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【22世紀の人間像研究会】これからの秩序との向き合い方――更新か、それとも虚無か(ディスカッション・3)

22世紀の人間像研究会

「22世紀の人間像研究会」メンバーによる座談会

信じていたものが崩れるとき、社会不安が人々の怒りにつながります。私たちはそのパワーを制御できるのでしょうか。日本思想史研究者の先崎彰容さんによる「秩序との向き合い方――更新か、それとも虚無か」の話を受けた「22世紀の人間像研究会」メンバーによる座談会を、3回にわたってお届けします。(構成:中嶋 愛)

 

「底が抜ける」不安

【為末】不安ということでいえば、私は宗教が衰退していることも背景にあるのかな、という気がしています。権威や秩序は「そういうことにしておきましょう」という立て付けによって守られている側面があると思うんですよね。ある場面で「それらしい振る舞いをする」ということも含めて。

「そういうことになっている」という立て付けが、秩序にとって重要な気がします。それを暴露主義的にひっくり返してしまうと、秩序そのものがひっくり返ってしまうというか。トランプ大統領が天皇陛下に会われるときにドキドキしたのは、そういうところですかね。立てつけが壊れるといろんなものの底が抜けてしまう、という感覚がありました。

【先崎】「底が抜ける」という感覚はよくわかります。経済学者の岩井克人が、100年前の戦争は信用が崩れていく過程だったという分析をしているんですね。当時、世界全体の価値基準であった機軸通貨のポンドへの信用が失われて、その座をドルにとって代わられた。そして、その変わり目で戦争が起きた。つまり、信用が壊れて穴が空いたところを別の何かが埋めるまでの過渡期に戦争に向かう、と。

最近言われているのは、トランプがドルを基軸通貨という権威の座から降ろそうとしているということです。これは、さまざまな通貨のなかでは最大勢力だけれど、基軸通貨としての責任からは自由になるということです。喩えて言えば、先生が最強の生徒になるようなものです。

そうすると、信用が崩れて通貨システムに穴が開く。その穴を、中国元や仮想通貨のようなものが埋めようとする。今、そういう混沌のなかにいるということで、100年前とよく似ていると言われるんですね。ここから新しい秩序とか価値が生まれるのか、その虚無に向かうのか、その境目なのかなと思います。

【為末】不安ですよね。円がこのままどんどん安くなったらどうなるんだろう、とか。

 

極右も極左も「怒り」に駆られている

【中嶋】能の話にもどるのですが、小癋見は無言の反抗、ひょっとこは茶化すことで権威をおとしめているということですが、ほかに面従腹背的キャラクターはいるのでしょうか。恭順の意を示しながら裏で足を引っ張るとか。

【先崎】それも小癋見に入ります。小癋見は通常無言で反抗するのですが、「相手の言葉と同じことを繰り返して言う」という反抗の仕方もあります。権力者が言ってきたことを何回も繰り返して謡うのは、ある種の反抗なんですよ。従っているように見えて同じことをおうむ返しに繰り返すような態度を、「もどき」といいます。

折口は、小癋見が一回黙った後に、次に出てくる言葉が文学というものの始まりだという考えていました。それゆえに、文学というのものは、政治的に挫折した者たちが紡いでいくものになる。そういうことを折口は言いたかったのではないかと思います。

【磯野】「これはこういうものだ」という立て付けがないと秩序が成り立たない、というのは本当にそうだと思います。現代社会はそういうものが崩れているのが問題だというのもわかります。ただ、今ある秩序がつくられた過程やそれができた結果何がおきたのか、ということを踏まえたうえで秩序を更新できるかどうかも大事なのだろうと思います。

それをやらずに「とにかくこういうものだ」と言うと、「それは抑圧だ」とか「多様性を排除している」ということになって対立や分断になりますよね。もう一回中庸の部分をどう取り戻せるのかというところを考えながら、お話を聞いていました。

【先崎】それはものすごく大事な論点ですね。子どもの頃から「〇〇らしさ」に縛られていた人が、「そういうものでもないんだよ」と知ることって、窓から風が入ってくるようなことではないかと思います。「こういうものだ」が「そうでもなかった」に変わることで、実存的に解放されるようなことがある。そんな気がしています。

でも一方で、「私はこれだけ苦しんだ」というトラウマを抱えている人が、「何でそれをおまえたちは分からないんだ」という情念にかきたてられる方向に行く人もいる。結局、右寄りの人とも左寄りの人も、極端な人は常に怒りにかられているという点で似ているのですよ。でも、「なんで私のこの苦しさが分からないんだ」と常に怒りにかられている状態では心が満たされないし、自由にもなれない。自分で納得できる物語を再形成することが、中庸への道だと思っています。

【磯野】たしかに、今のSNS空間とかは特にそうですが、「私にはこんなに苦しかった」「それは社会のせいなんだ」という話が溢れていますね。ただ、「社会に傷つけられた人」の話は人の関心をひくし、市場的に受けてしまうところがあります。それをやっていると、ずっと負の情念から抜け出せないのはそのとおりですが、新たな物語もひとつ間違えば危ないものですよね。そういうものが必要である、というのはわかりますが。

【先崎】たぶん国際社会でも同じようなことが起きていて、ロシアの行動の根底にあるのも怒りですよね。本来の自分を取り戻したくて、常にブチ切れています。

【中嶋】アメリカも本来のグレートなアメリカを取り戻したい、ということでブチ切れていますね。

【為末】怒りのパワーも役に立つこともありますよね。既存の権力に向かうときに、「こういうやり方もありますよね」と建設的に攻撃するパターンでは、なかなか物事は変わらない。「これはおかしいだろう」と打ち倒すことで、次が展開することはあります。ただそこで問題なのは、一度発動した怒りはかんたんには収まらないことですね。ガーッとひろがって収拾がつかなくなる。

【磯野】怒りの瞬間速度で何かを打ち破ったあと、そのパワーを違うものに変換していくころで多分失敗するのですよね。

 

もし太陽が二つあったら地球の秩序は変わっていたか

【中嶋】「戦争と革命なしに中庸にたどり着けるのか」という問いですね。怒りとも関連しますが、いま陰謀論というのがありますよね。陰謀論が支配する社会は、それこそ黒式尉もひょっとこもいない。ディープ・ステートというのは黒式尉自体が操られているような世界観です。

【金子】それは誰かというのではなくて、システムなのかもしれないですね。

【高梨】結局、構図を構想しているのは人間なので、我々の中の何かが操っている主ではあると思います。ただ自然科学に関して言えば、過去には秩序や物語を成立させるために危険な使われ方をしたこともよくあったので、注意しながら考えなければいけないと思います。

一方で、現代の科学が見せているような宇宙観であるとか生命観であるとか、そういったところを更新していくのだったら、うまく取り込めるような仕組みを考えていかなければいけないな、とも思います。

よく妄想するのは、他に惑星があって、そこにもいろいろな知的生命がいたとしたら、地球と同じような秩序や物語があるのかということです。意外と物理的環境が秩序の形成には効いているのではないか、と。たとえば、太陽系に太陽が二つあったらどうなるか。神話の体系はかなり変わるしょうね。

【磯野】太陽の貴重さが減ったりするのですかね。一つはなくなってもいいとか。

【高梨】そう。神が交代するようなことが当たり前のように起こったりして、神の相対化がおきるとか。

【為末】絶対神ではなくて、二つの神が対立しているような宗教になるかもしれない。

【高梨】もっと言えば、太陽が三つ、四つとあったらどうなるのか。そういう物語のところに絡めるというのは非常に興味深いのですが、自然科学に携わる人と人文系の人がこうしたテーマで対話する場というのがあまりないので、今後作っていかなければいけないなと改めて思いました。

 

*本原稿は、多様な領域の専門家とともに「人間とは何か」を問い直し、次の時代を切り拓く人間像を模索していく「22世紀の人間像研究会」の内容を記事化したものです。

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