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【AI時代】なぜシリコンバレーの天才たちは「世界の終わり」に本気で備え始めたのか?

柳澤田実(関西学院大学神学部准教授),大柴行人(ロバスト・インテリジェンス共同創業者)

アメリカ合衆国国旗

シリコンバレーの起業家たちはいま、メシア(救世主)的な使命感のもと、凄まじいエネルギーで技術を開発し、世界を変えようとしているー。若くしてAI企業を創業し、「フォーブス30アンダー30」(30歳未満の特筆すべき30人)にも選出された日本人起業家と、アメリカの終末論を調査・研究する注目の宗教学者が、「リバイバル(信仰復興)」の実態と日本が進むべき道を議論する。

※本稿は前後編の前編です。『Voice』2026年5月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

シリコンバレーで進む「終末後への備え」

【柳澤】大柴さんとの出会いは、ある財団が主催したシリコンバレーの「リバイバル」(信仰復興)と呼ばれる動きに関するセッション(公開討論)を聴いてくださったのがきっかけでしたね。

【大柴】はい。当時の僕は、ハーバード大学在学中に共同創業した企業を売却し、シリコンバレーの起業家としての自分のルーツを見つめ直していました。関連資料を貪るように読み、自分なりに探究を深めるなかで柳澤さんの話を拝聴してあまりに面白く、主催者に「お話を伺いたい」と紹介してもらいました。

【柳澤】大柴さんとは、それから何度かお会いする機会がありました。今日はシリコンバレーのリバイバルと連動する「アメリカン・ダイナミズム」、そして日本の進むべき方向性やポテンシャルについてお話しできればと思います。

【大柴】僕がいまなおシリコンバレーにいて衝撃を受けるのは、現地の起業家たちが共有している独特の「精神性」です。イーロン・マスク(テスラ/スペースX CEO)やサム・アルトマン(OpenAI CEO)が典型ですが、彼らは文字どおり人類の「終末」が近い、という強烈な危機感を抱いている。「自分たちが道を切り拓き、人類を救う」という、本人は合理的な思考のつもりでも、構造的にはキリスト教のメシア(救世主)的な使命感のもと、凄まじいエネルギーで技術を開発し、世界を変えようとしています。僕の周りでも、日常的にポスト・アポカリプス・プラン、「終末後への備え」を真剣に議論している起業家がいます。

【柳澤】私がシリコンバレーの教会に調査で訪れたとき、熱心なキリスト教徒でもある防衛テック企業の共同創業者のお話を聞くことができたのですが、この方もサバイバリズム(終末に生き残る術を身につけること)に熱心です。SNSにもアラスカで鮭を捕るトレーニングをしている様子を上げていました。

 

キリスト教保守派とテクノロジー

【大柴】シリコンバレーにおける起業家の「メシアになって世界を救う」という熱狂は、いまや隠しようのないものになっています。近年のOpenAIを巡る一連の分裂劇にも、じつはメシア論が介在しています。創業者のサム・アルトマンCEOのもとからダリオ・アモデイが離脱してアンスロピックを設立し、チーフ・サイエンティストのイリヤ・サツケヴァーらも新たなAIラボを立ち上げるなど、混乱が相次いでいます。

彼らはすでに十分すぎるほどの富をもっており、たんなる金儲けが目的ならば、独立の必要はない。彼らを真に突き動かしているのは、「私こそが人類を救うメシアなのだ」という強烈な自負であると、僕は見ています。あたかもカトリックからプロテスタントが分離し、さらに新しい宗派が次々と生まれたキリスト教史を彷彿とさせます。

【柳澤】大柴さんがおっしゃるように、終末論的な世界観とテクノロジーの加速主義は表裏一体の関係にあります。混沌とした世界のなかで新技術を開発し、AIの進化によるシンギュラリティ(技術的特異点)を突破することこそが世界を救う唯一の道であるという発想が、彼らのメシア的な使命感と結びついている。

彼らの思想のバックボーンには、間違いなくシリコンバレーの思想的リーダーの一人、ピーター・ティール(PayPal共同創業者)のようなキリスト教保守派の影響があります。「歴史の終わりを経た新たな秩序と世界の完成、最後の審判を経た救済」を信じる黙示禄的な歴史観が、彼らの強い駆動力になっています。

【大柴】僕自身、彼らの終末論的な不安を頭では理解できても、日本人の感覚としてはどうしても一歩引いて見てしまいます。シリコンバレーのど真ん中に身を置き、イノベーションを競うゲームを楽しみながら、彼らが語る終末への「救済」の物語に、同じ熱量でのめり込めない。そこでシリコンバレーの起業家としてのルーツ探しと同時に、自国の精神性や風土・身体に根ざす日本人独自のビジネスのあり方を考えるようになりました。

 

アメリカン・ダイナミズムの正体

【柳澤】現在のシリコンバレーの動きを理解するには、ヒッピー的なカウンターカルチャー(対抗文化)が隆盛した1960〜70年代に遡る必要があります。もともとシリコンバレーはこの時期、東海岸のエスタブリッシュメントであるWASP(ホワイト・アングロ‒サクソン・プロテスタント)への対抗軸として、西海岸に技術者や企業家が人と情報の流動性が高いエコシステムを築いたことから発展しました。ヒッピー思想やカウンターカルチャーとシリコンバレーの勃興は、当初から深く結びついています。

興味深いのは、今回のシリコンバレーのリバイバルを含め、アメリカ建国以来の四度の「信仰復興」が、60〜70年代のカウンターカルチャーのような「左寄り」のムーブメントと同時に生まれた点です。言い換えれば、既成概念を打破し、個人の自由を重んじるリベラル全盛の時代に、信仰こそ個人の自由だと考える保守派によって現在につながる信仰復興の種が蒔かれていたわけです。

実際、トランプ大統領への支援で注目を集めた福音派など、キリスト教保守派の勢力が水面上に現れるまでに、数十年にわたる準備期間がありました。福音派は、同じく60〜70年代に遡るリベラルな文化への反動として活発化し、トランプ政権の誕生によって一大政治勢力として可視化されたのです。

そしていま、福音派の台頭とは別のかたちで進行しているのが、前述のピーター・ティールを中心としたシリコンバレーの動きです。

たとえば2026年1月、ベネズエラ大統領拘束の作戦を支えたAI技術の一部を提供したのは、ティールが支援し、10年以上かけて育てた防衛テック企業のアンドゥリルでした。

2003年に共同創業者として立ち上げたデータ解析会社のパランティア(アメリカも含めた各国の政府や軍の情報分析を担うデータ解析企業)も関与しているでしょう。

ティールは「9・11」テロ以降、リベラリズムやグローバリズムの限界を強く意識し、この20年間着々と防衛テック企業やデータ解析企業を創業し、独自のキリスト教思想を発信しながら次の時代の到来に備えてきたのです。

こうして「キリスト教」と[ナショナリズム」が「テクノロジー」と重なり合い、顕在化したのが、現在のアメリカン・ダイナミズムだというのが、私の理解です。

【大柴】いまのお話を聞いて、現在の状況はむしろ1940〜50年代への回帰に近いのではないか、とも感じます。

テクノロジーの観点からアメリカの歴史を振り返ると、第二次世界大戦(1939~45年)中に暗号解読の手段として開発されたコンピュータは戦後、軍の上層部や一部の名門大学、大企業しかアクセスを許されない聖域、「権威の象徴」でした。そして現在の状況も、突出したAIの専門技術が「権威化」しているように思います。

シリコンバレー黎明期において、テクノロジーは、権威に対するカウンターカルチャーの象徴でした。技術を開発し続けさえすれば世の中は良くなるという「楽観主義」が支配的で、テクノロジーを個人に取り戻すという思想的な特徴があります。スティーブ・ジョブズらが広めたPC(パーソナル・コンピュータ)は、一部の権威しか利用できないコンピュータへのアクセスを可能にするものでした。

しかし2010年代後半になると、フェイスブックの不祥事(個人情報の大量流出や選挙干渉が問題化)やケンブリッジ・アナリティカのスキャンダル(SNSの個人データを政治広告に利用した事件)、さらにSNSによる社会の分断など、テクノロジーの弊害が次々と露呈してきました。

これに地政学的な緊張や、国家規模の資本を要するAI開発の熾烈な競争が重なった結果、現在、シリコンバレーの起業家たちは、政府や軍と再び結びつき、新たな「既得権益」をもつ「権威」へと変質しつつあるように見えます。

【柳澤】大柴さんがおっしゃるとおり、かつてカウンター(対抗)だったものが権威となり、そこからまた新たな対抗運動が生まれるというダイナミックな歴史的サイクルのなかにアメリカは身を置いています。かつてシリコンバレーでは、基本的に「無神論」「リベラル」であることがコミュニティのデフォルト(標準設定)でした。裏を返せば、キリスト教は「古い権威」の象徴と見なされ、忌避される対象でした。

ところが現在、構図が逆転して「反・リベラル」であることがトレンドになり、共和党支持者が増えた。ピーター・ティールらが批判する多様性の尊重(DEI)のような「リベラル」な価値観が教条主義(ドグマ)と見なされ、「古い権威」として忌避されている。規制の多い民主党アジェンダに対する不信感が広がるなかで、ティールらの掲げる技術革新のための共和党支持が浸透してきた側面もあります。

【大柴】ところがそのティール自身も、トランプ政権との結びつきを通じて急速に「権威」の側へと組み込まれていますね。

【柳澤】思うに、現在のアメリカ社会は右派・左派といった従来の枠組みを超えて、「富裕層」が既得権益層として右派・左派共通の問題となる時代にシフトしたのではないでしょうか。2024年の大統領選でトランプ大統領は、既得権益層を攻撃し、その腐敗を暴くことが期待されて、プアホワイト(白人低所得者)や若者の支持を得ることができた。

ところがシリコンバレーの富裕層との癒着やエプスタイン文書の隠蔽によって、最近はその期待が裏切られたと感じて支持を止める人も増え、先行きの見えないカオス状態になっています。

プロフィール

柳澤田実(やなぎさわ・たみ)

関西学院大学神学部准教授

東京大学21世紀CEO研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。博士(学術)。価値観の対立や変化について宗教などの文化的背景から研究。近年は米国の右派やテック業界におけるキリスト教復興に注目している。編著書に『ディスポジション:配置としての世界』(現代企画室、2008年)、訳書にターニャ・M・ラーマン著「リアル・メイキング:いかにして『神』は現実となるのか」(慶應義塾大学出版会、2024年)。

大柴行人(おおしば・こういん)

ロバスト・インテリジェンス共同創業者

高校卒業後、渡米。2019年、ハーバード大学にてコンピュータサイエンス・統計学の学士を取得。大学在学中に、「AIの脆弱性」を研究テーマにAIのトップ会議に複数論文が採択。同年に当時の指導教授とAIセキュリティ企業ロバスト・インテリジェンスを創業。セコイアキャピタルなどから資金を調達し、主要顧客にJPモルガン・アップル・IBM・米国防総省などを抱える。24年、シスコに事業を売却後、同社のAIチームを率いる。「フォーブス30アンダー30」に北米・日本両地域で選出。AIガバナンス協会代表理事。

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