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倉山満 『国際法で読み解く戦後史の真実』に学ぶ核ミサイル論

2018年03月14日 公開
2024年12月16日 更新

倉山満(憲政史研究家)

核の先制使用が「国際法違反」にならない場合もある

 いま現在、日本の周辺諸国には核武装している国が3カ国あります。中国、ロシア、北朝鮮。いずれも、ならず者国家ばかりです。このならず者どもが、憎き日本に核ミサイルを撃ち込まない理由は何でしょうか。

 もちろん、日本が憲法9条を守り、平和を愛する近隣諸国を信じているからなどではありません。ひとえに、アメリカの核の傘があるからです。

 核兵器は非人道的兵器です。使うべきではありません。しかし、非人道的だから使わなかったわけではないのです。

 2016年8月15日、アメリカのワシントン・ポスト紙が「オバマ政権が導入の是非を検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に『北朝鮮に対する抑止力が弱体化する』として、反対の意向を伝えた。日本のほか、韓国や英仏など欧州の同盟国も強い懸念を示している」と伝えました。

 現在も「軍事は政治の延長である」というテーゼは健在です。国際社会は「鉄と金と紙」によって動いています。その3つのうちの「紙」こそ、政治の武器です。自分の身を守り、敵を攻撃する武器であり、プロパガンダの道具です。

 ところで、まだ軍事行動を起こしていない相手に核兵器をぶち込むのは国際法違反でしょうか。

 核兵器は非人道兵器なので使うこと自体が問題です。しかし仮に、核兵器を持っている国が、ある国から「お前の国を火の海にしてやる」といわれたときに、先に核兵器を使用したら侵攻であり、国際法違反なのでしょうか。

 侵攻(aggression)とは「挑発もされないのに、先制武力攻撃をすること」をいいます。重要なのは、「先に殴ったのはどちらか」ではなく、「どちらが挑発したか」=「戦いの原因をつくったか」です。

 昔、テレビ朝日の『朝まで生テレビ!』で、元プロレスラーの前田日明さんが辻元清美氏に対して、「やらんかったらやられるという状況で、先にやったって国際法違反ではない」と説教していました。武力攻撃の際に核を使うかどうかの問題以前に、「やらんかったらやられる」と思われる状況かどうかが重要、ということです。

 ただ、やられた相手とその仲間は「国際法違反だ」「侵略(aggression)だ!」と、プロパガンダするでしょう。国際法がプロパガンダの武器になるというのは、そういう意味です。

 オバマが「核の先制使用はしない」といったことの意味は、ならず者に「こっちが先にやられることはないな」と思わせたということです。少なくともそういうメッセージを送ったことは間違いありません。何の目的があるのかはさっぱり理解できません。

 ワシントン・ポスト紙の記事に対して、日本国内の各紙は、同月20日の記事として、安倍首相は「核の先制不使用についてのやりとりは、まったくなかった。どうしてこんな報道になるのかわからない」と否定し、「先般、オバマ大統領と広島を訪問し、核なき世界に向け決意を表明した。着実に前進するよう努力を重ねたい」と従来の見解を繰り返したうえで、先制不使用については「米側は何の決定も行なっていないと承知している。今後も米国政府と緊密に意思疎通を図っていきたい」と答えていると伝えました。

 安倍首相は公式には何もいっていないと言明しつつ、オバマの発言も否定しています。要約すると「私は聞いてない!」ということです。

「核の先制使用は、いかなる場合でも国際法違反となるわけではない」ということは、覚えておきましょう。

(本稿は、倉山満著『国際法で読み解く戦後史の真実』(PHP新書)第3章「国際法を理解できない者VS理解して破る者の『仁義なき冷戦』」の一部を抜粋したものです)

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