2018年10月22日 公開
2022年12月15日 更新
ひととおり、エンペラー、キング、皇帝、王、それぞれの意味を押さえたところで、改めて、「天皇」という言葉の意味を考えてみます。
日本の天皇はエンペラーなのかキングなのかといえば、キングです。エンペラーではありません。日本国民という同一民族の長だからです(かなり難しい議論なので、小著『世界の歴史はウソばかり 倉山満の国民国家論』ビジネス社、2018年もご参照ください)。
そして、王者の意味としての王でもあります。
「公地公民」を「王土王民」ともいい、皇室のことを「王家」といった例があることからも、「王」だということがわかります。
では、天皇は王だから皇帝の下の者なのかというと、それはまったく違います。どこかの王のように中華皇帝の子分ではありません。
古代、推古天皇が小野妹子を大使として隋に派遣したときに、隋の皇帝に対する訪問の挨拶で「私、天皇。あなた、皇帝」(「東天皇、敬みて西皇帝に白す。」
原文引用は小島憲之他校注訳『日本書紀②』小学館、1996年)と対等関係であることを述べていることにも、はっきりと現れています。
しかし、「王」と名乗っていると、中華皇帝の下にいるのかと思われてしまう恐れが大です。そうした勘違い、あるいは悪意に満ちた解釈を招かないためにも日本の天皇は皇帝なのか王なのかと問われれば、「皇帝です」となるわけです。
また、19世紀には世界で「皇帝のインフレ」が起きていて、なかには、ぽっと出の成り上がりがエンペラーを名乗ってしまっている場合がありました。そのような状況のなかで天皇を「キング」としてしまうと、インフレ皇帝らの格下に思われるのも心外でした。
こうした背景があって、天皇の意味するところは「王」であって「皇帝」ではないのだけれど、「王」や「king(キング)」は使わず、「皇帝」としました。そして、その「皇帝」の定訳を「emperor(エンペラー)」にしたのです。
日本の天皇は中華皇帝とも、ヨーロッパのエンペラーともまったく性質が異なる存在です。しかし、外国との交際、すなわち外交のために対外的にはエンペラー・皇帝の称号を使い、現在に至っています。
更新:11月22日 00:05