2020年10月25日 公開
2020年10月26日 更新
――これまで数多くの本を読まれてきた鈴木さんが、もしも「バイブル」を一冊挙げるならば何でしょうか。
【鈴木】 読書にグッとのめり込むきっかけが、筒井康隆さんの『時をかける少女』(角川文庫)だったんです。読書好きでなくとも知っている名作です。
私は小学6年生のころに読んだのですが、タイムトラベルの内容なのにとてもわかりやすくて、一度読み始めたら止まりませんでした。
短編でもなく長編でもない点も、当時の私にはちょうど良かったのかもしれません。
『時かけ』からSFにハマり、小学6年生から中学1年生にかけてはSFに熱中していましたね。
最近はこの分野に限らず満遍ないジャンルの本を読んでいますが、『時かけ』は間違いなく、私に読書の愉しみを教えてくれた一冊です。
――鈴木さんのような読書家がいる一方で、1カ月に本をまったく読まない人は半数に上るといわれています(国立青少年教育振興機構、2019年。20~60代の全年代を対象)。日本人の「本離れ」について思うことはありますか。
【鈴木】 たしかに読書離れは進んでいるなと感じます。学業や仕事で忙しいと、なかなか本を読む時間はとれないですよね。
それでも、明治から昭和初期の文豪をキャラクター化したアニメ「文豪ストレイドッグス」が流行ったり、声優さんの読み聞かせオーディオが話題になったりと、本に対するイメージが柔らかくなる動きは起きています。
私は紙の本ばかりを読んでいますが、電子書籍を利用している人だっていますね。幅広い世代の人が本に親しめる試みがこれからも増えてほしいです。
――電子書籍はあまり読まないとのことですが、紙の本やリアルな書店へのこだわりはあるのですか。
【鈴木】 そうですね。これまでずっと紙の本に触れてきたし、ページをめくる感覚が好きなので。幼いころ、父がもっていた本を私が手にとったように、次の世代にリアルな本をつないでいきたい気持ちはあります。
あと私は昔からかなりインドアだったのですが、家族は山や海へ行こうというタイプでした。だからお出かけに誘われても、「家にいたい」と思うことが少なくありませんでした。
でも書店や図書館なら、こんな私でもお出かけすることが楽しくなる。私のなかで本は、自分と家族をつないでくれる存在だったんです。家族と一緒にいられる場所をつくってくれた本には感謝しています。
――本は知識を得たり感性を磨いたりするだけではなく、人とつながるきっかけにもなりますね。
【鈴木】 もう一つお話しすると、学生時代、友人からある本をもらったことがあります。
彼女はあることにとても悩んでいて、それが理由だからか、表紙やページに傷ついている箇所がありました。その痕は、彼女がどういう思いでその本を読んでいたのかを私に訴えているようでした。
書物には人の心が宿っている。そのときから、モノとしての本をより大切にするようになりました。
更新:11月25日 00:05