――寿司屋以上に中国社会の実状に触れる機会になったのが、「ホストクラブ潜入」ではないでしょうか。
【西谷】ええ。ホストクラブで働いたのは、中国の景気の良さだけでなく、富裕層の経済感覚も感じ取れると思ったからです。ただ、何とかホストデビューしたものの、待ち時間が長いのは堪えましたね。企画不成立が頭によぎったのと同時に、「今日もお茶を挽くだけで終わった……」と何ともいえない劣等感に苛まれ、毎晩、「明日は絶対、指名取るぞ!」と己を奮い立たせていました。人気の度合いでCDの売れ行きが左右されるアイドルの気持ちが少し理解できた気がします(笑)。
大半の客がオーダーする名物の「ねぎワンタン」。ビールにぴったりの一品
――モチベーションの面では、新宿・歌舞伎町のホストと相違ないですね(笑)。そうはいっても景気のいい中国。ホスト業でそうとう稼いだのでは?
【西谷】たしかにホストは、中国のなかでは高収入に分類される仕事なのは間違いありません。でも、日本のホストクラブに比べると、貧富の格差があるため顧客の支払いは思ったより多くはありません。人気のホストなら富裕層のお客さんも多く付くので、チップも弾むとは思いますが……。
ちなみに中国人男性はドライで無愛想な印象を抱かれがちですが、稼ぎに直結する接客の際は、これでもかというくらい優しくなるんです。スイーツを女性の口に運んだり、指先を見て「きれいだ」と褒めちぎるのはお手の物。ルックスの良さに加えて、気遣いのできる男性がモテるのは万国共通のようです。
――それなら日本人男性も優しいといわれますし、中国ではチヤホヤされるのでは?
【西谷】それが、そうでもないんです。わたしの感覚では、日本人男性はそれほど中国人女性にモテません。それに比べて、日本人女性は総じて人気が高い。とくに元セクシー女優の蒼井そらさんの人気は絶大で、さながらオードリー・ヘプバーンのように中国人から愛されています。
――顔つきや体型が中国人好みだからでしょうか。
【西谷】見た目もそうですが、内面の要素のほうが大きいかもしれません。中国人から見て、日本はいまだに「男尊女卑」が根強く残るイメージがあるようで、日本人女性はみな大人しくて従順だと思っている。だいぶ偏った見方をしている気がしますが、それが中国人男性の優越感を満たすようです。
――本書で描いた職場以外にチャレンジした仕事はありますか?
【西谷】じつはほかにも潜入を試みたのですが、門前払いされたケースがいくつかあります。たとえば、中国雑技団。団長との面会まではこぎ着けたものの、残念ながら不採用でした。どうやら、プロとしてやっていくには、遅くとも小学校から訓練を受ける必要があるらしく。それだけでなく、同郷の者でないと入団は認めないと言われてしまいました。だったら先に言ってくれよ、と(笑)。
あと、某機関紙の潜入を志したこともあります。こちらはあまりにもリスクが高く、担当編集者からストップが出され、泣く泣く断念しました。いま振り返ると、けっこう無茶しましたね。
更新:10月30日 00:05