである。

トランプ政権は製造業の海外移転を防止し、米国内に雇用を戻すことを狙っている。もちろん関税によって物の価格は上がり、その点においては米国民が必ずしも豊かになるとはいえない。関税は米国民の消費生活に一定の悪影響を及ぼすだろう。

しかし、同時に米国民は海外の労働者に働かせてサービス・商品を消費する、という怠惰な人生を見直さざるを得なくなる。そして、トランプ政権による不法移民対策は米国の雇用市場をさらに圧迫し続けることになる。従来は不法移民が代替してきた仕事も、米国民自身の手元に戻ってくるのだ。

今後、AIなどで代替しにくい専門技能職やエッセンシャルワーカーの担い手の給与は上がり続けていくだろう。トランプ政権の経済政策は米国民に汗水垂らして働く生活を思い出させることになる。

 

プロフィール

渡瀬裕哉(わたせ・ゆうや)

パシフィック・アライアンス総研所長/国際政治アナリスト/早稲田大学招聘研究員

早稲田大学大学院公共経営研究科修了。米国共和党と強い人脈を持ち、機関投資家・ヘッジファンドなどを対象とした講師としても活躍。

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