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医療報道をめぐる「嘘」

2018年06月12日 公開
2019年07月16日 更新

村中璃子(医師・ジャーナリスト)

フェイクニュースという名のデマ

「がんは治療するな」「医者にもらった薬に殺される」「ワクチンは危ない」――。フェイクニュースやオルタナティブファクトが注目される昨今、医療はその問題が顕著な分野の一つだ。

トランプ氏がアメリカ大統領選挙に勝利した2016年11月、日本では医療情報ウェブサイトWELQの問題が浮上した。運営元のDeNAが専門知識のないライターに、ネット検索でヒットすることを目的として、誤った内容の記事を大量に書かせていた問題である。WELQのサイトは閉鎖となった。

個別の議論に入る前に考えたいのは、「フェイクニュース(虚偽報道)」という流行語に隠れてしまった「デマゴギー(虚偽宣伝)」の問題である。

WELQ問題を受けて『毎日新聞』は2017年1月5日の夕刊に「どうすれば安全安心:あふれるネットの医療情報―だまされやすいと自覚を」という記事を掲載している。見出しからわかるとおり、新聞には、フェイクニュースは、インターネット空間で起きている問題であり、新聞やテレビなどの報道機関とは無関係だという自意識がある。

しかしながら、医療フェイクニュースにおける最大の問題点は、WELQのような広告費稼ぎのための無責任ビジネスではない。新聞・テレビといった報道機関が、命や健康に関わるデマを流していることだ。

背景にあるのは、世論形成プロセスの変化だ。かつては、テレビがニュースを速報し、新聞が世論をつくるのが原則だった。本質を見抜き、必要な取材を重ね、問題を提示するのは新聞・テレビの役割だった。

ところが現在では、ツイッターなどで速報され、盛り上がっている話題を、新聞やテレビが取り上げることで世論としてオーソライズされるパターンが多い。いまや問題提起を行なうのはSNSやウェブメディアで、新聞・テレビは報道機関というよりもオーソライズ機関なのだ。

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問題の淵源にある「専門家」の存在  >

著者紹介

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

一橋大学社会学部出身、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHOの新興・再興感染症チームの勤務を経て、現在は京都大学医学研究科非常勤講師を務める傍ら、医学と社会学のダブルメジャーで執筆や講演活動を行っている。2017年、科学誌「ネイチャー」等の主催するジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞。18年2月に、初の著書『10万個の子宮 あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』を上梓した。

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