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高橋洋一 森友・加計問題はフェイクニュース

2017年07月21日 公開
2024年12月16日 更新

髙橋洋一(嘉悦大学教授)

もりそば問題の発端は事務チョンボ

 森友学園問題と加計学園問題。もりそば、かけそばと永田町ではいわれている。共に、マスコミと野党の追及は不発だった。

 なぜ、真相に行き着かないのか。これはマスコミが、目の前の現象のみに注目するからだ。加計学園の前には森友学園問題があった。両者は似ていて、たしかに加計学園問題は「第二の森友学園問題」の様相を呈しているが、森友学園問題が空振りになった教訓を、野党やマスコミはまったく学んでいない。

 共に共通するのは、思い込みとベンチマークの欠如だ。

 その思い込みとは、森友学園問題では「総理の関与」で、今回の加計学園問題では「総理の意向」である。それがあるはずという前提で目の前の現象を追い続けるというのが、野党やマスコミである。

 こういうときには、別の事象の「ベンチマーク」を探すといい。これは、プロの数学者がしばしば使う方法だ。

 これまで誰も解いたことのない難問の場合、似たような構造をもった別の事象で問題を置き換える。そうすると、まったく別の事象であれば簡単に解けることがある。詳しくは省くが、300年以上、誰も解けなかった「フェルマーの最終定理」も、別のところで問題を解いて、その結果、フェルマーの最終定理が解けている。

 社会問題の真相の解明でも、同時並行的に起こっている事件がしばしば役に立つ。

 森友学園問題では、森友学園の土地ではなく、同じ一筆(所有権を示す区画単位)の東側の土地である。これは、森友学園に先行して豊中市に売却されている。そこでは、土中のゴミが発見されている。それにもかかわらず、この事実を知りうる立場のはずの財務局は、森友学園への売却では当初、その事実を相手方に伝えていない。ここが問題の本質だ。森友学園への売却が入札であれば瑕疵担保責任となったはずだ。いずれにしても、地中のゴミを伝えなかったので森友学園トラブルになって、近畿財務局は森友の意向を聞かざるをえなくなった。これが、いわゆる「値引き」の正体であるが、これをマスコミは「総理の関与」と報道したのだ。

 筆者がテレビで、本来近畿財務局は入札すべきだったと指摘したら、驚くことに財務省から放送直後にテレビ局にクレームが入った。テレビ局ではびっくりしていたが、すぐに筆者の意見は何も問題ないことを理解してもらった。ある政治家は、筆者のテレビ解説について財務省は必ずチェックしていると笑っていた。

 森友学園問題は、事の発端は近畿財務局の売却に当たっての事務チョンボ(ゴミの存在をいわなかった)であったが、籠池泰典理事長がそれに乗じて欲得に絡んで補助金不正受給をしていたために、その方向で事件が終結しようとしている。おそらく、財務省もこの情報を早くから掴んでおり、資料はなかったという徹底的な「たこつぼ作戦」で臨んだのだろう。近畿財務局の事務チョンボは人びとの記憶から消え去ろうとしている。

 

文科省のコールド負け

 加計学園問題では、文科省文書の信頼性がポイントである。マスコミや野党では文科省文書が正しいというのが大前提になっている。

 ところがこの大前提は、国家戦略特区ワーキンググループの議事録というベンチマークを検証することによってあっさり崩れる。この議事録は、文科省と内閣府が内容で合意済みの文書である。マスコミが話題にしている文科省文書はあくまで文科省内の文書であり、内閣府はチェックしていないので、この点において、議事録のほうが圧倒的に証拠能力が高い。

 しかも作成日時は、議事録のほうが文科省文書より先である。あとから書いた文書は前に書かれたものを改竄する可能性があるので、この点においても議事録のほうが文科省文書より信頼性が高い。

 実際に、大量にある議事録を見るのは一般人に大変であろうから、筆者が関係部分を抜き出しておこう。次の2つの議事録と、閣議決定文書を見るだけで、文科省文書の真相が見える。

①2015年6月8日 国家戦略特区ワーキンググループ議事録(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/hearing_s/150608_gijiyoushi_02.pdf

②2015年6月29日 閣議決定(文科省部分)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu22/siryo/__icsFiles/afieldfile/2015/09/02/1361479_14.pdf

③2016年9月16日 国家戦略特区ワーキンググループ議事録(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/h28/shouchou/160916_gijiyoushi_2.pdf

 マスコミは、これらの文書に言及しないで文科省文書のみを取り上げ、思い込みだけで報道している。これでは報道ではなく、フェイクニュースである。

 まず①と③を見れば、内閣府・特区有識者委員VS.文科省(農水省)による規制緩和議論は、前者の規制緩和推進派の完勝であることがわかる。野球で例えるならば、前者の10対0、5回コールド勝ちである(疑ってかかる前に、ぜひ読んでほしい)。

 ②の閣議決定では、要求されている獣医学部新設の需要見通しについて、許認可権をもち需要見通しの挙証責任がある文科省が、まったくその役割を果たせていないことがわかる。しかも②では、2015年度内(2016年3月まで)に獣医学部の新設の是非について検討するという期限が切られているが、それすら文科省は守れていない。

 これでは、文科省のコールド負けでも仕方ない。本件に関わる規制緩和の議論は、課長レベルの事務交渉で決着がついてしまっているのだ。だから、この問題で「総理の意向」が出てくる余地はまったくない。

 それでもマスコミは、あの文科省文書が本物かどうかに焦点を当てていた。本物であっても、それらが作成されたのは2016年9月後半であるから、文科省への宿題の期限(2016年3月)のあとになり、しかも③が作成された(2016年9月)あとでもある。

 はっきりいえば、勝負のついたあとに、文科省は言い訳をいっているだけにすぎないのだ。「文書」にある「総理の意向」という文言は、文科省側のでっち上げである。


(本記事は『Voice』2017年8月号、高橋洋一氏の「森友・加計問題はフェイクニュース」を一部、抜粋したものです。続きは現在発売中の8月号をご覧ください)

著者紹介

高橋洋一(たかはし・よういち)

嘉悦大学教授

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科、経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。1980年、大蔵省に入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣参事官などを歴任。2008年、退官。著書に、『日本人が知らされていない「お金」の真実』(青春出版社)ほか多数。

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