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高市政権の積極財政は地方の自立を促すか? 過去に学ぶ「地方を強くする条件」

山﨑朗(中央大学経済学部教授)

日本

東京一極集中が続くなかで、地方は本当に自力で立ち上がれるのか。国の投資戦略や税の偏り、防衛・エネルギー政策が地域格差をどう変えるのか。過去の教訓から「地方を強くする条件」を多角的に問い直す。

★本論稿は、意見集約プラットフォーム「Surfvote」と連動しています。

※本稿は、『Voice』2026年2月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

地方創生の誕生と背景

第二次安倍内閣(2021年12月発足)のもとで2014年に地方創生1.0が策定された。2014年9月には内閣府に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され、石破茂氏が初代「内閣府特命担当大臣(地方創生担当)」に任命された。地方創生は、それまで政策用語として使用されてこなかった新しい概念であり、2008年をピークに日本の人口が減少に転じたことを背景に登場したものである。

1991年から1993年にかけては、地価高騰とバブル崩壊の影響で東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)は、戦後初めて人口の「社会減」に陥ったが、その後は増加に転じ、2007年にはバブル期とほぼ同じ水準の「社会増」に達していた。

また、戦後の地域振興の基本スキームである工場の地方分散政策や公共事業の地方への優先的配分も、工場立地件数の激減、地方における高規格道路、新幹線、空港、港湾、ダムなどのインフラ整備の概成によって、地域振興効果が薄れている。こうした社会経済情勢の変化を受け、工場誘致とインフラ整備に依存しない、地方における雇用創出と定住促進、さらには東京一極集中抑制と日本の人口減少対策のための、新しい政策スキームが求められたのである。

県単位での人口減少は、1980年から1990年にかけて、国勢調査によってすでに確認されていた。1990年代以降、人口減少、高齢化に加え、若者層(とくに大学卒業時)の流出が進み、地域経済の停滞や地域の医療・福祉・教育・商業・公共交通といった生活基盤の縮小・劣化につながった。

こうした社会経済状況を背景として登場した地方創生1.0は、増田寛也編著『地方消滅』(中公新書、2014年)とその基になった「増田レポート」の影響を強く受けている。衝撃的なタイトルと「消滅可能性都市」の名指しは、政府関係者だけでなく、地方自治体の関係者にも衝撃を与えた。同書では、合計特殊出生率(TFR)の高い地方から、TFRがもっとも低い東京都への若者への流入を抑制することで、日本の人口減少に歯止めをかけうるという論理が展開されており、この論理は、地方創生1.0のなかにも取り込まれた。

しかし、TFRと実際の出生数には必ずしも相関がないことは、ニッセイ基礎研究所の天野馨南子氏らによって明らかにされている。TFRが2.0を超えている自治体でも、出生数は増加していない。2024年のTFRでは、東京都が0.96と全国で最低であるが、宮城県は1.00、北海道は1.01であり、東京都と大差のない道県も少なくない。東京都には高等教育機関が集中しており、未婚の若年女性の多さがTFRの低さに影響している。

法政大学の小黒一正氏は、国勢調査にもとづき都心3区(千代田区・港区・中央区)の平均出生率は、沖縄県に次いで全国2位の水準にあると明らかにした。東京都への若者の流入が日本の人口減少を加速するという「東京ブラックホール論」には再考の余地がある。

 

地方創生1.0の課題と成果

地方創生1.0は、2020年に東京圏の人口の「社会増減ゼロ」をKPI(重要業績評価指標)として掲げた。しかし、コロナ禍による2020年から2022年の時期を除くと、東京圏の人口社会増は継続しており、目標は達成されていない。第三次国土形成計画では、改めて2027年度に東京圏の「社会増減ゼロ」というKPIが設定されているが、首都圏直下型地震の発生や感染症の大規模流行など、きわめて例外的事象が発生しない限り、実現は困難だと思われる。

地方創生1.0の予算規模は、当初1000億円(事業費ベースでは2000億円)程度にとどまった。2015年度には1653億円であったふるさと納税全国受け入れ額は、2024年度には1兆2727億円にまで増加している。

また、地方創生1.0は、地方の自主性や主体性を尊重する姿勢を示しながらも、地方自治体には、国のビジョンにもとづいた「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略の策定」が義務付けられた。

2019年の内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の資料で紹介されている調査によると、回答のあった770団体中8割以上の自治体は、東京都などに本社を置くシンクタンクやコンサルにビジョンと戦略の作成の一部を委託したことが判明した。そのため、画一的なビジョンや戦略が多く、地方創生の理念と乖離する状況が生まれていた。

この背景には、小規模自治体に対して、政府が短期間で企画力や事務能力の限界を超える課題を課したことがある。2024年に共同通信社が実施した全国の首長アンケート調査(回答率93%、回答者数1667人)によると、地方創生の成果について、「不十分」とする回答が15%、「どちらかといえば不十分」が54%にのぼった。効果が不十分であった理由は、「自治体単独での対策には限界があった」73%、「予算・人手が足りなかった」13%、「対策のノウハウがなかった」7%であった。

コロナ禍によって2020年から2022年にかけて、東京圏への人口流入は抑制された。だが、これは地方創生の効果ではなく、想定外の外的要因によるものである。その後、東京圏の社会増は再び拡大し、近年は海外からの東京都への移住者が増加している。

地方の自治体の「地方人口ビジョン」は、将来推計人口を過大推計する傾向がみられる。その実現のために、格安住宅地の開発による人口の奪い合いが生じ、都市圏単位でみれば、ゼロサム(都市圏の人口は減少しているので、正確にはマイナスサム)であるだけでなく、地方都市の都心の人口密度低下や都市圏のスプロール化といった負の効果をもたらした。

 

サナエノミクスと地方創生

地方創生2.0は、地方創生1.0の課題と限界を踏まえ、石破政権下で始動した。2024年の補正予算において、「新しい地方経済・生活環境創生交付金」1000億円が創設され、2025年度当初予算における同交付金の予算額は2000億円に倍増されている。

さらに、2024年10月には「新しい地方経済・生活環境創生本部」が設置された。地方創生2.0では、より地方自治体の主体性を重視する姿勢と地域経済の活性化の視点が打ち出されたが、その成果についてはまだ評価できる段階ではない。

2025年10月に高市早苗政権が誕生し、地方創生政策の継続性に注目が集まった。新たな地方創生担当大臣には黄川田仁志氏が就任し、地方創生2.0を廃止したり、大幅に見直す動きは、現時点ではみられない。高市総理の所信表明演説では、「地方創生」という用語は用いられなかったものの、「地方の活力は、すなわち日本の活力である」と強調し、熊本県へのTSMCの進出や北海道へのラピダスの工場建設を例に、国の支援による投資誘導効果を全国に拡大していく意欲を示した。

具体的施策としては、①地域を超えたビジネス転換を図る中堅企業の支援、②地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成(地域未来戦略)、③二地域居住を含む関係人口の創出、④稼げる農林水産業等の創出、⑤税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築、などが掲げられている。

これまでの地方創生の議論において、見過ごされてきた重要な観点は、「非空間的政策」が地域経済に与える影響である。「非空間的政策」とは、全国一律に適用される政策でありながら、地域の産業構造、人口構造、生活様式によって地域に異なる影響を与える政策を指す。

たとえば、国民年金制度は、全国一律で運用されているが、地方に高齢者が多く、東京圏に労働人口が集中している場合には、保険料納付と年金給付を通じて、地方への所得移転が生じる。しかし、東京圏でも高齢化が進めば、国民年金制度を通じた地域間の所得移転効果は次第に薄れていく。

高校3年生までの子どもに対し、一人あたり2万円を支給する「物価高対応子育て応援手当(仮称)」(総額約4000億円)は、2026年度限りとなる可能性のある政策ではあるが、子ども比率の高い沖縄県、滋賀県、宮崎県、佐賀県、愛知県などでは人口比以上の恩恵を受ける一方、少子化が進む秋田県、北海道、東京都では人口比よりも少ない配分となる。

また、物価高対策の柱として拡充される「重点支援地方交付金」は、全国の自治体に配分されるが、財政力に応じて調整が行なわれるため、ゆるやかながらも地域間の所得格差を緩和する効果をもつと考えられる。逆に、所得税の壁の引き上げは、パート労働者が多く居住する大都市圏において、世帯所得の底上げにつながる可能性がある。

サナエノミクスの第一弾として実施が決まった、「ガソリン税の暫定税率の廃止」も、「非空間的政策」の典型例である。

この政策は、自動車保有率の高い関東内陸、山梨県や長野県、東北地方などに通勤通学や買い物にかかる生活コストの軽減というかたちで大きな恩恵をもたらす。軽油引取税の暫定税率廃止を含めると1.5兆円規模の減税であり、恒久減税となれば、自動車交通に依存する地域への経済効果は継続することになる。

それに対して、東京都、大阪府、神奈川県、京都府、兵庫県、埼玉県などの都市圏では自動車保有率が低いため、減税の効果は限定的である。「ガソリン税の暫定税率の廃止」には、二酸化炭素排出量の増加を懸念する声もあるが、鉄道やバスなどの公共交通がなく、移動手段として複数の自家用車を所有せざるをえない過疎地の住民にとっては大きな恩恵であり、地方創生の観点からは評価される。

サナエノミクスの中核をなすのは、17の重点分野への政府投資である。17分野は、伝統的な産業分類とは異なり、名称が独特であるうえに、その具体的対象も明確ではない。おそらく、半導体、人工知能(AI)、造船、防衛産業、核融合分野が主要な投資対象分野となろう。

このような大規模投資は、地域間の産業構造や産業集積の差異によって、地域間の成長率格差をもたらす。九州では、2001年ごろから半導体クラスター戦略を実施してきたが(詳しくは山﨑朗・友景肇編著『半導体クラスターへのシナリオ』〈西日本新聞社、2001年〉)、九州経済産業局によると、九州の半導体生産額は、2024年に全国の48.5%を占めており、過去最高の2000年に迫る生産額にまで回復している。

造船業の振興は、造船所の多い愛媛県、長崎県、広島県、山口県にプラスの影響を与えるであろう。防衛産業の工場は、関東、東海、近畿に多く、地政学リスク削減のためにも工場の地方分散が望まれる。

 

サナエノミクスの地方創生と国防・平和

サナエノミクス以前から実施されていた施策として、南西諸島における自衛隊の配備がある。国境離島である与那国島には、2016年に自衛隊の駐屯地が開設され(沿岸監視隊や電子戦部隊の自衛官が150人程度駐留し、家族を含めると250名程度が居住)、与那国島の人口の1.5割を占めている。

石垣島や宮古島の人口増加は、観光業の成長にも支えられているが、自衛隊員の増員配置も影響を与えている。GDP比2%の軍事費が、どの地域に投下されるかによっては、国境地域や国境離島の「活性化」につながる。

エネルギー政策においては、地方における再生エネルギー産業の発展を促すとされている。風力、水力、地熱、太陽光、バイオマスなどの地域資源の活用によって、地域のエネルギー自立と関連産業、とくにデータセンターや電力多消費型産業の立地が期待される。

もちろん、九州と本州、北海道と本州を結ぶ送電網の整備や揚水発電の増強、蓄電池の開発も不可欠である。エネルギーの自給化は、地方創生だけでなく、貿易赤字の削減、地政学リスクの削減にも貢献する。

国土強靱化による災害対策、リダンダンシー(冗長性)の確保のためのインフラ投資は、地方の防災・減災機能を強化し、雇用創出にもつながる。地震や風水害、豪雪の被害の多い地方では、地域の生活と経済活動の安全性を高め、長期的な地域の発展に寄与する。国土強靱化においては、災害危険地域からの撤退や集落の中心地に集住する「小さな拠点」形成と組み合わせることができれば、地域の福祉、生活水準の維持にもつながるであろう。

教育・人材投資においては、地方大学や地方の高等専門学校への支援強化は、地域に根差した人材育成を実現し、域外への16歳、18歳人口の流出を抑制することになる。これらの高等教育機関と地域企業の連携による実践的教育や共同研究開発活動は、地域における新規事業やベンチャーの創出に貢献する可能性も秘めている。ただし、近年、若年層の人口減少により、高等教育機関の閉校が増加しており、地域における学びの場の確保は、地方創生にとって重要な課題である。

高市政権の政策として、カロリーベースで38%の日本の食料自給率100%をめざすという野心的目標も示された。北海道や東北などの5県は100%を超えているものの、国レベルでの実現の可能性はきわめて低い。アメリカからの農産物輸入の削減は、日米貿易摩擦の要因となるであろうし、円安にもかかわらず、米、野菜、果物などの輸入は急増している。100%はともかく、自給率の上昇が実現できれば、地方の農林水産業の持続可能性を高める可能性はある。

さらにいえば、国が除去すべき地方創生の阻害要因も多い。たとえば、新潟県に次いで米どころとなった北海道には、米の生産量と比較して日本酒の酒蔵が少ない。国税庁が輸出用の日本酒醸造以外の酒蔵の新設を禁止しているからである。地域の農林水産業の実情に応じた食料品産業の振興は、国の役割であるはずだ。

米の輸出増加も模索されているが、日本から中国に輸出する米については、中国政府が認可した「指定登録精米施設」で精米し、「登録燻蒸倉庫」で燻蒸しなければならないとされている。「指定登録精米施設」は、北海道石狩市、神奈川県綾瀬市、兵庫県西宮市の三施設のみで、米どころの東北には指定施設はない。「登録燻蒸倉庫」は、7倉庫指定されているが、地域的には北海道小樽市、山形県酒田市、兵庫県神戸市、熊本県八代市の4地域のみとなっている。日本の農林水産物・食品輸入を規制している中国政府との交渉も国の役割である。

 

地方創生にこそグローバルな視点を

高市総理は、地方税体系の見直しも示唆している。直近の課題は、ネット銀行の隆盛による利子税の東京都集中である。長期的には、地方の高齢者の死去にともない、東京圏在住の子どもや孫に金融資産が相続されるという、金融資産の東京圏集中問題がある(山﨑朗「金融地域創生」山﨑朗編著『地域創生の新しいデザイン』〈中央経済社、2025年を参照〉)。

地方創生は、東京一極集中是正、地域の社会課題解決といったドメスティックな視点が目立っていた。だが、これからの地方創生は、貿易、インバウンドのみならず、外国人政策を含むグローバリゼーションへの対応策が重要である。いまや東京都の人口増加の8割は外国人であり、北海道のリゾート地では、20代の6割程度が外国人という地域も出現している。

地域の平和が国土の末端地域、国境地域の自律的成長を促すことは、EU諸国の国境都市が証明している。日本海側や北海道の自律的成長には、極東地域の平和の実現によるロシア、北朝鮮、中国との交流促進が不可欠である。

台湾有事に関する高市総理の発言は、中国便比率が高い関西国際空港や地方の空港に負の影響を及ぼす可能性が高い。その結果、これらの空港を抱える地域のインバウンド需要にも悪影響が及ぶことが予想される。

 

プロフィール

山﨑朗(やまさき・あきら)

中央大学経済学部教授

1981年京都大学工学部卒業。1986年九州大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。九州大学経済学部助手、フェリス女学院大学文学部講師、滋賀大学経済学部助教授、九州大学大学院経済学研究院教授を経て2005年より現職。著書に『地域創生の新しいデザイン―地域の潜在力を付加価値に』(編著、中央経済社、2025年)、『地域産業のイノベーションシステム』(編著、学芸出版社、2019年)、 『地域創生のプレミアム(付加価値)戦略』(編著、中央経済社、2018年)など多数。

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