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気鋭の経済評論家・渡邉哲也が予測する、知らなきゃヤバい!「米中貿易戦争」のゆくえ

2018年04月13日 公開
2022年10月27日 更新

渡邉哲也(経済評論家)

 

 2018年3月23日午前0時(米国東部標準時)、トランプ米大統領により、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限が発動された。前日の22日にも、アメリカは中国に対して、知的財産権の侵害を理由に最大600億ドル(約6兆4000億円)相当の輸入品に高関税をかけることなどを盛り込んだ制裁措置を発表している。

 これに対し、中国も黙っていない。アメリカ産大豆などに報復関税の準備をするなど、強い反発姿勢を見せている。

 米中間の貿易摩擦への懸念から、鉄鋼や大豆の価格は下落。株価の乱高下が続くなど、マーケットへの影響は甚大だ。今後も両国の「つばぜり合い」は続くのか?日本経済への影響は?

 4月29日に、新著『「米中関係」が決める5年後の日本経済 新聞・ニュースが報じない貿易摩擦の背景とリスクシナリオ (PHPビジネス新書)』を発売する経済評論家の渡邉哲也氏に、今後の展開を予測してもらった。                   

              聞き手:大隅元(PHPビジネス出版課)

 

中国は早くも「降伏」したのか?

――貿易摩擦を巡って、米中間で応酬が続いています。「貿易戦争」への発展が懸念される一方で、中国の習近平国家主席が「降伏宣言」したという報道もあり、収束ムードに向っているとも囁かれていますが……。

渡邉 そう簡単に事態は収まらないでしょう。ポイントは、今回の輸入制限の「ターゲット」のひとつ、鉄鋼です。この鉄鉱が米中関係をギクシャクさせている原因です。トランプ大統領は、アメリカへの中国鉄鋼の輸入を何としても抑えたい、と思っている。

 米商務省の資料によると、2017年のアメリカの鉄鋼製品の国・地域別輸入先の1位はカナダで、全体の約16%を占めています。一方で、中国はわずか2%に過ぎません。

――ん!? このデータだけを見ると、中国は輸入制限の対象にならなくてもいいようにも思えます。

渡邉 もちろん、アメリカが反ダンピング関税などを繰り返し発動し、中国製鉄鋼を締め出そうとしてきた経緯も多少は影響していると考えられます。しかし、それだけではありません。

 中国企業が反ダンピング関税を避けようと、他国を経由して製品を輸出していることも理由の一つです。つまり、中国からベトナムなどの周辺国に部材として輸出したものを、「看板」を変えて輸出しているのです。

 この根本にある問題は、中国による鉄鋼の過剰生産です。中国は、G7やG20から、過剰生産を修正するように何度も求められています。ところが、中国当局は「企業を整理する」といいながらも、実際には何も進められていません。その理由は、鉄鋼産業は中国にとって軍閥の重要な資金源だからです。

 中国ほど政治(中国共産党)と経済が表裏一体で動く国はありません。一部の鉄鋼企業は実際に吸収合併が進んでいますが、それは中国政権内で権力がなくなった勢力が牛耳っていた企業が整理されただけで、実生産量はまだまだ過剰だといわれています。過剰生産された鉄鋼が向かう先は、結局のところ海外しかありません。

 中国は供給過剰の鉄鋼を国外に押しつけるために、AIIB(アジアインフラ投資銀行)や「一帯一路」政策を進めているという側面もあります。こうした動きも含めて、「徹底的に中国の鉄鋼産業の供給量を減らしたい」というアメリカ側の思惑が背景に潜んでいるのです。

――トランプ大統領が発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入制限は1962年通商拡大法232条に基づくものでした。この法律は、米大統領に「安全保障」を理由にした貿易制裁を認める国防条項ですが、鉄鋼の大量輸入を自国の安全保障に結びつけるのは、やや無理があるのではないでしょうか。

渡邉 たしかに今回の輸入制限について、「安全保障上の理由」というのはたんなる名目であり、実際には、「米国内業者の支援を目的にした保護主義的措置ではないか」と指摘する人もいます。実際、現在の鉄鋼とアルミニウムの輸入状況によって、ただちに安全保障上の危険が生じるとは言い難い。

 安全保障上の理由が直接でなければならないのか、間接でもいいのかという議論にしても、直接の場合に限定すれば、通商拡大法232条は空文化してしまうでしょう。それは、安全保障上の理由による貿易の制約を認めるGATT21条についても同様です。

 では、間接的にはどうでしょう。これはアリです。現に米商務省が、アメリカ国内業者を守らないと防衛やインフラが維持できない、という報告しています。鉄ではピンとこないかもしれませんが、基礎的なインフラという点で考えればわかりやすくなります。

 たとえば日本の電力会社を全部外資に牛耳じられれば、それは安全保障上の問題といっていいはずです。自国で鉄をつくれないというのは、相手が鉄を止めてしまったら自国の産業が成り立たなくなることを意味します。明治期から「鉄は国家なり」というように、鉄は産業の心臓部として、 国の経済インフラの中心を支えています。つまり、石油や石炭などのエネルギーと同等の資源と考えていいわけです。

 それこそ、鉄の溶鉱炉やアルミニウムの溶解炉は、メーカーが倒産してなくなってしまったら、再びつくり直して立ち上げるのに3年、5年というスパンが必要になります。鉄はその国にとって重要な資源なのです。

 日本でも先の大戦において金属類回収令が出され(1941年)、兵器製造のために鉄類を回収しています。アメリカはこれ以上鉄が輸入されて鉄鋼メーカーが次々と廃業すれば、「日本と同じ轍を踏む」と判断したのかもしれません。

 

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著者紹介

渡邉哲也(わたなべ・てつや)

経済評論家

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業の運営などに携わる。国内外の経済・政治情勢のリサーチおよび分析に定評がある。主な著書に『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)などがある。

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