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フードテックが変える食卓...生成AIの活用で誰でも“食のクリエイター”に?

2026年05月11日 公開
2026年05月11日 更新

田中宏隆(UnlocX代表取締役CEO) 岡田亜希子(UnlocX Insight Specialist)

皆さんは"フードテック"という言葉をご存じだろうか?

食のシーンにデジタル技術(特にIoT)やバイオサイエンスなどが融合することで起こるイノベーションのトレンドの総称であり、特定の技術というわけではない、食に関わる無数の技術の集合知と言われる。

我々はフードテックを駆使することで、誰でも簡単にYouTuberに挑戦できるように"食のクリエイター"になれるのか?フードテックの今に詳しい田中宏隆氏、岡田亜希子氏に解説して頂く。

※本記事は田中宏隆/岡田亜希子著『フードテックで変わる食の未来』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

食品業界でもファブレス化が起きている

ハイテク業界では、2010年頃からファブレス化(生産を別会社に委託し工場[fab]を持たずに研究開発や製品設計だけ行うこと)が進み、多くのスタートアップを生み出す素地がつくられた。

スタートアップが自由にデザインしたものをこうした委託先が大量に生産していく構図になっていったのである。

それが今、食品業界で起きている。欧州の植物性プロテイン製品の生産を、タイの食品メーカーが担うなど、同様の事例が見受けられるのだ。日本の事例を挙げると、ベースフードは味の素と協業し、ベースフードのプロダクトの味の開発を味の素の専門家が支援している。

食の安定供給と安心と安全を重要視したモノづくりを行ってきた食品メーカーの役割は「創造的価値の創出」においても重要な役割を担うようになる。

人々が起業家として、社会活動家として、あるいはライフスタイルの一部として、食の創作活動をするようになる時代、起業家・クリエイターに対して「技術」や「材料」、「場所」といったリソースを供給するのもメーカーの役割になろう。

また、起業家たちが生み出した価値の完成度を高め、大規模化して国内や海外に展開しイノベーションを普及させるという役割もある。さらに、技術の研究開発も企業が重要な役割を引き続き担っていくだろう。

 

生成AIで引き出される私たちの創造欲求

近未来、私たちの創造力は生成AIによって強化されていく。生成AIを使って、絵を描いたことがある読者の方も多いのではないだろうか。生成AIを立ち上げ、描いて欲しい絵のイメージを伝えれば、かなり完成度の高い絵が生成される。 

類似したことは料理のレシピの世界でも起こりつつある。

キッチンOS(調理家電のIoT化によってキッチン関連のアプリを連携させる基盤)は、どんな料理を作りたいのか、どんな食材が冷蔵庫にあるのか、どんな食べ物が好きなのか、さまざまな要素を汲み取って、食事のイメージ図を表示させ、作り方をガイドする。

米国のスタートアップであるサイドシェフが提供する「My Substitution AI」は、ユーザーの好みに基づいてレシピを調整する。あらかじめ用意されたレシピを提供するだけではなく、その時に応じて生成するのだ。

例えば、通常であれば肉が含まれているタコスのレシピについて、ユーザーが「肉なし」を選択した場合、AIは野菜ベースのレシピを作成するために、材料と手順を調整する。

このアプリは料理の写真からレシピを生成し、材料リスト、ステップバイステップの手順、カバー画像を提供することもできる。

サイドシェフはさらに、AIが生成した画像とレシピの手順に沿った説明ビデオを作成するツールを提供し、調理プロセスの最初から最後までユーザーをガイドする。ユーザーが「料理する」時にモチベーションが上がり、また失敗しないように、一人一人の料理のスキルに寄り添ってくれる、というわけだ。

アボカドの切り方がわからなければ、AIが適切なテクニックを示してくれる。加えて、レシピに基づいて正確な温度やタイミングになるように、オーブンなどのキッチン家電を自動的に調整するIoT機能まで統合しているのだ。

キッチン家電側でAIが生成したコンテンツを独自に作成・管理することができるので、レシピが気に入ったならば、また再現することも可能だ。

今でも都度検索すれば解決することではあるが、このアプリでは、ユーザーが作りたいと思った料理について、そのユーザーに合わせてAIで必要な情報を生成して伝えていく。

ユーザーの料理のプロセスを最初から最後まで支援するのだ。こうしたアプリが2025年時点ですでに実装されている。生成AIの対話形式のインターフェースは料理支援に非常に向いていると言えよう。

この進化は、ユーザー自身が「料理をする」、「創作していく」ことの支援が起点となっている。

レシピサービスはこれまでもユーザーの料理プロセスを支援してきたが、生成AIが入ってくることによって、ユーザー側のアレンジやアイデアを取り入れやすくなったわけだ。テクノロジー側では、ユーザーの創造欲求に答える準備はすでにできている。

2025年現在、誰でもYouTuberとなって動画制作に挑戦することが珍しくなくなる、という進化があったことを考えれば、誰でも食のクリエイターになることも夢ではなく、そんな未来を創るというのも一つの選択肢なのだ。

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