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渡邉哲也 日本は米中経済戦争の部外者ではない

2018年05月08日 公開
2024年12月16日 更新

渡邉哲也(経済評論家)

貿易問題の本質は政治的対立

 去る2018年3月8日、米国トランプ大統領がアルミと鉄鋼に関税をかける大統領令に署名、そして同22日、中国に対して輸入産品に関して関税をかけるスーパー301条の発動を発表した。23日にはアルミと鉄鋼への関税が開始され、これでいよいよ米国と中国のあいだでの「貿易戦争」が本格的に始まるかたちとなった。

 トランプは大統領選挙の予備選挙の段階から、貿易不均衡の改善を大きな政策課題として挙げていた。「強いアメリカ」復活のためには、米国の製造業の復活が不可避である。それがトランプの主張であり、とくに最大の貿易赤字国である中国に対しては、厳しい論調を繰り返してきた。その意味では、今回の貿易戦争の開始は、自らの政権公約を実現するものであるといえよう。

 そして、この問題は表面的には貿易問題であるが、本質的にはそれにとどまらない。すなわち、米中の大きな政治的対立の開始をも意味しているのである。

 今回の関税による輸入制限の理由として、米国は、第1に安全保障上の理由を挙げている。また、スーパー301条の適用の理由として、中国の知的財産権などの軽視を挙げているが、これはどちらも経済的要素よりも政治的要素が強いものだ。

 中国は1992年の改革開放路線への転換により、共産主義・社会主義体制を捨て、自由主義社会の仕組みを取り入れた。前年のソビエト崩壊とともに、「巨大な社会実験」であった自由主義・資本主義という西側と、社会主義・共産主義という東側の冷戦は、西側の完全勝利で終わったといえる。そして、中国は西側からの資本と技術を取り入れることで、危機的経済状況から脱却し、国家を発展させていったわけである。

 この前提には、最終的には中国も資本を完全に自由化し、西側の体制に入るとともに、そのルールに従うという暗黙の了解があったといえる。

 しかし現在、習近平体制下の中国が、これと正反対の方向に進んでいることは明白だ。そして、この事実こそが、今回の貿易摩擦問題にも大きな影を投げ掛けている。

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著者紹介

渡邉哲也(わたなべ・てつや)

経済評論家

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業の運営などに携わる。国内外の経済・政治情勢のリサーチおよび分析に定評がある。主な著書に『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)などがある。

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