
トランプが米中二極体制を示す「G2」構想を口にした背景には、外交上の駆け引きだけでは説明できない現実がある。焦点となるのは、米国が抱える深刻な対中依存だ。レアアースやレアメタルの供給が止まれば、米軍の武器は製造できないのだ。書籍『G2構想 勝つのは米国か中国か』をもとに、その実態を読み解く。
※本稿は、遠藤誉著『G2構想 勝つのは米国か中国か』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです
レアアースという言葉が一般的になっているので、本稿でもこの言葉を使っているが、正確に言えばレアメタルとレアアースがある。
レアメタルは希少(レア)で、産業上重要な金属のうち、ベースメタル(鉄、銅、アルミなど)や金銀などを除いた、ガリウム、リチウム、コバルト、ニッケルなどの非鉄金属を指す。
レアアースはレアメタルの中の一部で、周期表で決まった「希土類元素」と呼ばれる17元素(スカンジウム、イットリウムと、ランタンからルテチウムまでのランタノイド15元素の合計17元素)の総称である。
ここでは概念的にわかりやすいように、両方を合わせて「レアアースなど」という言葉で代表させることとする。
レアアースなどは中国の生産が世界一であり、中国でしか精錬できないものが多い。中国の精錬技術も世界の85%〜99%を占める。そのため中国が「対米輸出を凍結する」と宣言した瞬間に米軍は武器を製造できなくなる。

図表5-3に、中国が2025年4月に、トランプ関税に抵抗して輸出規制をしたレアアースなどの一覧表を示した。右端に書いた「%」は、「世界における中国のシェア」で、たとえば「1」番にあるガリウムの世界における中国のシェアは「98%」である。
図表5-3において太文字で示したのは「軍事用」である。
たとえば「1」にあるガリウムはレーダーを製造するのに不可欠のレアメタルで、その98%を中国が独占しているから、習近平がトランプに「ガリウムを輸出しない」と言ったら、米軍武器のレーダーが製造できなくなり、米軍はそれだけでも全滅する。
これくらい強力な威力を、中国のレアアースなどは持っているのだ。
アメリカの航空機専門メディアであるAVIATION NETWORKは2021年6月28日に「戦闘機の最先端のレーダーは窒化ガリウムを使っている」と書いている。
実は2025年6月から納入されたアメリカの戦闘機F-35にはレーダーが装備されていないという事態が発生している。2026年秋以降は、ロッキード社などが製造している全ての米軍向け納入予定のF-35にはレーダーが装備されないことになりそうだ。
原因は、米軍向けのF-35は新型の「APG-85レーダー」を搭載予定だが、そのレーダーの生産が遅延しているからだ。「APG-85」型は窒化ガリウム(GaN)のモジュールを大量に使う。
しかし中国はバイデン政権における対中制裁に対抗するため、2023年7月からガリウム関連物質を輸出制限し始めている。加えて100%とか200%という桁の法外なトランプ関税をかけられたときに、習近平はガリウム輸出を制限するという強烈なカードを切った。
図表5-3の「2」にあるゲルマニウムは、主として「軍用光学システム」製造などに使われており、この中国依存度は50%で、アメリカでは何とか国内のリサイクルでゲルマニウムを確保しようとしていると、米国防総省が認めている。しかし、それでも「光学グレードのゲルマニウムは、主に中国から輸入しており、国防の緊急時に入手が困難になる可能性がある。現在、中国本土は市場をかなり規制しているため、もし中国がコストを上げるか、完全に遮断することを決定した場合、それは米軍にとっては非常に大きなダメージとなる」と説明している。
図表5-3の「4」にあるタングステンに関しては、たとえばイラン上空に発射されるミサイルは全て、アメリカのタングステン備蓄を消費している。
3月23日のロイター電は「米イスラエルは、イランに対する空爆作戦で数千発の弾薬を使用してきた。それらの全てにタングステンが含まれている。タングステンは超硬質の金属で、ミサイルが装甲や地下壕を貫通することを可能にする。リサイクル可能な超硬タングステン製のドリルビットとは異なり、弾薬に使用されるタングステンは爆発時に消費され、永久に失われてしまう」と書いている。
すでに5年目に突入しているウクライナ紛争に加えて、このたびのイラン攻撃は、ミサイルだけでなくミサイルの殺傷能力を高める金属の、アメリカにおける備蓄をも枯渇させているのだ。ロイター電は「すでに消費されたタングステンを補充するのは困難だろう。トランプ関税に対抗して中国が輸出規制を強化する以前から、タングステン市場はすでに苦境に立たされていた。そして今、市場は危機的状況に陥っている」と結んでいる。
図表5-3の「11」にあるジスプロシウムも注目に値する。2026年3月16日、アメリカの外交政策研究所は「イラン攻撃開始後の96時間で5000発以上の弾丸が発射された」という見出しで、次のように書いている。
―中国は世界のジスプロシウムの99%を占有しており、これは米イスラエル連合軍の保有する全ての「シーカーヘッド、誘導システム、レーダーモジュール」に使用されている。これは大規模に代替することは不可能であり、代替供給網が十分な量を供給できるようになるまでには何年もかかるだろう。96時間で消費された5197発の弾薬を補充するには、「銅約92トン、ネオジム約137キログラム、ガリウム約18キログラム、タンタル約37キログラム、ジスプロシウム約7キログラム、過塩素酸アンモニウム約600トン」が必要となる。レアアースやレアメタルは重量的には少量に見えるが、中国の輸出規制、商用データセンターやAIの需要、あるいは生産者の不足などにより、十分な量を確保することがますます困難になっている。(以上、外交政策研究所から引用)
このように「11」にあるジスプロシウムは「12」にあるテルビウム(世界における中国シェア95%)とともに、「耐熱ネオジム磁石」として米軍戦闘機のエンジン用にも使われており、これを輸出禁止にされたら米軍武器製造はお手上げになるということが見えてくる。
図表5-3の「15」にあるイットリウムは、「エンジンの障壁コーティング、HF(High Frequency)レーダー、精密レーザー」などに使われているが、これも中国のシェアが90%なので、米軍は中国以外から調達することが困難だ。
ではアメリカは、どれくらい中国からレアアースなどを輸入しているのかを見てみよう。
米地質調査所(USGS=United States Geological Survey)の2025年版「鉱物商品サマリー」によると、アメリカのレアアースなどに関する全体の輸入依存度は、2020〜2023年95%以上で、実際上100%が輸入に依存していることになる。
そのうち、「中国70%、マレーシア13%、日本6%、エストニア5%、その他6%」などとなっているが、同資料には「マレーシア・日本・エストニアから輸入されているレアアースなどは、実はオーストラリアや中国から輸入したものを加工したものである」と書いてある。闇は深い。
更新:07月11日 00:05