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若者が選挙に行かないと何が問題? 橋下徹がそれでも投票を勧める訳

2024年10月15日 公開
2024年12月16日 更新

橋下徹(元大阪府知事)

橋下徹

若者の「政治離れ」「投票率の低さ」がしばしば指摘されるが、選挙に行かないと何が問題なのか? 橋下徹氏は「投票所に行かないということは、どんな社会になっても別にいいよと放り投げているのと同じ」だと言う。選挙の本当の重要性について、書籍『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』より紹介する。(写真:的野弘路)

※本稿は、橋下徹著『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。

 

「政治なんて興味ない」では自分が損をする

「政治」と聞くと、さっと身構えてしまう人が大勢います。

僕はときどき、政治に文句を言っている人たちに「だったら、一度ご自身が政治家になってみたらどうですか?」と、嫌味ではなく本心から声をかけることがあります。すると、ものすごい勢いで「いやいやいや!」と返ってくる(笑)。「僕なんかそんな器ではありませんよ」「私はそういうタイプではないので」と。

でも、そうでしょうか?

本当に一度「政治」に関わってみるといいと思うんです。実際の経験からすると、たしかにかなり大変ですが、やっぱりやりがいはありますし、自分たちの手で社会をつくっていくんだという意識が生まれます。大変さに見合うだけのやりがいや面白さは十分にありますよ。

この点、「政治家」という肩書こそつかなくても、じつは僕ら国民は何かしらの形で「政治」に関係しています。なにもテレビの国会中継や報道番組で目にするばかりが「政治」ではなく、日常生活の至る所に「政治」は隠れているんです。

たとえば、学校の校則を変えようと奮闘する生徒たちの努力も「政治」ですし、自治体を良くしようと町内会の大人たちが話し合うのも「政治」です。学校運営に協力する保護者と先生たちが行なうPTA活動もある意味「政治」ですし、企業やNPOの活動も「政治」と強く結びついています。

「俺は政治なんて全然興味ないね」
「私は政治なんてよくわからないから」

そんな人も、生きていく限り、「政治」と無縁ではいられないのです。いま日本国民は満6歳で小学校に入学し、中学校卒業までの9年間を義務教育機関で過ごします。それは政治家たちが、それが妥当であろうと考え、決めたからです。

選挙権が与えられるのが18歳で、飲酒や喫煙が許されるのは20歳からと決まっているのも、政治家たちがそう決めたからです。

18歳になれば、学校でも政治の仕組みを勉強し、自らの頭で政治家を選ぶ判断力がついているだろう。とはいえ10代の飲酒や喫煙は健康を害する危険性があるから、それらは20歳以降にしたほうがいいだろう。そんなふうに話し合われた結果です。

あなたが社会で働くようになれば、働いて得た所得から所得税・住民税や国民(厚生)年金の保険料、健康保険料や介護保険料が引かれていきます。そうした仕組みを整えたのも、政治家たちが、社会を維持するためにベストな方法であろうと定めたからです。

反対に、突然職を失ったり、病気や怪我や高齢で働けなくなったりしたら、傷病手当や年金制度などで生活基盤が保障されます。それも政治家たちが話し合い、検討した結果です。

一方でいま、日本の政治家たちが多額の裏金をつくり懐に入れても罰せられないのは、政治家たちが、それで良いと決めたからです。日本の社会を良くするために働くのが政治家ですが、同時に政治家のもとに多額のカネが集まるようになってしまったのも、日本の政治家たちがそれを良しとしてきたからです。

別の言い方をすれば、「政治家のもとにカネが集まるのはおかしい!」と声を上げ、現状を変えたいならば、自分たちが積極的に政治に参加していくしかないのです。

政治は、生きています。有史以来、固定化された「政治」が何百年、何千年と続いてきたわけではありません。僕らがいま日本社会で当たり前のように使っている「政治」という言葉と概念は、たかだか戦後80年くらいで築かれたもの。戦前、あるいは明治時代には、まったく異なる常識のもとで、政治は運営されてきたのです。

政治はその時々の国や地域、時代、政治家や国民の考え方で変容していくものです。一度つくったルールや仕組みは、できた当初には最適だろうと思われていたかもしれません。でも30年、50年が経てば「やっぱり間違っていた」「理想と現実は異なっていた」、あるいは「世の中が大きく変わった」と気づくこともあるでしょう。

だから僕らはつねに「政治」に参加し続けなくてはなりません。政治家だろうと、一般市民だろうと、政治に興味があろうとなかろうと、「いまの政治はこれでいいのか」「未来もこのシステムでいいのか」を考え、意見を言い続けなくてはいけないのです。

 

「シルバー民主主義」が起こる理由

皆さんは、「シルバー民主主義」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

日本では若い世代の投票率が低く、投票所で見かけるのは、60代や70代の高齢者が圧倒的に多い。同じ民主主義でも、若者目線ではない、高齢者(シルバー)の意見に偏った社会になってしまっているということです。

日本はご存じのとおり、深刻な少子高齢化に直面しています。かつて団塊の世代と呼ばれた現在の70代、その子世代である第2次ベビーブーム期に誕生した50歳前後に比べ、いまの10代の数は激減しています。2023年の総人口比を見ると、65歳以上が29.1%を占めるのに対し、15歳未満は11.4%。

若者の選挙離れも深刻です。2021年10月に行なわれた衆議院議員総選挙における世代別投票率を見ると、60代の71.38%に比べ、20代は36.50%。団塊の世代は若い頃に学生紛争を経験しており、政治に比較的関心が高い世代です。しかし、それより下になると、シラケ世代という言葉もありましたが、「政治離れ」、政治への無関心が進んでいきました。

では、「シルバー民主主義」の何が問題か。若者が選挙に行かないと何が問題なのか。それは、政治家が「若者の声」を聴かなくなることです。

選挙とは、「あなた(政治家)に票を入れるから、私(有権者)の代わりに私たちが目指す社会をつくってね」と託す行為だと話してきましたね。

ところがこの「託す」行為をしない、政治家を自らの代理人として選ばない、選挙に行かないとなると、どうなるか。「政治には関心ないんだよね」「誰に入れても結局、同じでしょ」と投票所に行かないということは、「どんな社会になっても別にいいよ」と放り投げているのと同じです。

一方で、高齢者は選挙に行きます。「私たちの望む社会をつくってくれよ」と、自分たちの願いを政治家に託している。するとどうなるか。政治家は高齢者のほうを向いて「政治」を行なうようになりますよね。「政治」を託してくれているのは高齢者ばかりなのだから、ある意味当然です。

高齢者の声を無視してしまうと、政治家は次の選挙で落選してしまいます。政治家にとっては落選が最も怖い!

せっかく18歳以上の国民すべてに投票用紙を配り、「あなたたちの代表を選んでね」と言ってくれているのに、若者たちはその紙をゴミ箱に捨てているようなものです。これがどれほどもったいないことか。

明治時代の「選挙権」は、税金を一定以上納めている高額所得の男性にしか与えられていませんでした。女性はおろか男性でも、低所得者層は政治家として立候補する資格どころか、投票する資格すらなかったのです。そこから徐々に納税額基準が下がっていき、1925年にはようやく、納税額にかかわらず満25歳以上の男子なら誰でも選挙権を与えられることになりました。それでもまだ、女性は置き去りのままでした。

ようやく女性が選挙権を得たのは1945年で、翌1946年に男女問わず投票できる普通選挙が実施されました。戦後になってやっと、いま僕らに権利として与えられている普通選挙を実現することができたのです。

そして、2015年には18歳以上の男女に選挙権が与えられ(2016年施行)、日本の人口の約8割以上が「政治」に参加できるようになりました。日本の国籍を持つ18歳以上の男女なら、誰もが政治に参加できる。いまでこそ当たり前のこの権利を獲得するために、いったいどれほどの人びとの血と汗が流されたことか。

その努力と苦難の結晶を、いま多くの日本国民はいとも簡単にゴミ箱に投げ捨てているのです。これほどもったいないことはありません。

 

著者紹介

橋下徹(はしもと・とおる)

元大阪府知事

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。98年、橋下綜合法律事務所を開設。2008年に38歳で大阪府知事、11年に42歳で大阪市長に就任。大阪府庁1万人、大阪市役所3 万8000人の組織を動かし、大阪都構想住民投票の実施や行政組織・財政改革などを実現。15年、大阪市長を任期満了で退任。現在はテレビ出演、講演、執筆活動を中心に多方面で活動。

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