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イラン攻撃が米中の力関係を逆転させた 即時停戦を実現させた「習近平の狙い」

遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

2026年2月28日、トランプ政権は米議会の承認を得ないまま、突如としてイランへの軍事行動に踏み切った。だが、戦闘が60日を超えれば、議会承認が必要になる可能性があった。

その期限が迫るなか、4月8日午前8時、トランプがイランを壊滅させる期限としていた時刻のわずか1時間前に、「2週間の即時停戦」が発表される。さらにヘグセス米国防長官は4月30日、この停戦を根拠に、米議会で「2月28日に始まったイランに対するアメリカの軍事行動は終結した」と表明。トランプ政権は、戦争権限法上の「60日間期限」を回避した。

土壇場で実現したこの停戦は、いかにして生まれたのか。そこに浮かび上がるのが、中国の存在である。米国とイランの停戦に関与したとみられる一方で、中国はその役割を声高に語ろうとはしないのはなぜか。書籍『G2構想 勝つのは米国か中国か』より、習近平の思惑を読み解く。

※本稿は、遠藤誉著『G2構想 勝つのは米国か中国か』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

トランプ「イランを停戦交渉に引きずり込んだのは中国だ!」

なんと、トランプは4月8日、AFPの電話取材を受けて、以下のように答えている。

●これは完全に米国の勝利だ!
●中国がイランを交渉のテーブルに着かせ、2週間の停戦合意に導いたと思っている。
●私は5月に北京を訪問し、中国の習近平国家主席と会談する予定だ。
●「主要同盟国であるイランを停戦交渉に導く上で中国が関与していたのか」という質問に対して「そうだと聞いている」と答えた。(AFPの取材に対する回答の概要は以上)

予測した通りの展開だ。

同日、CNNも「トランプ氏、イランが停戦交渉に応じるよう中国が後押ししたとの考え」という見出しで同様の報道をしている。トランプのこの発言に関してコメントを求められた在ワシントン中国大使館の報道官はCNNに対し、「紛争が始まって以降、中国は停戦を実現し、紛争を終結させるために働きかけてきた」としか述べなかったという。中国が手を貸したのだということを中国側は明かそうとしない。

CNNは4月8日の中国外交部定例記者会見でも「中国が手を差し伸べたのではないか」という質問を外交部報道官に向けたが、報道官は在ワシントン中国大使館と同様の回答しかしなかった。

習近平は、「いまこそイランを説得しろ!」と王毅外相に命じてかなり積極的に動いたにもかかわらず、それを誇示しないというか、隠そうとさえしている。そこには[トランプに花を持たせて]、やがて北京で開かれる米中首脳会談のときに習近平に圧倒的に有利なディールを持ちかける材料にしたいという思惑が見え隠れする。あるいは、中国が一時停戦をイランに呼びかけたのに、それがうまくいかなかったときには中国のせいにされるという保身も、ひょっとしたらあったかもしれない。

しかし、まちがいなく習近平が背後で動いたという情報が、アメリカのメディアによってリークされている。
たとえば4月8日午後4時20分(米国東部標準時)、ニューヨーク・タイムズは「米国、イラン、イスラエルが停戦に合意」というタイトルで、以下のように報道している。

――イラン当局者3人によると、パキスタンの必死の外交努力と、イランの主要同盟国である中国による土壇場での介入(イランに対し柔軟な姿勢を示し緊張緩和を求めた)を受け、イランはパキスタンの2週間の停戦提案を受け入れた。これは、重要インフラへの被害による経済的打撃への懸念が高まっていることが背景にある。当局者らは、停戦は新最高指導者モジュタバ・ハメネイ師によって承認されたと述べた。(ニューヨーク・タイムズからの引用は以上)

同じ4月8日のAP通信は「中国当局はイランに対し、米国との停戦の道を模索するよう促した」と、もっとストレートに報道している。そこには以下のように書いてある。

――中国当局はイランに対し、米国との停戦に向けた道筋を見出すよう促した。イラン最大の貿易相手国である中国は、イラン側と協議し、停戦合意への道筋を見出すよう働きかけた。匿名を条件に取材に応じた2人の当局者が明らかにした。当局者らによると、交渉が進展するにつれ、中国当局者はイラン当局者と連絡を取り合い、停戦合意への道筋を見出すようイランに促した。外交問題について公に発言する権限を持たない当局者の1人は、中国は影響力を行使しようと、主にパキスタン、トルコ、エジプトなどの仲介者と連携してきたと述べた。中国外務省はコメント要請にすぐには応じなかった。

火曜日(4月7日)、中国外務省の毛寧報道官は、「全ての当事者は誠意を示し、そもそも起きるべきではなかったこの戦争を速やかに終結させる必要がある」と述べた。彼女は、中国は今回の紛争が世界経済とエネルギー安全保障に与える影響について「深く懸念している」と述べた。(AP通信からの引用は以上)

このように複数の米メディアが、イラン側からの証言として「中国が動いたために即時停戦へと急転した」ことを報道しているのである。

図表1-1:イラン戦争始まって以来の王毅外相の関連国との交渉一覧表

図表1-1:イラン戦争始まって以来の王毅外相の関連国との交渉一覧表

中国自身はといえば、3月27日の王毅外相とパキスタンの外相との電話会談や、3月31日に王毅外相がパキスタンの副首相と会談して「即時停戦」など5項目の提案をしたことしか報道していない。図表1-1に書いたように、王毅外相はイラン戦争勃発以来、ひっきりなしに関連国と接触して即時停戦を求めてきた。

だというのに、この最も肝心の動きを、北京はあえて隠しているのである。そのことが図表1-1からも読み取れる。

なぜか?

それは、トランプとのディールを有利にするために、あたかも「これはトランプの功績だ」と言えるようなプレゼントをしているとしか思えないのである。

なお、パキスタンのシェバズ・シャリフ首相は英語、中国語、アラビア語、トルコ語で、4月8日に感謝のXを投稿した。感謝する対象は「中国、サウジ、トルコ、エジプト、カタール」である。そこには「かけがえのない揺るぎない支援をしてくださった兄弟国である中華人民共和国、サウジアラビア、トルコ、エジプト、カタールに、心から深く感謝の意を表します」と書いてある。

兄弟国のトップに中国の国名が書いてあるというのは注目に値する。少し遅れて現地時間の4月15日、イランのペゼシュキヤーン大統領は「中国政府および中国国家主席の支援と協力に感謝の意を表した」とイランのメディア赤新月社が報道している。

これらの事実により、その陰には「中国」がいたということはまちがいのない事実だと考えていいだろう。

 

中国にはなぜイランを説得する力があるのか

ならば、なぜ中国はそこまでイランを説得する力を持っているのだろうか?

それはイランの経済収入の柱である石油の、100%に近い量を中国が購入してくれているからである。

イランの2025年GDPは3565.1億ドル(IMFデータ)で、中央政府の歳入はGDP比9.5%なので、約339億ドルになる。一方、米エネルギー情報局(EIA)が推測したイランの原油収入は2023年420億ドル、2024年430億ドルとなる。また、米中経済安全保障調査委員会のファクトシートでは、以下のように述べている。

――中国はイラン最大の貿易相手国であり、イラン産原油の主要な購入国である。中国による購入はイランの原油輸出量の約9割を占め、イラン政府の予算や軍事活動を支える年間数百億ドルの収入をもたらしている。(ファクトシートからの引用は以上)

そこで筆者独自に「イラン原油輸出における中国の比率の推移」を、ニューヨークに拠点を置く超党派の非営利団体United Against Nuclear Iran(イラン核保有阻止連合)のIran Tanker Trackingにあるデータに基づいて図表化することを試みた。

図表1-2:イラン原油輸出における中国の比率推移

図表1-3:イラン政府歳入と原油収入比較

Iran Tanker Trackingでは、1回アクセスして1ヵ月のデータを1個取得する方法しかない。そこで根気よく毎月のデータを入手すべく、毎回アクセスして1データずつ入手し作成したのが図表1-2である。

2024年のイランの原油収入は430億ドルで、原油輸出における中国の比率は89.9%なので、2024年に中国に原油を販売して得る収入は387億ドルとなり、イラン政府の歳入(2025年は339億ドル)の規模を上回っている。これをグラフ化すると図表1-3のようになる。

ただし、米エネルギー情報局の原油収入推計は国際の原油価格に基づいているのに対して、中国はイランから割引価格で購入しているため、実際の収入はもう少し少ない可能性がある。それでもなお、中国への原油輸出によって得られる収入は、イランの国家歳入値にほぼ相当する。

図表1-4:中国がイランから輸入した原油の推移

これをもう少し長期的スパンで見ると、中国のイラン原油の輸入量は図表1-4のような推移を辿っている。

このように、イラン経済は中国によって支えられており、人民元で決済している。米国の制裁によりイランはドルを使えないからだ。だからこそイランは初期段階のホルムズ海峡封鎖中でも、中国(やロシアなどの支援国)の船舶の通航を許可し、さらに人民元で決済する船舶の通航を追加許可したのである。

イランの戦費は「中国からの石油購入による収入がなければ成立しない」と言っても過言ではない。

すなわち、イランは中国に「今はホルムズ海峡を開放して、戦争を一時停止しろ」と言われたら、「中国のアドバイス(指示?)に従う」という関係にある。だからこそ、4月8日の一時停戦は「中国の指示」によって実現したということになる。

 

プロフィール

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

中国問題グローバル研究所所長

1941年中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した「長春食糧封鎖」を経験し、1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『米中新産業WAR』、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』など多数。

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