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日韓に共通する読書事情とは? 競争社会に疲れた若者が求める「癒される本」

2026年06月18日 公開

金承福(株式会社クオン代表取締役)

日韓の読書事情

近年、韓国でベストセラーになった本が日本でヒットしたり、その反対に日本で人気の本が韓国で話題を呼んだりする傾向が強まっている。日本の韓国書籍市場を切り開いてきた出版社の代表が語る「日本と韓国のいま」について話を聞いた。前編となる本稿では、日韓の若者たちが今、どんな本を読んでいるのか、その読書事情にスポットを当てて紹介する。

聞き手:編集部(阿部惇平)

※本稿は、『Voice』2024年5月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

日本と韓国は競争社会

――2019年、金さんが翻訳出版に携わったキム・スヒョン氏のエッセイ『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)が日本で刊行されると、累計発行部数55万部のベストセラーになるなど大きな話題を呼びました(世界累計では180万部)。韓国の「イラストエッセイ」が日本で大ヒットした理由を、どう受け止めていますか。

【金】よく語られているとおり、日本も韓国も厳しい競争社会です。とりわけ10代や20代の若者は他者と競うことに疲れています。だからこそ、「周りの目を気にせず、ありのままで生きよう」という本書のメッセージが日韓の若者たちの心を掴んだのでしょう。

実際、この本の読者層を調べると、日本と韓国で大きな差はありません。10代や20代が中心です。文章が少なく、イラストが多い本のつくりも若者世代の共感を集めた理由の一つでしょう。さらに言えば、BTS(防弾少年団、韓国の七人組アイドルグループ)のメンバーであるジョングクが本書を愛読しているとの情報がSNSなどで流れたことも、日韓ともに大ヒットの起爆剤になりました。

――韓国のイラストレーターのハ・ワン氏のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)も、韓国で30万部、日本でも15万部を超えるベストセラーになりました。本書も「競争疲れ」や「セルフケア」をテーマにした作品ですね。

【金】日韓ともに、いま「売れ筋」の本のテーマの一つが「癒し」です。日本の出版社の本であれば、昨年(2023年)発刊された小説『猫を処方いたします。』(石田祥著、PHP文芸文庫)は、国内でシリーズ10万部を超えるヒット作になりました。本作のテーマもまさに「癒し」で、韓国の出版社のあいだでは、翻訳出版の権利を巡って非常に激しい入札競争が行なわれました。

――「癒し」は、今後も日本と韓国の出版業界で「売れ筋のテーマ」であり続けるのでしょうか。

【金】間違いなく需要はあるでしょう。ただ、じつはコロナ禍を境に、韓国では違うテーマやメッセージの本が世に出てきていることを肌で感じています。

たとえば、いま韓国では50代や60代の女性のオピニオンリーダーが書く「自己啓発本」がよく売れています。彼女たちは若い世代に向けて、次のようなメッセージを本のなかで伝えています。

「会社にいる8時間もあなたの人生です。だから、どんなことでも一生懸命にやりなさい」

先に述べた『あやうく一生懸命生きるところだった』とは、まさに真逆のメッセージです。このように「努力すること」を奨励するような本が、韓国の若い世代を中心に支持を集めていることは、たいへん興味深い現象です。こうした自己啓発本はすでに日本の出版社からの刊行も決まっており、日本市場ではどのように受け入れられるのか、その成り行きを注視しているところです。

いずれにせよ、韓国でベストセラーになった本が日本でヒットしたり、その反対に日本で人気の本が韓国で話題を呼んだりする傾向が、近年強まっているのはたしかだと思います。

 

日本と韓国の若者たち

――日本では「若者の読書離れ」が進んでいると指摘されていて、ベストセラーと呼べる本も減ってきています。韓国には似たような傾向はないのでしょうか。

【金】若い世代が本にかけるお金や時間については、映画やスポーツ観戦など、ほかの娯楽と比較すれば、やはり間違いなく減ってきています。ただ、本を読む人はどの時代にも必ずいます。

その層に対して、韓国の出版社はより強力なボールを投げることができているため、『私は私のままで生きることにした』などの大ヒット作が出てきているのでしょう。

――韓国では、若者が手に取りたくなるようなデザイン性の高い本が多い印象を受けます。装幀やデザインなど、本の「見た目」へのこだわりも、若者世代の支持を集めた要因の一つとも言えるでしょうか。

【金】韓国の本には、装幀やデザインに「韓国っぽさ」とでも言うべき特徴があるのは事実です。

そのため、韓国の本を日本で翻訳出版する際には、装幀などを極力そのままにするケースが少なくありません。日本の若い読者が、装幀から「韓国のにおい」を感覚的に嗅ぎ分け、それに惹かれて本を購入するケースが増えているからです。

――日本の若者は、「韓国の本」を感覚的に判別できているわけですね。

【金】SNSをとおして、韓国の情報に常日ごろから触れているからでしょう。韓国のアイドルやタレントのX(旧ツイッター)やインスタグラムをフォローしていれば、「韓国で話題になっているもの」は自然と目に入ります。要するに、日本で翻訳出版される前に韓国の書籍の装幀を目にして、「可愛らしい本だな」などと気になる機会があるわけです。また、音楽やファッションなどほかの文化に触れることで、無意識に「韓国らしいもの」を感じ取っているのでしょう。

――日本で「韓国の本」を手に取る層が、いまと昔とで大きく変わったとも言えるでしょうか。

【金】重要なご指摘です。以前の日本では、本が好きな「インテリ層」が韓国の本を買い求めていました。

近年は、本をあまり読まない層も「韓国の本(翻訳書)」を買っていく光景をよく目にします。そのほとんどが10代や20代で、K-POPや韓国ファッション、韓流ドラマが好きな人たちです。

つまりは、彼ら・彼女らは、自分が好きな韓国のタレントが着ている服や読んだ小説やエッセイ、さらには生活している文化を知るために、韓国の本を手に取っているのです。

 

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