かつて失敗に終わった1993年の細川連立内閣、2009年の民主党による政権交代。「脱・自民党」はなぜ実現しなかったのか。政界再編を望む有識者が、新しい政治の争点について議論を交わす。
※本稿は、『Voice』2025年1月号より抜粋・編集した内容をお届けします。
【福田】最近、泉さんは「救民内閣」という表現で政界再編の道を語っていますね。たしかに「救民」という言葉は社会的弱者の救済や人道主義、多様性を包摂する理念としてはわかりやすい。半面、古い社会民主主義のイメージを想起させてしまい、アレルギーをもつ人もいるのではないでしょうか。
子育てや教育を重視する政策はいわば将来に投資するビジネスモデルであり、減税をしながら経済を回すという試みを表現する新たなフレームワークがあるはずです。
【泉】私も「救民」という言葉にこだわっているわけではなく、政治の目標設定を「国民生活」を支えるという点に移すことに主眼があります。
いま考えている軸の1つは「積極財政か、緊縮財政か」。両者の基準で見れば、自民党の高市早苗さんも積極財政派だし、立憲民主党の野田佳彦さんは緊縮財政派。
2024年の衆議院選挙で明らかになったのは、「国民生活」を意識したメッセージを出した党が支持を集めたことです。手取りを増やす政策を掲げた国民民主党と、消費税の廃止や季節ごとの10万円支給を打ち出したれいわ新選組が票を伸ばしました。
積極財政という軸で国民民主とれいわが大同団結してもおかしくないし、高市早苗さんと山本太郎さんが力を合わせてもかまわない。
自民党も共産党もいまや有権者の支持を大きく失い、立憲民主党も比例票では横ばい。2025年の参議院選挙では、何が起きるかわかりません。国民のほうを向いた政策という一点で政治家が党を割って集まるのが、日本を救う政界再編だと私は思うんです。
【福田】有権者は、古い55年体制を引きずって保守・リベラルの対立を続ける自公・共産という構図に失望しています。問題は、2024年の衆院選でも投票率が53.85%と戦後3番目に低く、自分たちの期待を吸い上げてくれる党がどこにもない、と感じていること。生活に苦しむ国民が、自分たちの声が届いて国政を変える政党や政界再編を渇望しているのは間違いありません。
【泉】日々必死で働いているのに、給料が上がらず国民の負担だけが上がる。医療も介護も不安で人生、どうなるかわからない。古い政治を続ける日本に対する怒りのエネルギーが社会に満ちており、もはや後戻りはないと思う。政界再編の機運が盛り上がり、状況が整った瞬間、投票率は一気に上がるでしょう。
【福田】ただし1点、懸念があるのはポピュリズムのリスクです。民主主義社会は、人気取り政治やフェイクニュース・陰謀論などに対して脆弱で、分断や極性化をもたらすリスクをもっています。
職場や家庭など現実社会でも、SNSやネットでも、リベラルな市民のネットワークによって、そうした分断や極性化のリスクをどのように克服するかが問われています。自由民権運動や戦後民主主義で培われてきた民主主義の理念や規範を取り戻す努力が必要です。
【泉】じつは私は、エリート支配の政治とポピュリズムの政治を比べるならば、ポピュリズムのほうがよいというスタンスなんです。ただし、「市民と共に」という条件付きで。
市長時代の施策もポピュリズムと批判されたけれど、たんなる子育てのばら撒きではない。同時にマイノリティを包摂する施策も行なっています。全国初の「明石市更生支援及び再犯防止等に関する条例」を制定し、罪を犯した人も「お帰りなさい」と市民みんなで迎え入れる町づくりを進めていました。人気取り政治では絶対にできないことです。
【福田】自己責任と自助が100%では、アメリカ式の新自由主義一辺倒になってしまう。他方で公助が100%では、ソ連式の社会主義、官僚主導政治になってしまう。両者を媒介するように「自助を共助が支える」「共助を公助が支える」政治でなければ、社会が成り立ちません。
とくにポイントとなるのが市民やNPO、企業がボランティア的なかたちでつながる「共助」です。その意味で、1980年代から政党を超え、市民をつなぐネットワーク社会を提唱した石井紘基さん(故人・元衆議院議員)の先見性に学ぶところは大きい。
【泉】まさにおっしゃるとおりで、不安な時代には皆が極論に振れやすい。右派、左派それぞれに強い意見になびいてしまうところがあります。両端に偏る主張はもはや頭打ちで、限界があります。「手取りを増やす」というストライクゾーンに構えて支持を得た国民民主党の教訓を生かすべきでしょう。
103万円の壁(年収が基礎控除と給与所得控除を合わせた103万円を超えると所得税が発生すること)や、ガソリン代のトリガー条項(ガソリンの平均価格が3カ月連続160円を超えた際、価格の上乗せ分を減税すること)や、給食費の無償化などは政党の枠を超えて大同団結するのにふさわしいテーマだとも思います。
【福田】少子化問題こそが、日本そして世界の最も重大な危機だと認識しています。教育や子育て支援を少子化対策の中心と位置づけて積極的に投資し、民業を圧迫することなく、民間企業のビジネスを活性化する積極財政モデルを実践する必要があります。
そのためには、国民が教育や子育てに使えるお金と環境を整備することで、市民の生活を主眼とした政策への転換が求められています。
【泉】私の願いは、日本という国を史上初めて「民衆が主人公の社会」にすることです。それは石井紘基さんがめざしたことでもあります。その革命的な大改革を、選挙という血を流さない手続きによって実現することは可能だと私は信じています。実現の暁には、石井紘基さんの墓前に2人で報告に行きたいですね。
更新:01月20日 00:05