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対新型コロナ、リアリズムと「新しい地政学」の思考をもて

2020年04月15日 公開
2024年12月16日 更新

細谷雄一(慶應義塾大学法学部教授)

写真:吉田和本

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界は協調するどころかむしろ国家間対立が深まっている。そのなかで日本はいかなる政策をとるべきか。慶応義塾大学法学部教授の細谷雄一氏は、我が国が生き抜くための3つの処方箋を提言する。

本稿は月刊誌『Voice』2020年5月号、細谷雄一氏の「政治経済の『免疫力』を備えよ」より一部抜粋・編集したものです。

 

日本が重視すべき3つの要素

新型コロナ禍に直面するなかで、日本はどのような政策を選択するべきであろうか。

日本政府はどのようにして、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止して、国民の生命の安全を守るべきなのか。

それを考えるうえで、以下の3つの要素に留意することが重要だ。

まず、第1に、リアリズムの復権である。

日本国憲法前文では、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書かれている。

だがわれわれが記憶する限り、現在ほどそのような「諸国民の公正と信義に信頼」することができない時代はなかった。

われわれに必要なのは、リアリズムである。つまりは、自らの経済力や軍事力に頼って、日本の安全と生存を守っていかなければならない。

いかなる国といえども自国の国益、そして自国民の安全を最優先するのはやむをえない。

日本もまた、日本国民の安全と日本自らの国益を最優先することが必要となり、それが可能となるような十分なパワーを保持することが不可欠となる。

重要なのは、日本が感染症の拡大抑制のため、さらには経済状況を好転させるために十分なパワーを備えているかどうかである。

それと並び、第2に、自助(セルフヘルプ)の精神がこれまで以上に重要となるだろう。

たとえば、WHO(世界保健機関)は有益な数値やデータを提供してくれるであろう。

だが、他方でテドロス事務局長の楽観的な見通しに頼って入国制限を控えていたことで、2月から3月初頭にかけて、ウイルスに感染した中国人観光客が日本を訪問して、感染拡大につながった可能性が高い。

台湾のように、初期から徹底した感染拡大を抑制するための措置をとるほうが、より賢明であったのではないか。

結局のところ、自国民の生命と安全を守ることができるのは、自国の政府のみであろう。

感染症やテロリズム、犯罪、大気汚染など、多くの課題が国境を越えて流入する。

自国民の生命や安全をそれらから守るために、国際組織や外国政府は多くのことをしてくれるわけではない。まずは、自国による自助が重要となる。それはどの国でも同様であろう。

第3に、地政学的な思考を有することである。

その場合の地政学とは、新しい地政学であり、グローバル化の時代の、サイバーや宇宙などの領域を含めた新しい思考に基づくものでなければならない。

たとえば、アメリカと中国が自らの政治体制の優位性、経済力の強靭性、国際秩序構想の包摂性をめぐり競争しているときに、日本はそれを前提に政策を立案することが不可欠となる。

いわば、そのような米中対立の構造のなかに、自らの日中関係や日ロ関係を位置付けなければならない。

必ずしも日本がアメリカと同じ政策を選択しなければならないわけではないし、対中関係や対ロ関係を改善する努力を怠る必要もない。

ただし、たとえば現在の新型コロナウイルスの感染拡大の責任をめぐって米中間でプロパガンダ戦を戦っているとすれば、そのことが日本の外交にも不可避的に影響を及ぼすであろう。

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