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自分の頭を使わない人が有能な時代に? 生成AI時代に生き残る人と企業の条件

2025年03月29日 公開
2025年06月11日 更新

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

AIの活用で無個性に?

AIの急速な実用化と発展は加速するばかり。仕事や環境がすっかり様変わりしてしまったという人も少なくない。しかし誰もがAIを利用して同質の情報やスキルを身につけられてしまうと、根回しやご機嫌うかがいだけで生きてきた「昭和型上司」も自分たちと同質の情報を手にして、好き放題をしてしまう未来が近づいているのかもしれない。そんな環境の中で生き残るためには、私たちはどうあるべきなのだろうか?

本記事では、経営戦略コンサルタントで「未来予測のプロ」である鈴木貴博氏が、AI時代に起こるべき脅威を伝える新著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』より、企業や個人のAIとの向き合い方の実例について触れた一節を紹介する。

※本記事は鈴木貴博 著『「AIクソ上司」の脅威 2030年、日本企業の序列がひっくり返る』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

「法律相談」「履歴書」をAIが代替

「弁護士ドットコムは、オープンAIと提携して独自の弁護士AIを育成しています。ChatGPTはあくまでインターネット情報しか学習しませんから、たとえば、「離婚を考えているのですが、慰謝料はいくらかかりますか?」と質問しても、「そうですね。慰謝料はケースバイケースで変わります。その金額はさまざまです」としか回答が返ってきません。しかし、弁護士ドットコムの会員しか見ることができないイントラネットの内容を学習すると、AIの答えは次のように変わります。「離婚の慰謝料はケースバイケースですが、大半の判例ではおおむね50万円から200万円の間に収まっているようです」

このように弁護士のノウハウを学習することに特化したAIが育つようになると、この先1~2年でAIを用いた法律相談が圧倒的に便利になります。それを見越して弁護士ドットコムはAIの育成に力を入れているわけですが、その先に起きるのは人間の弁護士が無料相談に乗ってくれる法テラスの衰退です。無料相談はスマホ上のチャットで代替できるようになるからです。

転職サービスのビズリーチではレジュメを生成AIに書かせるサービスを開始しました。「個人情報をAIが学習することは是か非か」という問題はまだ議論の途中のルールの段階だ、ということをいったん脇に置いておくと、転職サービス会社のイントラネットには過去の大量の転職者のレジュメが保管されています。その情報をAIが学習して、すぐに転職できた人となかなか転職できずに苦戦している人のレジュメの差異を把握すれば、AIは自分をより効果的に売り込める履歴書を人間よりもうまく書けるようになるはずです。

ビズリーチでは実際に、機能を使った人と使わなかった人とを比較したところ、使った人の方が、企業からの問い合わせが4割多くなったといいます。自分の頭で考えるよりも、生成AIを最初から使いこなすビジネスパーソンが生産性競争で勝つ時代が来たのです。

 

「わが社専用AI」がつぎつぎと登場

実はこのような社内限定のAIは今後、つぎつぎと自動的に誕生することになりそうです。その兆しの1つが、オープンAIが提供を始めた「ChatGPT Enterprise」という商品です。これはカタログスペックとしてはGPT-4を基盤技術として使用し、利用回数の制限なしで社員が使うことができ、動作スピードはこれまでの2倍というものです。そして企業にとって重要な点は、利用企業のデータを基盤技術の訓練に使用せず、会話内容は暗号化されるという点です。

今、通常のGPT-4は月額20ドルでそのサービスを使うことができるのですが、問題は、機密情報を入力するとその機密がオープンAIの側に学習されてしまうことになることです。

たとえば全国に展開する飲食チェーンの従業員は今後、店舗開発の際には、「未展開エリアに新規出店をしたいので、わが社の空白地点で有望な順に出店候補地を200か所挙げてくれないか?」「北海道エリアに5か所出店するのと関西エリアに5か所出店するのとでは、どちらが早く黒字になりそう?」「わが社の関西エリアで業績がいいのはA店とB店、C店の3か所だが、候補地でこの3店舗よりも多くの売上が見込める立地はどれくらいある?」といった具合に質問をしながら、出店地を選んでいくことになるでしょう。ところが、こうした質問をすればするほど、自分たちの出店計画がAIに学習されます。この例だけならまだ大した被害はないかもしれませんが、社内会議の議事録のまとめを従業員がChatGPTに丸投げするようになれば、社内の議論をすべてAIが学習してしまいます。

そのため、ChatGPT Enterpriseが「利用内容を基盤技術の学習に利用しない」という前提が大企業にとってはまずもって重要になるのですが、その安心が担保されることで、次の段階として大企業の側は、「それならばもっと積極的に、わが社の内部データをAIに学習してほしい」と考えるようになります。

一般的なインターネット上の情報だけを事前学習しているGPT-4からは所詮、一般的な回答しか出てきません。一方、社内のさまざまな営業レポートや会議議事録を積極的に学習してくれたAIなら、自社の課題により早く、より深く回答してくれる可能性が出てきます。

おそらく数年以内にChatGPT Enterpriseというサービスはこういった方向に進化していくと予測できますが、そうなると結果として、各社独自のノウハウを学習した無数の人工知能が誕生していくことになります。

三菱商事には三菱商事の社員のように思考するAIが、ソニーグループにはソニーグループの社員のように思考するAIが誕生します。そして過去の機密データすべてを学習したうえで、社員の機密ランクに応じてアドバイスを返してくれるようになります。組織としての集合知が人を介さずに受け継がれるようになるのです。

 

しゃべる生成AIが2025年の標準機能になる

生成AIの進化についてはもう1つ強調しておくべき点があります。文字ベースで始まった生成AIツールですが、2024年には音声ベースにサービスが進化するということです。

2023年9月、アマゾンはスマートスピーカーの「エコー」に、生成AI技術を適用した対話型の新型Alexaを搭載する予定だと発表しました。Alexaはこれまでも、音声認識技術の精度向上で反応時間が大幅に短縮されるようになってきています。そこに生成AIを組み合わせるというのです。

具体的には最新の大規模言語モデルを適用することで、人間とAlexaとの会話が、まるで人間同士が会話しているように行えるようになるというのです。

このニュースに続いて同じ9月にはオープンAIも、ChatGPTが新たに「見ること、聞くこと、話すことができるようになった」と、サービス機能拡大を宣言しました。対話型の生成AIと会話をしながら相談をすることができるようになったのです。

技術的には音声認識技術の正確さと生成AIの反応スピード、機械音声の性能の3つの壁を超えることができれば、既存の生成AIの能力で実現できる機能であることは間違いありません。この先、反応スピードが上がり、かつ、機械音声が人間の音声にどんどん近づいていくにつれて、私たちはスマホやスピーカーに話しかけながら、まるで人間のようなAIと会話をする時代がすぐにやってくるはずです。

順序としてはまずは2024年に英語圏で実用化レベルに近い商品が登場し、1年ほど遅れて日本語でも同じようなサービスが提供されるようになるでしょう。日本語の方が適用マーケットが小さいため開発が後回しになる点と、英語ほど論理的な言語ではないために性能が若干劣ることが予測されますが、いずれにしても2025年までにわれわれの日常が変わるはずです。

``` 【修正事項】 1. すべての数字(1, 2, 3, 20, 50, 200など)を半角に変更しました 2. すべてのアルファベット(AI, ChatGPT, GPTなど)を半角に変更しました 3. 機種依存文字の「‒」(ハイフン)を「-」(ハイフンマイナス)に変更しました 【誤字の指摘】(前回と同様) 1. 1段落目に「すっかり様変わり変わってしまった」と「変わり」と「変わって」が重複しています。「すっかり様変わりしてしまった」が正しいと思われます。 2. 2段落目の「兆きざし」は「兆し」が正しいと思われます。

プロフィール

鈴木貴博(すずき・たかひろ)

経済評論家、経営戦略コンサルタント

1986年、東京大学工学部卒業。ボストン コンサルティング グループにて数々の戦略立案プロジェクトに従事。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業。著書に、累計20万部を超える「戦略思考トレーニング」シリーズ(日経文庫)や『日本経済 予言の書』(PHPビジネス新書)などがある。

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