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イラン攻撃から抜け出せないトランプ そもそもネタニヤフの甘言に敗けたのが失敗

遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ようやく停戦合意の覚書に署名したというのに、トランプがまた激しいイラン攻撃を始めている。そもそも、歴代の大統領でイランへの攻撃を命じたのはトランプしかいない。トランプはなぜ、イスラエル・ネタニヤフ首相からのイラン攻撃の要望に応じたのか。遠藤誉氏が鋭く分析する。

※本稿は、遠藤誉著『G2構想 勝つのは米国か中国か』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

歴代大統領は誰も手を出さなかった「イラン攻撃」

トランプはイラン攻撃を「これまでどの大統領もできなかったこと」と自慢しているが、「できなかった」ではなく「しなかった」のだと、2026年4月13日にヒラリー元米国務長官がMS NOWの番組「モーニング・ジョー」に出演して、以下のように批判している。

●私はこれまでイスラエルのネタニヤフ首相の「イランとの無期限戦争」への意欲に反対するため、何度も長時間の話し合いを重ねてきた。トランプが「イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性があると誰も教えてくれなかった」と言ったのは衝撃的だ。私が参加したあらゆる「戦争ゲーム」(シミュレーション)で、イランが最初に取るであろう行動として想定していたのは、まさに「ホルムズ海峡封鎖」だった。

●ネタニヤフが歴代のアメリカ大統領全員にイランとの無期限戦争に同意させようとしてきたことも、私自身の経験から知っている。私はネタニヤフや彼の戦争内閣とこの件について何度も何度も長時間話し合ったからだ。私は、明確な最終目標が定まっていない、「イランに対して何かをしたい」というネタニヤフの漠然とした願望に賛同することを拒否した。(ヒラリーの発言は以上)

4月10日に、ケリー元米国務長官が同じMS NOWの「ザ・ブリーフィング・ウィズ・ジェン・サキ」のインタビューに応じて、以下のように回答している。

●ネタニヤフはかつて歴代米大統領にイラン攻撃をくり返し迫ったが、同意したのはトランプだけだった。ネタニヤフとは複数回にわたって協議を行なったが、彼は常にわれわれに攻撃を仕掛けるよう望んでいた。

●ネタニヤフは、この提案をオバマ前大統領にも直接提示したが、オバマは拒否した。ジョー・バイデン大統領も拒否した。ジョージ・W・ブッシュ大統領も拒否した。これに同意した唯一の大統領は、明らかにトランプ大統領だけだ。(ケリーの発言は以上)

ネタニヤフの首相在任期間と、そのときの米政権を記すと以下のようになる。

・1996年6月18日〜1999年7月6日(クリントン政権)
・2009年3月31日〜2021年6月13日(オバマ政権、トランプ1.0政権、バイデン政権)
・2022年12月29日〜現在(トランプ2.0政権)

ネタニヤフが30年の長きにわたって首相を務めてきたというのも驚きだが、それ以上に驚くのは、クリントン政権から始まって五代の政権にわたって「イラン攻撃」を呼びかけ続けてきたという、その「悪の執念」だ。

これまで中東ではアフガン戦争やイラク戦争など、次から次へと戦争を仕掛けてきたアメリカだが、イラン攻撃だけは避けてきたのは、イランの領海内にはホルムズ海峡があるからだ。ホルムズ海峡は国連海洋法条約上の「通過通航権」の行使が認められる「国際海峡」ではあっても、「ホルムズ海峡封鎖」という手段に出られたら、世界の石油市場が混乱して、アメリカは窮地に陥る。これまでの大統領はこのことを知っていたということが、ヒラリーやケリーの発言から真実味を帯びて見えてくる。

トランプにもこのたび、「イランがホルムズ海峡封鎖に出たときのアメリカの窮地」に関して注意を喚起した者がいたと、4月7日のニューヨーク・タイムズが報じている。それによると、統合参謀本部議長のケイン将軍が「イランを攻撃した場合のホルムズ海峡封鎖の危険性」に関してトランプに注意を喚起し、「閣下、これは私の経験上、ネタニヤフの常套手段です。いつも誇張して宣伝しているだけで、われわれの力が必要なので強引にイラン攻撃を売り込んでいるだけです」と忠告した。しかしトランプは「そのような事態になる前にイランは降伏するだろう」と主張して、その危険性を否定したという。

CIA長官(ラトクリフ)も「ネタニヤフのイラン政権転覆シナリオ」を「茶番劇だ」と一蹴し、「達成可能な目標と考えるべきではない」と発言した。にも拘らず、トランプはそういった忠告には耳を傾けず、ひたすらネタニヤフの「甘い言葉」にのみくすぐられていったという。

ネタニヤフは、ベネズエラ攻撃の成功例を挙げてトランプの「自尊心」をくすぐった。トランプとしてはトランプ関税(相互関税)に違法判決が出たり、エプスタイン事件などの嫌疑でも追及されて窮地に立ったりしていることもあり、ネタニヤフの甘言のほうに傾いていったのだろう。

ネタニヤフは、ベネズエラ攻撃におけるマドゥロ大統領拘束連行による成功例を理由に、イランのハメネイ師など指導層全員を爆殺することによって、一気にイランを陥落させることができるとトランプに約束し、それを実行に移したものと考えられる。

しかし、イランは予想以上に強かった。政府転覆も起きなかった。

そして、歴代の米大統領が、それ故にイラン攻撃を回避していた通り、イランは奇襲を受けるとすぐさまホルムズ海峡を封鎖した。世界の石油価格が高騰すると、アメリカにおける石油価格も高騰していき、それにつれて車社会のアメリカのガソリン代も高騰し始めたので、トランプは焦った。そしてNATO諸国などに対して米軍基地の使用や護衛艦の派遣を要請したのである。

しかしNATO諸国もG7諸国も、それに応じなかった。

 

プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

中国問題グローバル研究所所長

1941年中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した「長春食糧封鎖」を経験し、1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『米中新産業WAR』、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』など多数。

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