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「祖国の父は人質にされ生死も…」在日ウイグル人をも追い込む中国共産党

2019年06月28日 公開
2024年12月16日 更新

福島香織(ジャーナリスト)

ウルムチでは交通違反者の顔を晒して社会制裁を行なう
ウルムチでは交通違反者の顔を晒して社会制裁を行なう(写真撮影:福島香織)

<<収容者数100万人といわれ、米国務省がいま世界的な人権問題として警鐘を鳴らすウイグル人の強制収容。中国はなぜ彼らを恐れるのか?

ジャーナリストの福島香織氏が上梓した『ウイグル人に何が起きているのか』(PHP新書)では、自身が現地へ潜入し、現地ルポとウイグル人へのインタビューを通して「監獄社会」化する同地の異様な全貌を明らかにしている。本稿では中国の統制が在日ウイグル人にも及ぶことを示した一節を紹介する。>>

※本稿は『ウイグル人に何が起きているのか 民族迫害の起源と現在』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

在日ウイグル人の苦しみ。日本にいても伸びる魔の手

2018年秋ごろから、英米メディアの後追いというかたちで日本でもウイグル問題が少しずつ報じられるようになったが、依然、及び腰が続いている。

ウイグル問題は取材リスクが高いわりには、読者・視聴者の関心が低いテーマであるということも大きい。だが、日本人にとって本当に遠い国の無関係な出来事だろうか。

中国共産党のウイグル弾圧は、じつは日本でも行われている。留学や就職のために日本で暮らすウイグル人たちも、この中国共産党の民族弾圧の危機に晒され、日々恐怖を感じているのだ。

日本には2000人前後のウイグル人、あるいはウイグル系日本人が暮らしている。私は東京近郊に暮らすウイグル人社会人、留学生たち約20人にインタビューしたが、その誰もが、家族の誰かを再教育施設に収容されていた。

日本に来て10年、いまは日本国籍を取得しているウイグル系日本人会社員のウマル(仮名、35歳)も、その一人だ。「在日ウイグル人の苦しみを知ってほしい」。

2018年の秋にウェブメディアに掲載されたウイグル問題に関する私の寄稿を読んで、メールでコンタクトをとってきた。10月のある日、都内のトルコ料理屋で待ち合わせをして話を聞いた。

顔こそウイグル人らしい彫の深い髭を蓄えた目鼻立ちだが、日本語のイントネーションや背広姿の物腰など、普通の日本人サラリーマンと変わらない。日本の名門大学の理工系で学び、研究者の道も考えたが、日本で家族を養っていくためにサラリーマンになったという。

同郷の妻と子供もすでに日本国籍を取得している。「中国で起きているウイグル人弾圧のことなど完全に忘れて、日本人として生きていく選択もできました。ですが、やはり私はウイグル人なのです」と語り、仕事の合間に、日本のメディアに対し、ウイグル問題を報道してくれるように働きかける活動を続けている。

この活動を始めたきっかけは、父親はじめ親族が「再教育施設」に収容されたことだった。

70歳を超える父親を含め、親族10人以上が「再教育施設」に収容されている。父親が収容されたのは2017年夏のことだった。「父が入院した、と母親がいうのです」。何の病気? と問い質すと、口ごもる。それで、再教育施設に収容されたのだと察したという。

すでに、いとこや叔父が収容されていたことは聞いていた。監視されているSNSのメッセージで「再教育施設」や「強制収容」という言葉が出てくると、それだけで新疆公安当局の"ブラックリスト"に掲載されてしまう、と信じられていた。

実際、収容に来た警官から「収容されたことを外国にいる家族に話した」という理由で身柄拘束された、という例を他のウイグル人から聞いていた。だから、家族が強制収容されたことを、伝えるときはあいまいに「入院した」「学校に呼び出された」といった表現を使うのだ。再教育施設は、古い病院や学校施設を改造したものも多いからだ。

ウマルは、次々と家族、親族が捕まっている状況に、年老いて病気がちの母の不安を思うと帰国して励ましたかった。だが中国に入れば、たとえ日本国籍をもっていても、どんな目に遭うか分からない。

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「父は殺されるかもしれないし、もう殺されているかもしれない」 >

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