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各国で進む「青少年のSNS規制」 日本はなぜ対応が遅れているのか

2026年06月04日 公開

曽我部真裕(京都大学大学院法学研究科教授)

青少年のスマホ利用

16歳未満の利用を事実上禁止したオーストラリアをはじめ、近年、SNSに対して各国でさまざまな規制が行われている。わが国の青少年を守るためには、どのような政策が求められるのか。時代に対応できていない日本の対策の課題と論点を整理する。

★本論稿は、意見集約プラットフォーム「Surfvote」と連動しています。

※本稿は、『Voice』2026年4月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

各国で進む規制とその背景

デジタル環境下の子どもに関するOECDのリスク類型(2021年)

2025年12月10日、オーストラリアで「改正オンライン安全法」が施行された。これは、16歳未満の者によるソーシャルメディアの利用を事実上禁止する規制であり、日本でも大きく報道された。

対象となるのはTikTok、X、Instagram、YouTubeなど、所定の主要サービスを運営する事業者で、16歳未満の利用者がアカウントを保有しないよう、合理的な措置を講じることが義務づけられる。義務に違反した場合、最大で約4950万豪ドル(約50億円)の制裁金が科される。デンマーク、スペイン、フランスなどほかの国々でも、類似の立法を検討する動きが見られる。

もっとも、各国の青少年保護政策は、必ずしもこうした方向にばかり向かっているわけではない。

たとえば、現在段階的に施行が進められているイギリスのオンライン・セーフティ法は、現時点では年齢による一律の利用禁止は採用していない。同法は、ソーシャルメディアや検索サービスなどに対し、青少年のアクセスがあるかどうか評価し、有害コンテンツに青少年がアクセスできないような措置をとることなどを求める。

EUでは2025年7月、デジタルサービス法のもとで未成年者保護に関するガイドラインが策定され、サービスの初期設定において年齢に応じた慎重なデフォルト設定を採用すべきことや、アルゴリズムによるリスクへの対応などが求められている。アメリカでも、州レベルで、アカウント作成時に年齢確認や保護者の同意を求めるなど、さまざまな立法の試みが続いており、これに対して事業者側が憲法違反とする訴訟を提起するなど、せめぎあいが続いている。

なぜ、近年になって、各国でこうした規制が相次いでいるのだろうか。インターネット上の青少年の保護をめぐる規制自体は、以前から存在していた。従来の規制は、アダルトコンテンツなどの有害情報への対処を中心とするものであった。その後は、「ネットいじめ」や、見知らぬ大人と出会って性被害に遭うといった問題への対応が重視されるようになった。

最近の動きは、これらに加え、ソーシャルメディアが子どもや若者のメンタルヘルスに及ぼす影響が懸念されている。また、xAI社(X社の親会社)のAIサービスであるGrokにより人物画像が性的なものに加工されてしまう問題がもちあがったが、このほか海外ではAIチャットボットとの会話の末に自死してしまう事件が相次ぐなど、AIなど新たな技術に起因するリスクにも目が向けられている。

このテーマにおいて広く参照されているOECDのリスク分類も、2011年に作成されたのち、状況変化をふまえて2021年に改訂されている(上表参照)。

実際、2010年代以降、若年層のメンタルヘルスが世界的に悪化しているとの指摘が相次いでおり、その要因の一つとして、スマートフォンやソーシャルメディアの影響が挙げられている。たとえば2023年5月、アメリカ保健福祉省は、ソーシャルメディアを一日平均3時間以上利用する子どもや青少年では、うつ病や不安などの精神的健康リスクが約2倍になるとの研究報告があるとして、注意喚起を行なった。

日本でもさまざまな研究がなされているが、たとえば2024年6月、国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームが公表した研究成果によれば、思春期におけるインターネットの不適切使用が精神病症状(幻覚や妄想のような体験)および抑うつといったメンタルヘルス不調のリスクを高めるとされた。

さらに、インターネットの不適切使用による抑うつのリスクは女性のほうが大きいこと、また精神病症状のリスク上昇は社会的ひきこもりを介して起こることも示唆された、とのことであった。

加えて、国立精神・神経医療研究センターなどの別の研究チームは、2025年8月、因果関係を推定できる厳密なデータ分析法を用いて、思春期にオンラインゲームを不適切に利用し続けると、メンタルヘルス不調のリスクが高まることを確認した、との発表を行なった。

アメリカでは、自死した青少年の遺族などによる、ソーシャルメディア事業者を相手取った訴訟が相次いでもいる。日本ではこうした訴訟の例は知られていないが、現在、訴訟の準備がされていると伝えられている。

数々の公共訴訟を手掛けたことで知られる亀石倫子弁護士が代表を務める公共訴訟の専門家集団LEDGE(レッジ)によるもので、亀石弁護士は、SNSは「脳を標的として中毒になるよう、意図的に無限の刺激と報酬が設計されて」おり、「自律的な意思決定が事実上奪われるような、自己決定が侵害されるような状況になっている。そして、利用者として当然持っているはずの権利や健康が、奪われている状態になってい」るとする。

そして、ソーシャルメディア事業者の責任を問う訴訟提起を模索しているとして、原告となる人を募っている(「投げ銭700万円、摂食障害になる人も 利用者をSNS依存に追い込むプラットフォームの責任を問う」Addiction Report、2026年1月12日)。

一方で、ソーシャルメディアの利用には、肯定的な側面があることも否定できない。情報へのアクセスや他者との交流は、子どもの成長や社会参加にとって重要な意味をもつ。

この点について、国連子どもの権利委員会は、2021年に採択した「一般的意見二五号」において、子どもは保護される対象であると同時に、情報へのアクセスや参加の主体でもあると指摘している。そして、一律の年齢制限や過度な遮断は、表現の自由や発達の権利を侵害する恐れがあるとしている。

 

アップデートできていない日本の対策

では、日本ではこの問題にどのように取り組んできただろうか。

ソーシャルメディアや携帯端末を利用させないという考え方と、リスクを低減しながら利用を認め、リテラシーを育てるという考え方との対立は、日本でも以前から存在しており、小中学生の携帯電話所持を制限する条例も存在した。

しかし、2008年制定の「青少年インターネット環境整備法(環境整備法)」は、後者のアプローチを明確に採用した。同法は、18歳未満の青少年が安全・安心にインターネットを利用できるようにするためには、青少年自身が主体的に情報を取捨選択し、適切に発信する能力、すなわちリテラシーを身につけることが重要であるとの基本理念を掲げている。この考え方は、憲法上の表現の自由や知る権利とも整合的であり、現在においても妥当性を有している。

最近話題となった愛知県豊明市の「豊明市スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例」施行も、スマホの使用を禁止するのではなく、あくまで適正使用を求めるものである。家庭内のことに自治体が口出しすることにつき批判もあり、たしかに運用上細心の注意は求められるが、これまで過小評価されてきたスマホのリスクを周知し、また、自治体がこの問題に積極的に取り組む根拠を与えた面はあるだろう。

さて、環境整備法は、アダルトコンテンツなど青少年有害情報の閲覧を防止するためにフィルタリングの利用を促進することと、リテラシー能力を獲得するための教育啓発を二つの柱としている。また、青少年がソーシャルメディアを通じて見知らぬ大人と出会い、性犯罪などの被害に遭う事件数が増加し、この問題も深刻視されたが、これについてもこの二本柱によって対処するものとされた。

環境整備法は、「ガラケー」時代の産物である。制定された2008年当時は、スマートフォンではなくフィーチャーフォン(いわゆる「ガラケー」)が中心であり、また今日広く利用されているソーシャルメディアは存在していないか、存在していても普及していなかった。当時はモバイルでのインターネット利用においては回線の提供からコンテンツサービスまで、携帯電話会社の役割が大きかった。

フィルタリングに関しても、携帯電話会社についてのみ重い義務が課されている。具体的には、携帯電話の契約の際に、契約者または利用者が青少年であるかどうかを確認し、青少年である場合にはインターネット利用のリスクについての説明義務を負う。また、保護者が不要であると申し出ないかぎり、フィルタリング機能を有効にして提供する義務を負う。

他方で、ソーシャルメディアの運営者やOS事業者の青少年保護に対する取り組みについては、努力義務が課されていたにとどまる。AI事業者の責任に至ってはまったく規定がない。フィルタリングその他の青少年保護機能を管理する保護者の負担も非常に大きかった。

しかし、今日ではスマートフォンが中心となり、携帯電話会社ができることは大きく縮小している。また、フィルタリングは、あるアプリを利用するかしないかをコントロールするにすぎず、あるソーシャルメディアを利用するとした場合に、そのサービス内での有害な投稿などを個別に非表示にしたりすることはできない。要するに、ガラケー時代を前提にした環境整備法の仕組みを、スマホとソーシャルメディアの時代に合ったものにアップデートすることが急務である。

 

課題と論点の整理

こうした状況をふまえ、2024年11月、こども家庭庁に筆者を座長とする「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」が設置され、課題と論点を整理するための検討が行なわれた(なお、本稿は筆者の私見を述べるものである)。2025年8月には「課題と論点の整理」が取りまとめられた。以下にその概要を紹介する。

この「課題と論点の整理」は、インターネットが青少年の日常生活に不可欠な基盤となり、低年齢層を含むほぼすべての年代で利用が常態化している現状をふまえ、従来の青少年保護の枠組みが直面している課題と論点を体系的に整理したものである。

スマートフォンや学校での一人一台端末の普及により、青少年が容易にオンライン空間にアクセスできるようになった一方で、インターネット上には有害情報が氾濫し、SNSを契機とする犯罪被害や闇バイトへの加担、誹謗中傷やいじめ、性的被害、消費者トラブルなどが依然として高水準にある。

加えて、生成AIの発展により、実在する児童をもとにした性的ディープフェイクの生成と拡散といった新たなリスクも顕在化しており、青少年自身が被害者となるだけでなく、加害者となる可能性も高まっている。

これまで、環境整備法に基づき、フィルタリングの普及促進や教育・啓発を中心とした対策が講じられてきたが、リスクの多様化・複雑化により、こうした枠組みのみでは十分に対応できなくなっているとの問題意識が共有されている。

ワーキンググループでは、諸外国の制度も参照しつつ、事業者に対する義務づけや年齢確認の強化といった法的手法の有効性と限界、日本における導入の是非が検討された。

その結果、青少年の権利、とくに知る権利や表現の自由、インターネットを通じた学習や居場所としての意義をふまえ、一律の年齢規制ではなく、ウェルビーイングの実現を軸とした多面的・総合的な対応を志向すべきであるとの基本的方向性が示されている。

具体的には、受信リスクへの対応に加え、発信に伴うコンダクト/コンタクト・リスクへの対策を強化すること、デジタルプラットフォーム事業者やOS事業者を含む幅広いステークホルダーの関与を求めること、実効性のある技術的保護手段やコンテンツレーティングの在り方を検討することが課題とされている。

また、青少年自身のリテラシー向上や、保護者を含めた官民連携による啓発活動の強化も不可欠であるとされる。今後は、短期的に対応可能な施策と中長期的な検討を要する課題を整理したうえで、法的対応の必要性も含め、関係府省庁が連携しながら段階的に取り組みを進めていくことが求められている。

以上が「課題と論点の整理」の概要であるが、ここで示されたのは基本的方向性のみであり、具体的な方策は、各テーマの所管省庁において引き続き検討されることになっており、そのための工程表も作成されている。

たとえば総務省では、デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会のもとに、青少年保護ワーキンググループが設置された。そして、こども家庭庁には、本年1月、各省庁での検討のフィードバックを受けつつ、環境整備法の改正について検討する青少年インターネット環境整備法の在り方などに関する検討ワーキンググループが設置された(いずれも筆者が主査を拝命している)。

 

事業者の「自主的な取り組み」を後押しせよ

今後の検討課題は多岐にわたるが、まずは青少年保護に責任を負う主体間のリバランスが極めて重要である。前述のように、現在は携帯電話会社や保護者に責任が偏っているが、ソーシャルメディア事業者、スマホのOS事業者、AI事業者、ゲーム事業者などの責任を明確化することも求められる。

その際には、青少年が直面しているリスクが、本稿の冒頭に見たようなメンタルヘルスに対するリスクや、性的ディープフェイクなど生成AIの普及に伴うリスクなど、環境整備法の制定時の想定よりも多様化していることをふまえ、幅広いリスクへの対処を事業者に求めるような規律が求められる。さらに、年齢に応じた保護を行なうために、適切な年齢確認措置の在り方の検討も必要であろう。

もっとも、法的規律の具体的な制度設計は非常に困難な問題である。有害情報を定義して、事業者に削除や閲覧できないような措置をとる義務を課すといった単純な規律は、何が青少年にとって有害な情報なのかを明確に定義することができない以上、困難である。

さらに、アルゴリズム設計を法律で規律することも同様に難しいだろう。各事業者がそれぞれのサービスに即した青少年保護措置を自主的に講じることを中心としつつ、年齢確認の制度化や実効性確保のための措置を含め、自主的な取り組みを後押しするような法的枠組みを設けることなどが考えられるだろうか。

また、各事業者が講じたとする対策の実効性を評価するような取り組み、あるいは青少年保護関係者からの意見を事業者に伝達する場を設けることなども考えられるだろう。

青少年保護の政策は、その必要性や効果が見えにくく、議論が進みにくい分野である。しかし、国内外で問題意識が高まりつつあるいまこそ、十分な議論を尽くし、時代に即した枠組みを構築することが求められている。

プロフィール

曽我部真裕(そかべ・まさひろ)

京都大学大学院法学研究科教授

1974年生まれ、神奈川県横浜市出身。京都大学法学部、同大学院法学研究科修士課程、博士課程(中退)、司法修習生(第54期)、京都大学大学院法学研究科講師、准教授を経て、2013年から現職。編著書に『情報法概説(第3版)』(共著、弘文堂)、『憲法Ⅰ 総論・統治(第3版)』『憲法Ⅱ 人権(第3版)』(共著、以上、日本評論社)など。

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