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第二次トランプ政権の人材供給源 台頭するMAGA派シンクタンクとは?

2025年05月26日 公開

宮田智之(帝京大学法学部教授)

MAGA派シンクタンク

MAGA(Make America Great Again)派のインフラが台頭し、伝統的な共和党主流派の存在感が乏しい第二次トランプ政権内部の実態について、帝京大学法学部教授の宮田智之氏に解説して頂く。

※本稿は、『Voice』2025年5月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

第一次政権との決定的な違い

1月の発足以来、第二次トランプ政権が矢継ぎ早に新たな政策を打ち出していることを見ると、同政権が事前に政権構想を練り上げたうえでスタートしたことは明らかである。その背景には、「アメリカ・ファースト」を支持するシンクタンクや団体がこの数年で急速に整備された影響が指摘できる。

すなわち、MAGA(Make America Great Again)派のインフラが台頭し、第二次トランプ政権に対する政策案・人材の供給源としての役割を果たしている。このような状況は、「アメリカ・ファースト」を具体化する人材がワシントンの政策コミュニティにおいて乏しかった第一次政権発足時との決定的な違いである。

 

ヘリテージ財団の「変容」

「アメリカ・ファースト」を唱える団体は以前から存在していたが、MAGA派インフラが本格的に形成されるようになったのは第一次トランプ政権末期のことであり、この動きにおいて保守派最大のシンクタンクであるヘリテージ財団の「変容」は極めて重要である。

2016年大統領選において、保守派の政策エリートの大半は積極的な対外関与と自由貿易の意義を唱える伝統的な保守主義路線に反するとして、トランプの一国主義・保護主義に強い拒否反応を示した。

とくに、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)、フーヴァー研究所、ハドソン研究所、民主主義防衛基金といった保守系シンクタンクなどを拠点に活動していた共和党系外交専門家は、反トランプ書簡を複数回にわたり公表するほど、徹底抗戦の構えを見せた。

じつは、ヘリテージ財団も予備選が始まる前の時点ではトランプに批判的であった。2015年秋に、姉妹団体のヘリテージ・アクション・フォー・アメリカが発表した共和党候補に関する採点表では、トランプの公約について「巨大な関税案がアメリカ経済にダメージをもたらす」などと厳しい評価を並べていた。

しかし、2016年春に当時の所長ジム・デミント元上院議員の号令のもとで、ヘリテージ財団はトランプへの接近を図るようになり、以後最高裁人事案の提供などトランプ陣営に積極的に協力するようになった。一連の反トランプ書簡にも、ヘリテージ財団関係者は1人も署名しなかった。

トランプへの態度を変えた理由の1つに、1970年代初頭の設立以来、長年保守主義運動のリーダー役を自任してきたヘリテージ財団にとって、トランプを熱狂的に支持する草の根保守層の動向は無視できなかったものと思われる。

もっとも、その後もヘリテージ財団がトランプと異なる立場を示すことはあった。ジョージ・フロイド殺害事件を受けて人種差別を非難し、コロナ禍での行動規制を当初支持したことは、そうした例であった。また、トランプ政権が取り組もうとしていたビッグ・テック規制に対しても反対を表明した。

「トランプ後」の政治を見据えて、トランプへの全面的傾斜を避けようとしていた可能性があるが、その代償はあまりにも大きかった。

トランプの支持者がヘリテージ財団に対して猛反発したのであり、とくにFOXニュースのタッカー・カールソンは自身の番組で「もはやヘリテージ財団は保守主義者の利益を代表していない」と訴え、またあるときにはヘリテージ財団の支援者に向かって別の団体に寄付するべきだと呼びかけることすらあった。

こうした突き上げはヘリテージ財団を激しく動揺させた可能性があり、以後、同財団は親トランプ路線を一気に加速させていく。

まず、2018年から所長を務めていたケイ・コールズ・ジェームズが退任し、トランプ政権に一定の影響力を及ぼしていたテキサス公共政策財団のケヴィン・ロバーツを2021年末に新たな所長に迎える。この新体制発足からまもなく、第二次トランプ政権の誕生を意識した政策提言と人材確保を目的とした「プロジェクト2025」が始動した。

同プロジェクトにはMAGA運動のリーダーとしての座を確立するとの狙いが明確にあり、100を超える保守派団体とともに、トランプの側近を含む140名に及ぶ第一次トランプ政権出身者の協力を確保した。2023年春に発表された『リーダーシップのための負託(Mandate for Leadership)』は、同プロジェクトの成果の一部であった。

同時に、親トランプ路線の加速は、ヘリテージ財団が唱える政策の中身にも反映されるようになった。

伝統的に対露強硬派であったヘリテージ財団は、ロシア・ウクライナ戦争勃発直後こそ、ウクライナ支援を強く支持していたものの、トランプが支援反対論を唱えると「ウクライナ支援はアメリカ・ラストだ」と突如訴えるようになり、この急旋回を受けて安全保障の研究を担当していたベテランの研究員たちが相次いで去っていった。

また、ヘリテージ財団は自由貿易を推進してきたが、『リーダーシップのための負託』では、保護貿易派の代表格であるピーター・ナヴァロの主張も盛り込まれた。

以上のように、かつてレーガンとの関係を通じて保守派を代表するシンクタンクへと飛躍を遂げたヘリテージ財団は、MAGA派シンクタンクと化したのであった。

 

MAGA派インフラの広がり

保守系シンクタンク

MAGA派インフラの形成において、第一次トランプ政権の元高官が果たした役割も無視することができない。

過去の共和党政権では、退任した元高官がAEIやフーヴァー研究所といった伝統的な保守系シンクタンクに移籍する例が数多く見られたが、第一次トランプ政権で高官を務めた人びとは、バイデン政権発足後、保守系シンクタンクに移籍する代わりに、「アメリカ・ファースト」を標榜するシンクタンクや団体を次々と立ち上げていった。

ラッセル・ヴォートはその1人であった。第一次トランプ政権に入る前、ヘリテージ・アクションの幹部であったヴォートは、行政管理予算局長を退任後、ヘリテージ財団には戻らず、自らアメリカ刷新センター(CRA)を設立している。おそらく、このような状況もヘリテージ財団が親トランプ路線を加速させた一因であったと思われる。

多くの第一次トランプ政権の元閣僚・高官が結集して誕生したアメリカ・ファースト・ポリシー・インスティテュート(AFPI)は、以上の動きの象徴であった。

初代所長を務めたのは、第一次トランプ政権の国内政策会議委員長であったブルック・ロリンズである。ロリンズは、かつてテキサス公共政策財団を指揮しており、彼女の政権入りに伴い同財団を率いるようになったのが先のロバーツであった。

2024年大統領選では、「プロジェクト2025」ほど取り沙汰されなかったものの、AFPIも政策提言と人材確保を柱とした「米国第一主義移行プロジェクト」という、政権移行プロジェクトを実施し、2024年春には第一次トランプ政権で安全保障担当の高官であったキース・ケロッグやフレデリック・フライツが中心となり『米国国家安全保障へのアメリカ・ファースト・アプローチ(An America First Approach to U.S. National Security)』という政策提言集を発表している。

2017年にヘリテージ財団所長を退任したデミントが設立したコンサーバティブ・パートナーシップ・インスティテュート(CPI)もMAGA派インフラの代表格であり、資金提供などを通じて「アメリカ・ファースト」を唱えるシンクタンクや団体の立ち上げを支援してきた。ヴォートのCRAもCPIの支援を受けて誕生したシンクタンクである。

スティーブン・ミラーの法曹団体アメリカ・ファースト・リーガル、トム・ジョーンズの政府監視団体の米国説明責任財団、ソーラブ・シャルマの人材育成団体アメリカン・モーメントなども、CPIの支援を受けて生まれている。

トランプ現象を擁護する論文で知られたマイケル・アントンが在籍していたクレアモント研究所や、若手論客のオレン・キャスが率いるアメリカン・コンパス(AC)も、MAGA派との連携を強めた。ACについては、J・D・ヴァンスやマルコ・ルビオに近いシンクタンクとしても知られている。

また、最近ではMAGA派は対外政策をめぐる抑制派の一派と位置付けられているが、2016年以降、こうした抑制主義を明確に掲げるシンクタンクも登場している。

この種のシンクタンクについては、クインジー研究所が広く知られているが、同じく抑制派を代表するディフェンス・プライオリティーズ(DP)は、MAGA派と一定のつながりを有しており、例えば、ウクライナ支援法案の先延ばしを求めて、AFPI、CPI、CRAなどと「共闘」したことがある。

 

第二次トランプ政権に対する政策・人材の供給源

MAGA派インフラは、すでに第二次トランプ政権の動向に多大な影響力を及ぼしている。「プロジェクト2025」は、正にその1つである。たしかに、2024年大統領選を通じて「プロジェクト2025」はメディアで頻繁に取り上げられ、民主党やリベラル派団体からは「トランプに近い団体が過激な主張を行なっている」といった集中砲火を浴びた。

選挙戦中にシンクタンクが注目されることは滅多になく、トランプ陣営幹部も選挙戦への悪影響を懸念するようになり、一時トランプ本人も「自分はまったく知らない」などと発言し距離を置くこともあった。

しかし、トランプの側近を含む多くの第一次トランプ政権出身者が関与してまとめられた900頁を超える政策提言集が、第二次トランプ政権にとっての重要な指針の1つになっていることはほぼ間違いない。

『ニューヨーク・タイムズ』紙(2025年2月14日付)も、2月半ばの時点で、「移民」、「気候」、「多様性・公平性・包括性(DEI)」、「公衆衛生」、「性・ジェンダー」、「連邦政府職員」、「その他」の分野で打ち出された現政権の政策と、『リーダーシップのための負託』とのあいだで多くの類似性が確認できると詳細に分析している。

3月下旬にトランプ大統領が署名した、教育省の解体を開始するという大統領令についても、『リーダーシップのための負託』が提言している政策案の1つである。「プロジェクト2025」以外では、AFPIの政権移行プロジェクトやCRAの分析レポートなども第二次トランプ政権に影響を及ぼしていると言われている。

MAGA派シンクタンクは、第二次トランプ政権のための人材供給源としても機能している。

なかでも、「第二次トランプ政権待機組」と呼ばれたAFPIは突出しており、ロリンズが農務長官、リンダ・マクマホンが教育長官、パム・ボンディが司法長官、ジョン・ラトクリフが中央情報局(CIA)長官、リー・ゼルディンが環境保護局長官、ケヴィン・ハセットが国家経済会議委員長、マシュー・ウィテカーが北大西洋条約機構(NATO)大使、キース・ケロッグがウクライナ担当特使にそれぞれ起用されるなど、現政権に対する最大の人材供給源と言っても良い。

「プロジェクト2025」に参加した者の多くも政府高官に起用されており、そのなかには、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官、トム・ホーマン国境対策担当責任者、ピーター・ナヴァロ大統領上級顧問(貿易・製造業)、マイケル・エリスCIA副長官、エルブリッジ・コルビー国防次官(政策)が含まれる。

CRAからは、ヴォートとマーク・パオレッタがそれぞれ行政管理予算局長と行政管理予算局顧問に復帰し、以前CRAに在籍していたキャッシュ・パテルもFBI長官に任命されている。クレアモント研究所からは、マイケル・アントンが国務省政策企画部長に起用され、ACからは、マイク・ニードハムが国務省顧問に任命されている。

DPも一定の存在感を発揮しており、ウィリアム・ルーガーが国家情報副長官、マイケル・ディミノが国防次官補代理にそれぞれ起用されている。

このように、MAGA派インフラの関係者が続々と政権入りを果たしているが、「プロジェクト2025」では、政策提言と並んで、職業公務員のポストに供給する人材データベースを整備していることも忘れてはならず、そのなかにはトランプへの忠誠心のみで選ばれた政府機関での職務経験のない人びとの情報も少なからず含まれていると見られる。

政府効率化省(DOGE)が主導する職業公務員の大規模人員整理の動きが進むなかで、今後素人同然のMAGA人材が政府機関で大量に採用される可能性は否定できず、政治任用職の人事と並んで、注視すべきであろう。

 

政権人事の特徴

MAGA派インフラとは対照的に、共和党主流派の中核的拠点の1つとして、歴代共和党政権に対する政策・人材の主たる供給源であった伝統的な保守系シンクタンクの存在感は、現政権において乏しい。たしかに「ネバー・トランプ派」への反発から第一次政権では保守系シンクタンク関係者が政府高官に起用された例は決して多くなかったが、現政権ではより少数にとどまるかもしれない。

8年前、ワシントンの政策コミュニティにおいて「アメリカ・ファースト」を体現する人材は限られていた。そのため、第一次政権では「トランプ政権の大人たち」に代表される共和党主流派が政権入りする余地が生まれたが、トランプや側近たちはそれらの人びとによって「妨害」されたとの認識を強くもっている。

そして、こうした認識から、ヴァンスやトランプ・ジュニアらが中心となり共和党主流派の政権入りをかなり警戒している模様であり、ハドソン研究所に在籍していたマイク・ポンペオ元国務長官が国防長官への起用が噂されながら、トランプ自身によって早々に否定されたのは、ポンペオの立場が「アメリカ・ファースト」に反すると懸念されたからだとも言われている。

ある伝統的な保守系シンクタンクについては、「ネオコンの巣だ」としてトランプ周辺によって否定的に見られているとされ、またこうした政権内部の動きに、タッカー・カールソンや極右活動家のローラ・ルーマーらも影響を及ぼしているとの報道もある。

MAGA派インフラが大きな影響力を行使する一方で、伝統的な保守系シンクタンク関係者をはじめとする共和党主流派の存在感が乏しい政権内部の実態を見ると、トランプ政権が今後も「アメリカ・ファースト」に基づく政策を強行していくであろうことは十分考えられる。

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