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対新型コロナ、リアリズムと「新しい地政学」の思考をもて

2020年04月15日 公開
2022年08月02日 更新

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

排外主義に溺れている余裕はない

ただし、そのことによって国際協力が不要になったわけではない。

ポピュリズムやナショナリズムが強まったことで、たしかにこれまでよりも国際協力が困難となっている側面はあるだろう。

しかしながら、過去5年ほどのあいだに日本政府はインド太平洋という地政学的に重要な地域に注目し、そこでの地域協力の強化をめざしてきた。

そして、同盟国であるアメリカとの関係を強化しながらも、同時に価値を共有するパートナー諸国、すなわちオーストラリアやインド、イギリス、フランスなどとも協力しながら、「自由で開かれたインド太平洋」構想を進展させてきた。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためにも、またこれから困難に直面する世界経済が悪化していくのを防ぐためにも、これらの諸国との協力がよりいっそう重要となるであろう。

これらの諸国は、「国際公共財」を守るためにこれまで積極的な貢献をなしてきたからだ。

他方で、政策の予測不可能性が高く、ポピュリズムの性質が強いトランプ大統領のアメリカや、よりいっそう国内社会の不満が鬱屈する中国、そして新型コロナウイルスの影響で国内経済が深刻な影響を受けるであろう韓国などとの関係は、これまで以上に困難な局面を見ることになるかもしれない。

ただ、何よりも必要なことは、日本の政治や経済が十分な「免疫力」を備えて、「健康」であることであり、また国家が十分に機能して、それを前提とした他国との協力が深化できることである。

些末な政局に拘泥し、国益を損ねるような排外主義に溺れている余裕は日本にはないのだ。

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