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医療報道をめぐる「嘘」

2018年06月12日 公開
2019年07月16日 更新

村中璃子(医師・ジャーナリスト)

子宮頸がんワクチン問題の特異点

新薬導入の際に観察される現象として「ウェーバー効果」が知られている。これは、新しい薬剤が導入されて最初の2年くらいは、副作用の報告数が多いことを指す。人びとが、知られていない悪い影響があるかもしれないと身構え、積極的に報告をするためだ。世界では常識となっているこの現象を、日本政府は無視し、両剤の使用を停止している。

では、タミフルにはなくて、子宮頸がんワクチン問題だけにあるものは何か。

それは、子宮頸がんワクチン薬害説を唱える「専門家」の存在であり、2016年7月には日本で、世界初となる、子宮頸がんワクチンによる被害に対する国家賠償を求める集団訴訟が提起されていることだ。2018年6月現在、子宮頸がんワクチンは、世界約140カ国で使用され、日本を含む約80カ国で定期接種となっている。

WHOも接種を推奨している。日本人特有の薬害だという疑義もあったが、名古屋市内に住む約7万人の若い女性を対象とした調査でも、ワクチン接種者と非接種者のあいだでけいれんや慢性の痛みなどの発症率に差がないことが示されている。

つまり、このワクチンの安全性について、科学的議論を行なう余地はない。にもかかわらず、国賠訴訟にまで発展した理由は何か。理由の1つは、SNSやブログなどインターネットを通じた「不安」の拡散であり、2つ目には、それが医者や弁護士といった「専門家」の関与で組織的な運動と化したことだ。 
 

(本記事は、『Voice』2018年7月号、村中璃子氏の「医療報道をめぐる嘘」を一部抜粋、編集したものです)

著者紹介

村中璃子(むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

一橋大学社会学部出身、社会学修士。北海道大学医学部卒。WHOの新興・再興感染症チームの勤務を経て、現在は京都大学医学研究科非常勤講師を務める傍ら、医学と社会学のダブルメジャーで執筆や講演活動を行っている。2017年、科学誌「ネイチャー」等の主催するジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞。18年2月に、初の著書『10万個の子宮 あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』を上梓した。

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