
ウォーク資本主義とは、企業が社会貢献として、気候変動や人種・性差別などの問題に取り組むことを指す。しかし、それが「意識高い系」の偽善であり、新自由主義がもたらした経済格差などの本質的な経済問題には目を逸らしていることはしばしば批判されている。
昨今の"行き過ぎたウォーク資本主義"を止めることは可能なのか? 『WOKE CAPITALISM「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』の著者で、社会における企業の枠割を研究されているカール・ローズ氏が解説する。
※本稿は、前後編の後編です。『Voice』2024年6月号より抜粋・編集した内容をお届けします。
――「ウォーク資本主義」の風潮を変える方法を思いつくでしょうか。
【ローズ】すぐには思いつきません。ただし、変化とは人が干渉しなくても起こるものです。「ウォーク資本主義」はすでに行き過ぎたように思えてなりません。現に多くの国では社会的な分断が引き起こされています。最近ではフロリダ州のロン・ディサンティス知事と米国のディズニーが対立していますね。とはいえ、これは一時的なもので、いずれ自然に解消されるでしょう。
われわれは、企業自身からの改革には期待するべきではありません。新自由主義のもとで経済パワーが暴走して格差が生まれていますが、その結果、企業は莫大な利益を得ています。ならば、そこから変化が起こるのは難しい。これはむしろ政府の失策でしょう。富裕層に対して減税し、グローバルな経済システムをつくり、一方でフェアな経済的配分を犠牲にすることで、世界中の経済成長をつくりだしてきたのですから。
「ウォーク資本主義」から脱却する方法があるとすれば、企業による自主行動ではありません。政府が経済格差をめぐる深刻な問題を認識し、広く利益が共有されるグローバル経済をつくりだすほかないのです。
――今秋には米国で大統領選挙が行なわれます。私から見ると、バイデン大統領は民主党ということもあって「ウォーク的な政治家」である一方、トランプ氏は「反ウォーク的な政治家」に見えます。
【ローズ】2人はじつに異なるタイプの人物です。トランプはどう見ても「ウォーク的」ではありません。いま、米国の最大の課題は分断ですが、トランプは一種の右派ポピュリストで、ひどくpolitically incorrect(言動などが差別的で不適切であること)です。私は彼と会食したいとは思いません。一方で、あなたが言うように、バイデンは「ウォーク的」ですね。
この2人が、米国でますます進んでいる政治的な分断を代表していることはたしかです。ほかの国でも反動的な右派ポピュリズムと、時にはほとんど「ウォーク」と言ってもいいリベラルな民主サイドが対立しています。昔は左派と右派で政治を区別していましたが、いま生じているのは独裁主義と民主主義の分断です。
これははるかに難しい選択です。左派と右派の相違であれば人びとは民主的な選択ができますが、ポピュリズムと独裁主義の増大は真の危険です。経済格差がもたらした帰結であり、ですから政治はそれを逆転させるようにチャレンジしなくてはいけない。しかし、そのチャレンジに挑むリーダーがいるでしょうか。バイデンもそれには当てはまらないでしょう。
――最近の支持率を見ると、バイデンはトランプほど高くありませんね。
【ローズ】興味深い現象です。トランプには強い男のイメージがあり、明らかにアメリカ人にとって魅力があります。彼は何が起きても、どれほど訴訟を起こされても、どれほど刑事責任を問われても人びとに好かれます。この事実こそ、私がもっとも危惧している点です。
でも、現在の米国を見たときに、新しい政治家はどこにいるでしょうか。新しいアイデアはどこにあるでしょうか。依然として古いアイデアがそのまま続いている状態であり、米国に限らず世界中が、renewal(再生)すべきときを迎えているのです。
――日本の岸田政権は「新しい資本主義」を掲げています。株主優先、市場重視の新自由主義の弊害を認識したうえで、中間層の没落、都市と地方の格差、気候変動による持続可能性の喪失に対応する考えです。この方針をどう評価しますか。
【ローズ】実際にその政策を実行しているのならば、たしかに理にかなっています。でも、日本に限らず新自由主義的なカルチャーがグローバルに拡大し、抜け出せなくなっていることもたしかでしょう。そこから抜け出すには継続的なvigilance(警戒、監視)が必要です。
私は次世代に大いに信頼を置いています。われわれの世代は、多くの問題が生じるのを目の当たりにしてきました。他方で、私は大学で教授をしているので若い世代と直接話す機会がありますが、彼ら彼女らは少なくとも1960年代以来、西洋社会では見たこともないような新しい見方で政治を重視しているように感じます。
われわれには変化が必要です。しかし、1人の政治家がその変化を引き起こすことはできません。ですから日本でも、岸田文雄氏がいくら頑張っても、そう簡単には変わりません。世代的な変化が必要です。もっとスケールの大きい視点から見なければなりません。
繰り返しますが、岸田氏の政策はたしかに正しい。重点を置くべきなのは、経済成長がどのように分配されるか、誰がそこから利益を得るのか。その視点がなければ中身がない政策になります。また、長期的な視点をもつことは何よりも重要です。変化のoutcome(成果)が見えるまでにはかなり時間がかかるのですから。
更新:06月11日 00:05