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高市政権に代わる「新たな極」はつくれるか 泉房穂氏が示す自由と安心の政治

泉房穂(参議院議員、元明石市長),福田充(日本大学危機管理学部教授)

高市政権に代わる「新たな極」はつくれるか

物価高や格差に苦しむ国民の暮らしは、今後どう変わっていくのでしょうか。
本稿では、元明石市長の泉房穂氏と日本大学教授の福田充氏が、高市政権の強さと政策の方向性を分析。「自由」と「安心」をキーワードに、自己責任か政治の責任か、大企業優先か生活者優先かという新たな対立軸を示し、政権交代を担いうる野党勢力の可能性を展望します。

※本稿は、泉房穂、福田充著『国民のお金はどこに消えた?』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

高市政権に代わりうる新たな極をつくれるか 

【福田】今年(2026年)2月の総選挙で圧勝したあとも高市政権は高い支持率を維持しており、国民はこの政権に期待し、熱い視線を送っています。一方国会では、2026年度予算案の年度内成立を目指す自民党と、十分な審議時間の確保と暫定予算の編成を求める野党のあいだで、またも国民不在のやりとりが続きました。

昨年(2025年)7月の参院選で国政復帰を果たした泉さんは、この高市政権と対峙していくわけですが、高市政権はどこに向かおうとしているのでしょうか。国民の暮らしはこの先、どうなるのでしょうか。焼け野原となった野党勢力は、これから何を目指せばいいのでしょうか。ここからは日本政治のこれからについて伺っていきたいと思います。

1986年の中曽根政権の死んだふり解散にしろ2005年の小泉政権の郵政解散にしろ、総選挙で自民党が大勝しましたが、勝利がずっと続いたわけではなく、その後の選挙で自民党は議席を減らし、政権交代も起きています。民主主義というシステムがある以上、同様のことは総選挙で圧勝した高市自民党にも起こりうることです。

そこで今問われているのが、これからどうやって野党側の新しい受け皿というか、高市政権に代わりうる新しい極をつくっていくかということだと思います。今、野党の中には政党の壁を越えて連帯し、与党に対抗しうる理念の軸がありません。そのような新しい対抗軸をこれから模索していくべき時期ではないかと思うのですが、そのあたりについて泉さんはどのように見据えておられますか。 

【泉】この流れの中で、高市自民党に代わりうるもう一つの極を新たにつくるというのは、もちろん簡単なことではありません。その道筋を軽々にいえるほど、現状は甘くないと思います。だけど私は大変前向きな人間だし、政治に関わっている以上は国民に対して責任を負っているわけだから、新たな軸の方向性を示したいと思います。キーワードは「自由」と「安心」です。

ここで私のいう「自由」とは、選択の自由であり、自己決定権であり、一人ひとりの個人の自由です。そういう自由を大事にし、さまざまな生き方があってしかるべきだと考える立場からすると、高市政権は「個人の自由」ではなく、国家優先で「国家による一律」を重視しています。みんながそれぞれに違っていてもいいとは考えない。夫婦別姓や同性婚も世界で例外的に認めない状況が続いています。自由民主党には「自由」という字がついていますが、自民党の高市政権は個人に「不自由」を強いる方向に向かっている。夫婦別姓の問題からも逃げて、通称使用でごまかそうとしています。

つまり、論点は「自己決定権を尊重する政治」か、「国家による一律を重視する政治」かです。

もう一つのキーワードは「安心」です。国民にとって、今は生活が苦しい不安な時代です。しかし、高市政権の方向性は、大企業に投資をして、大企業を儲けさせようとしています。武器を売ってでも金儲けをするよう促している。「大企業が儲けて株価が上がるのはいいことだ」「大企業が儲けたら、きっと賃上げにつながるだろう」という発想でしょう。

でも、「それで賃上げにつながりますか。つながるにしても大企業だけですよね。中小零細企業や非正規雇用なんて賃金は上がりませんよ」という問題は積み残しだから、多くの国民の生活の苦しさと不安はたぶん解消できないと思います。高市さんには公助・共助の発想が極めて弱い。生活の安心は自由競争と自己責任と自助に任せっぱなしです。

要するに、ここでの論点は、「生活の安心」を提供するのは「政治の役割」か、「自己責任」か、ということです。

 

大勝した政権が増税に舵を切ると失敗する 

【福田】国の形を考えるうえで、自己責任による自助中心の社会の典型がアメリカであり、だからこそアメリカは自分の身は自分で守る銃社会であり、また社会保険も医療分野においては原則として、高いお金を払って民間保険に加入している人だけが保険を利用できるという「小さな政府」による新自由主義的な社会です。

反対に、かつてのソ連などの社会主義国家は、社会保障が手厚い公助中心の社会ですが、その代わりに経済活動の自由はなく、税金も高い「大きな政府」です。
日本はそのどちらともいえない、中間的な社会です。政治による公的責任か、個人による自己責任か、というのは国の形の問題であると同時に、個人の生き方の問題でもあります。

増税か減税か、というのはそういった国の形、生活の形を選択することと同義です。高市政権と今回の総選挙でも問題となった「緊縮財政」か「積極財政」か、というのも同様の問題ですね。 

【泉】私も以前は、高市さんの掲げる積極財政に一定の可能性を感じていました。しかし、高市政権の積極財政では国民のお金が大企業に消えるだけなので、ますます格差は拡大していきます。残念ながら、高市さんを応援している国民の大半は、生活がますます苦しくなっていくでしょう。自分の首を絞める人を応援しているようなものです。国民がそのことに気づいたとき、高市政権は支持を失うことになるでしょう。
ただ、高市さんはやっている感を演出するのがうまいので、政権はまだ少しもつかと思われます。

ここで歴史を振り返ると、大勝した政権が負けに転じる原因は増税です。たとえば、1986年の総選挙で圧勝した中曽根政権は翌87年、売上税法案を国会に提出したことで支持率が急落し、この年の統一地方選で敗北しました。法案は廃案となり、中曽根さんは退陣しています。86年に圧勝した勢いで、「今がチャンスだ」と増税しようとしたことで、自民党の党勢は後退しはじめたのです。

中曽根さんから後継指名を受けて発足した竹下登政権は1988年、日本に初めて消費税を導入しました。すると支持率は一気に低下、直後に竹下さんは退陣を表明し内閣総辞職へと追い込まれた。言うなれば、消費税導入のために自分の首を差し出したようなものです。結果、89年の参院選で自民党は大敗し、与野党の議席数が逆転、自民党は少数与党となりました。当時、社会党委員長だった土井たか子さんは、この結果を「山が動いた」と評しています。

そして消費税導入後初の総選挙、私と福田君が石井紘基さんを手伝った1990年の衆院選ですが、このときも自民党が議席を減らす一方、社会党は大きく伸ばしました。
93年に政権交代を果たした細川護熙連立政権も、細川さんが突如、国民福祉税構想をぶち上げた挙句に翌日、撤回したことで求心力を失い、短命政権になりました。国民福祉税とは結局、消費税を3%から7%に引き上げる増税構想でした。

2009年の総選挙で圧勝して政権交代を果たした民主党政権も、2012年に野田さんが消費税の段階的引き上げを決定し、同年の総選挙で自民党に大敗しています。
このように、勝った政権が財務省にそそのかされるまま、勢いに乗って増税に舵を切ると失敗するんです。

高市さんが上手なのは、増税ではなく減税を前面に出していることです。国民としては、すぐに「裏切られた」とか「えっ、増税やん」といったことにはなりにくいかもしれません。また高市さんも、増税に舵を切るなど、国民から非難を浴びるようなことは、そう簡単にはしないと思います。

 

高市首相の意外な強み 

【泉】もう少しいうと、これは私の見立てですけど、高市さんご自身は、もともと政党もいくつか変わってきたように、「どうしてもこれでなければいけない」という特定の政治スタンスへの強いこだわりがあるわけではないと思うのです。「どうしてもこれだけは実現させたい!」との熱いテーマがあるわけでもないから、状況に合わせて柔軟に動きを変えられる。特定のテーマにこだわりすぎることなく、世論の支持が得やすいものに敏感に反応して動くことができる。これが高市さんの強みでしょう。逆に、何かしたいことがある人は、ある意味で弱いんです。何かしたいことがあると、やっぱりそこに圧がかかりますから。 

【福田】勝つことが自己目的化しているから、本当はやりたいことはなくても、勝つためなら何でもやる、ということですか。だから常に世論や人々の関心に近いことを発言して、人気を取るための言動に走る。それはある種のポピュリズムですね。 

【泉】ほとんどの政治家がそうなんでしょうけど、特に高市さんは動き方が上手だから、国民からどう評価されるか、どう見えるかを強く意識しています。

高市さんにとって、何をやるかはその時その時の感覚で選んでいるんだろうと思うんですよ。そこは小池百合子さんに似ていると感じます。選択肢は全部あって、何が国民にウケるかをずっと見ている人なので、ウケの悪いことについては、すぐ引っ込めて、無理に突っ込まないんじゃないかと思いますね。たぶん憲法改正だって、安倍晋三さんみたいに是が非でもしたいわけではないだろうと思いますよ。そういうポジションに立たざるをえないだけだろう、と察します。

安倍さんは、やりたいことがあるのに強かった、そしてそれをやりつつ長期政権を維持したわけだから、ある意味、大したものです。安倍さんは祖父の岸信介さんがやれなかったことをやらなければいけないという使命感があったから、力ずくで解釈改憲をしました。そこに突っ込んだからかなりの反発を食らいましたが、安倍さんはかろうじて持ちこたえました。やはり、やりたいことがあると、反発があってもやるんですよね。ただ、大きな圧は避けられない。

その点、高市さんは何がなんでもこれをやりたいということが明確ではないので、反発のあることはしないと思います。だから周囲から見ると、高市さんという政治家は、ある意味わかりにくいのではないかと思いますね。安倍さんのようにわかりやすくはないです。

高市さんは若かりし頃テレビに出ていましたが、そんなに保守ではありませんでした。そもそも当初は新進党ですからね。ちなみに小池さんも日本新党から新進党です。小池さんも高市さんも中道批判をしていますが、もともとは公明党と同じ地盤、新進党にいたぐらいですから、別に「ザ・自民党」じゃないです。
でも、逆にザ・自民党でない人が自民党の中で担がれると、強いこだわりがない分、意外と強さを発揮するのです。だから今しばらくは人気が続くと思います。

ただ、何度も言いますが、国民の生活は苦しい状況が続いています。株価は上がり、物価も高騰、大企業は内部留保が増えているけれども、国民の生活は苦しいままです。大企業の一部は賃上げされていますが、中小や非正規は全然、楽になっていません。当然、国民の不満はじわじわと強まります。にもかかわらず高市政権への国民の期待は高止まりしている、というのが今の状況です。

このままでは「期待したけど、私たちの生活は楽になっていないじゃないか」と高市政権に失望し、不満が抑えきれなくなるときが来るかもしれません。ただ、高市さんは反発を招かないように立ち回るのが上手だから、気づきにくいとは思いますけどね。

プロフィール

泉房穂(いずみ・ふさほ)

参議院議員、元明石市長

1963年、兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業後、NHKやテレビ
朝日のディレクター、石井紘基氏秘書、弁護士を経て、2003年、衆議院議
員となり、犯罪被害者等基本法などの立法化に努めた。11年、明石市長に
就任。子ども施策のほか、高齢者・障がい者福祉に尽力。23年4月、任期
満了に伴い市長を退任。25年7月、参議院議員選挙に当選。

福田充(ふくだ・みつる)

日本大学危機管理学部教授(学部長)

1969年、兵庫県西宮市生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。現在、日本大学危機管理学部教授(学部長)、同大学院危機管理学研究科教授(研究科長)を務める。専門は危機管理学、リスクコミュニケーション、インテリジェンス、テロ対策、災害対策ほか。
内閣官房や自治体等で危機管理に関する委員や、コロンビア大学客員研究員等を歴任。

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