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民間の自衛隊支援、自衛官の定年後、異なる視点から浮かび上がるその実相とは?【書評】

2025年07月01日 公開

奈良岡聰智(京都大学教授)

安全保障、災害時支援、海外派遣、等々、昨今様々な場面で語られることの多い自衛隊。その実相を異なった視点から追った書籍『自衛隊と財界人の戦後史』(ミネルヴァ書房)『定年自衛官再就職物語』(ワニブックス)について、京都大学教授の奈良岡聰智氏が紹介する。

※本稿は、『Voice』2024年7月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

60年代からあった民間の自衛隊支援

今年は、自衛隊が発足してから70周年となる。かつて自衛隊は、日本社会において必ずしも十分に認知されていない組織であった。1980年代までは自衛官が面と向かって「税金泥棒などと言われることも日常茶飯事であった。

90年代以降、安全保障環境の変化、阪神・淡路大震災や東日本大震災における自衛隊の献身的活動などをきっかけとして、国民の自衛隊に対する理解は格段に深まったが、それ以前は自衛隊と日本社会のあいだにいまでは考え難いほどの緊張関係が存在した。

自衛隊は、災害派遣、地元イベントへの積極協力などを通して、このような状況を打開するために涙ぐましいほどの努力を重ねてきた。一方、日本社会のなかにも反自衛隊的風潮に心を痛め、自衛隊を支援しようとする者が少なからずいた。

本書はこうした自衛隊支援ネットワークがいかに形成され、広がっていったかを明らかにした研究書である。自衛隊の支持組織や関連団体の実態を詳しく考察した研究は従来ほとんどなく、本書はきわめてオリジナリティの高い貴重な研究成果である。

著者がとくに焦点を当てているのは、松下幸之助ら財界人の動向である。

かねがね「世間や社会が自衛隊にちょっと冷たい」と感じていた松下は、1964年に大阪防衛協会が創設されるにあたって会長を引き受けた。同会には関西の有力企業がこぞって参加し、歴代会長や役員にはそれらのトップや有名文化人が就任した。

本書では、同じころ全国で組織された防衛協会が、講演会などの各種広報活動によって自衛隊員の激励や防衛思想の普及に取り組んだ様子が詳しく明らかにされている。

このように自衛隊を支持する動きは90年代以降いかに拡大し、現在どのような状況にあるのだろうか。研究のさらなる進展を期待したい。

 

定年自衛官のセカンドキャリアを考える

ウクライナ戦争勃発以降、将官クラスの元幹部自衛官がメディアに登場する機会が増えた。

日本では自衛隊以外で専門的軍事知識を体系的に修得するのは困難であり、彼らの経験や知識が重んじられるのは当然である。正確な軍事知識の普及のため、今後も積極的に発信を続けて欲しいと思う。

もっとも、年間6000人を数える自衛隊退職者のなかで、メディアに登場できるのはごく限られた一部だけである。自衛隊は精強さを維持するため若年定年制をとっており、ほとんどの者は50代で定年退職を迎える。

防衛産業や関連業界に再就職する者もいるが、多くの自衛官は制服を脱ぐと、現役当時とはまったく異なる職種に就くのが普通である。彼ら自衛官の「第二の人生」の実態は、これまで自衛隊関係者以外にはあまり知られてこなかった。

本書は、自身が元陸上自衛官である著者が、丹念な取材により多くの証言を集め、この問題について考察した労作である。

自衛官が定年退職時に支払われる一時金は、大企業の労働者の平均よりも高く、恵まれている。

しかし、通常はその後年金支給まで働き続けなければならないにもかかわらず、再就職後の労働条件は必ずしも良いとは言えない。むしろ、自衛隊時代との仕事内容や意識の違い、激減する収入に悩む者が少なくない。

著者は、彼ら元自衛官のセカンドキャリアが厳しいことを包み隠さず記している。一方で、自衛隊時代の経験を活かして、防災、組織マネジメントやボランティアなどさまざまな分野で活躍する元自衛官の事例も多数紹介されている。

諸外国の軍隊では士官クラスでも30~40代で離職する者が多いが、自衛隊は定年まで勤め上げる者が多いという点で特殊である。その分、自衛官の再就職問題には真剣に取り組まなければならないはずだが、政府の施策や社会全体の理解は十分ではない。

高齢者の働き方が関心を集める昨今だが、元自衛官のそれについてもより注目されて然るべきである。

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