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公明党に懐疑的だった安倍元首相...なぜ“連立政権”は20年以上続いたのか?

2023年07月27日 公開

青山和弘(政治ジャーナリスト)

安倍晋三 総理大臣

2022年7月、参議院選挙の2日前に凶弾に倒れた安倍晋三元首相。総理大臣として過ごした8年8カ月の間、自民・公明の関係に何を思っていたのか。安倍元首相に徹底的に取材を重ねた政治ジャーナリストの青山和弘氏が振り返る。

※本稿は、『Voice』(2023年8月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「公明党との関係は考えないといけない」

自民・公明の連立政権で二度にわたり、のべ8年8カ月も総理大臣を務めた安倍晋三。しかし安倍は公明党という政党の姿勢にかねてから懐疑的だった。一度目の総理に就任する前、小泉純一郎政権当時の2004年、私にこう漏らしたことがある。

「公明党との関係は考えないといけないな。公明党は"国"というものを否定的に考えているところがある」

安倍は日本人が戦後抱えてきた国家という概念へのアレルギーから脱却して、「この国を自信と誇りの持てる国にしたい」(『美しい国へ』文春新書)という信念をもってきた。

そんな安倍が、公明党は国家という枠組みを否定的に考えていると指摘したことは深刻な意味をもつ。私は、公明党とはとても一緒に国政運営はできないと考えているのだと捉えた。

当時、党幹事長代理だった安倍は、早くも「ポスト小泉」の最有力と見られていた。しかし当時は、「自分にはまだ経験が不足している」と繰り返し、小泉のあとを受けて総理大臣になることに乗り気ではなかった。

そんな安倍に私は、「頭の体操ですが...」と断ったうえでこんな問いかけをした。

「いまの流れでいけば、自民党は近い将来に一度政権を手放す可能性がありますよね。そうなれば自公連立政権はいったんリセットされるでしょう。その後政権に復帰するときに、自民党単独政権で安倍総理が誕生するというシナリオはどうですか?」

安倍は満更でもないような笑みをつくって答えた。

「そのときにも私を支援してくれる人がいればだけどね」

その後の展開はご存じのとおりだ。2006年、安倍は「逃げるわけにはいかなくなった」として小泉のあとを受けた自公連立政権の総理大臣に就任。

その後下野して、3年あまり続いた民主党政権の間も、自民・公明の協力関係は崩れずに2012年政権を奪還し、そのタイミングで安倍が二度目の総理大臣に返り咲いた。そしていまだに"同床異夢"の自公連立政権は命脈を保っている。

 

薄氷の自公関係をつないだもの

「平和の党」を金看板とする公明党。保守色の強い安倍総理の下では、危機的な状況が何度も訪れた。公明党の支持母体・創価学会の関係者が語る。

「安保政策などでついていけないので野党に戻ってもいいという主張は、学会の中でつねに一定程度ありました。しかも安倍さんと山口(那津男)代表は、まったくケミストリーが合わなかった。ランチ会なんて冷ややかな雰囲気でしたよ。

でも、いざというときは安倍さんと仲がいい太田(昭宏元代表)さんが間を取りもった。そして菅(義偉元)官房長官は創価学会の佐藤(浩副会長)さんと太いパイプをつくり、さまざまな裏調整ができました。

それに何と言っても、自民党の二階(俊博前)幹事長が徹底的に公明党議員の面倒を見た。選挙のときにお願いに行くと、自民党候補そっちのけで応援してもらったこともあります」

二階には相当、公明党の面倒を見たという自負があるのだろう。

次期衆院選を巡り公明党は、東京での自民党候補の推薦見送りを決定したが、公明党内に充満する不満について記者に聞かれた二階は、「自民党ばかりがお世話になったんじゃない。向こう(公明党)にもお世話してるんです」と強く反論した。

このような持ちつ持たれつの関係を維持する幹部がいて、自公連立政権は20年以上も永らえてきたのだ。

安倍を含め、自民党が公明党を大切にしてきた理由。衆議院の一選挙区で1万から2万票あるという学会票の重みは言うまでもないが、それだけではない。

やはり、自民党が参議院でいまだに単独過半数に達していないためだ。1999年、小渕恵三元総理が公明党との連立を決断したのも、参議院での過半数割れの対応を迫られたからだ。

その後、2016年の参院選のあとに自民党は、無所属議員を入党させることで27年ぶりに単独過半数に達したが、2019年には再び割り込んだ。衆参のねじれを抱えて、安定した政権運営は望めない。

さらに安倍にはもう一つ理由があった。安倍が最大の政治目標として憲法改正を掲げていたことだ。二度目の総理になる前には「集団的自衛権(の行使容認)と憲法改正は必ずやる。できなかったら二度目の総理になる意味がない」と意気込んでいた。

憲法改正の発議には衆参両院で3分の2の賛成が必要で、公明党にももちろん賛成してもらわなければならない。

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