2017年07月28日 公開
2024年12月16日 更新
4月6日、7日に米中首脳会談があった。この会談により、北朝鮮の核とミサイルの問題に関して、トランプは一時的に習近平に対して下駄を預けた形となった。つまり、アメリカとしては習近平のチャイナに北朝鮮に対する経済制裁を行なわせ、それによって核とミサイルの問題の解決を狙ったのである。
目の前でアメリカのシリアに対するクルーズミサイルの攻撃を見せつけられた習近平は、さすがにアメリカの実力とトランプ大統領の気迫に気押されたようである。習近平は北朝鮮制裁を口先だけではなく現実に行ない、かの国を経済的に締め上げることに同意した。トランプとすれば、時間を限って習近平が北朝鮮を抑えられるかどうかを試すことは、間接戦略としては悪い選択ではない。いつまでもチャイナ任せにするわけにはいかないが、取りあえず目前の中東IS問題の片が付くまでは、北朝鮮問題に本格的に取り組めないのはわかり切っている。
対する習近平の方も、11月の秋の党大会を思惑どおりに乗り切りたいので、それまではアメリカと大きなトラブルを抱え込みたくない。そこでアメリカのシナリオに乗ることにしたまでである。そうすれば当面、アメリカの対中経済制裁を避けることもできる。つまり、米中指導者の双方の短期的な見通しが一致したので、そこに北朝鮮制裁をめぐって米中間にちょっとした小康状態が生じたのである。
これをもって米中が和解に動いているとか、トランプが習近平に籠絡されたとか主張する者がいるが、まったくの誤認かあるいは「ためにする言論」であろう。
大局的に見ると、米中両国は衝突コースにある。アメリカが現在の世界ナンバーワンの覇権国であるのに対して、チャイナはこれにチャレンジし、ナンバーワンの座に取って代わろうとしているからだ。歴史的に見て、ソ連がアメリカの覇権にチャレンジして敗れたように、チャイナもまた、アメリカの覇権にチャレンジして敗れていく帝国となるだろう。敗北の過程でチャイナ国内の分裂、たんに政治的分裂のみならず地域的な分裂が起きることも容易に想像できる。
チャイナの行く末はここでは論じないこととする。しかし少なくとも、東アジアにおける覇権をチャイナは狙っており、その野心をもはや、誰にも隠そうとはしていない。公海である南シナ海に、国際法を犯して軍事基地をつくり、南シナ海全体を領海化しようとしている。
そして南シナ海を戦略原子力潜水艦にとって安全な海域とし、ここにSLBMを搭載した潜水艦を配置する。戦略核を搭載したSLBMは、アメリカとのあいだに相互確証破壊を成立させる。チャイナのSLBMの射程距離はすでにアメリカ大陸に届くほど延びている。
そうなれば日本のみならず、東南アジア諸国は、たとえ親米国であっても、アメリカに依存できなくなる。アメリカの核の傘は日本や東南アジア諸国にとって存在しなくなる。チャイナとしては東南アジア全体を支配する大中華勢力圏をつくることができる。そもそも南シナ海を支配してしまえば、ベトナム、インドネシア、フィリピンに対して圧倒的な軍事的優位性をもつことになる。アメリカの軍事力がこの地域から完全に排除され、東南アジア全域はチャイナの勢力圏となるだろう。
東南アジアには華僑、華人が多数存在し、ベトナムを除けば、各国とも経済面においては華僑・華人に経済ネットワークの根幹を握られている。これに加えてチャイナに軍事的に優位に立たれれば、もはや、成す術がない。東南アジア諸国は軍事的にも経済的にもチャイナに制圧されることになる。米中は基本的には現在のところ小康状態にあるが、中東、とくにシリアとイラクにおけるISの制圧はほとんど完結しつつある。ISの領域支配が完全に崩壊し、米軍の対IS作戦が終了した段階で、米軍はその関心の主力を東アジアに移すことができる。このタイミングは意外に早く到来するかもしれない。
(本記事は『Voice』2017年8月号、藤井厳喜氏の「米中熱戦、日本の選択」を一部、抜粋したものです。続きは現在発売中の8月号をご覧ください)
更新:12月28日 00:05