
米国が台湾有事で敗北した場合、米国主導のグローバル同盟、特に日本や韓国を含むアジアでの対米同盟の信頼性と戦略的地位が大きく揺らぐ可能性がある。また、中国が台湾を統一すると、台湾が中国の戦力投射基盤となり、中国の軍事的優位性がインド太平洋でさらに強化されることが予測される。
米中双方にとって「負けられない戦い」の中で、中国の核兵器が担う役割とは? 書籍『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』より解説する。
※本稿は、村野将著『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです

台湾有事において、米中双方の核兵器が果たす役割は1つではない。そこには、政治的な抑止力としての役割を期待される場合(=相手を牽制するだけで実際には使用されない)もあれば、実際の戦闘局面で使用することによって得られる効果を期待される場合もある。
中国の核兵器に期待されている第1の役割は、台湾防衛作戦を支援する可能性のある米国や日本の介入を抑止することである。
意外に思われるかもしれないが、中国は「台湾有事に米軍が介入した場合には、核兵器を使用する」と明確に宣言したことはない。
しかしながら、ウクライナ戦争においてプーチンが繰り返し核恫喝を行なったことがNATOの直接介入を阻止したり、軍事支援の内容やそのペースを抑制させる結果につながったのは明らかであり、習近平が自国の核兵器に同様の効果を期待したとしても不思議ではない。
これを踏まえると、中国も紛争の比較的早い段階で、核エスカレーションをちらつかせることは十分考えられるだろう。具体的に想定されるのは、国営メディア等を通じた先行不使用政策の変更(およびその示唆)、核搭載可能な移動式ミサイルの機動展開訓練、核搭載可能な爆撃機の分散配備、中央保管庫で集中管理されている核弾頭の前線部隊への配布、太平洋側に向けた弾道ミサイルの発射実験といった行動である。
これらよりもさらに烈度が高い行動としては、内陸部での地下核実験や、本物の核弾頭を搭載したミサイルを太平洋上で起爆させるといった形での大気圏内核実験が考えられる。
注意しなければならないのは、こうした核恫喝が米国や台湾に対してだけでなく、日本を強く意識した形で行なわれる可能性があるということだ。
戦力投射基盤の限られる西太平洋において、日本は米軍の地政戦略上代わりのきかない極めて重要な価値をもっている。つまり、中国にしてみれば、心理的脅しや物理的妨害によって日本を台湾防衛戦線から脱落させることができれば、貴重な米軍の後方支援基盤を奪うことにつながり、台湾周辺における作戦環境を劇的に改善することができる。
したがって、先に挙げたような核をちらつかせるデモンストレーションが日本周辺に向けて行なわれる事態は、十分起こりうると考えておかざるを得ない。
中国の核兵器が担う第2の役割は、米国による核の威嚇の効果を打ち消すことである。これはもともと中国が核保有をめざした動機の1つであり、現在でも中国の核戦略にとって重視されている。
当然ながら、米国が「核兵器の使用も辞さない」と言ってきただけで尻込みしてしまうようでは、安心して台湾侵攻に踏み切ることはできない。言い換えれば、米国が容易に核兵器を使えない状況をつくることが中国にとっての最低条件となる。
これはDF─31AGやDF─41のような移動式ICBM(大陸間弾道ミサイル)の導入――非脆弱な対米第二撃能力の拡充――によってすでに一定程度担保されていると考えられることもできるが、実際のところ、どの程度の規模の核戦力を構築すれば中国が十分な戦略核抑止力を確保したと考えるのか、第三者が判断するのは非常に難しい。
実際、近年確認されている中国の急速な核軍拡の背景がいかなる動機によるものなのか――核戦略の変更が核・ミサイル戦力の質的・量的増強をもたらしているのか、核・ミサイル戦力の質的・量的増強が核戦略の変更を促しているのか――については、米国の中国専門家や核戦略家の間でも見解が一致していない。
そうであれば、この種の抑止力に対する中国の自信は相対的なものと見なすべきなのだろう。要するに、中国が核軍拡を続けている以上、現状の核態勢は彼らを満足させるものではないが、核軍拡を継続することで、習近平は徐々に自国の抑止力に対する自信を強めていくということである。
また中国の核軍拡については、2021年に発見された300カ所を超える新設のICBMサイロ群への注目が顕著であるが、それと同時にDF─26をはじめとする戦域射程の核・非核両用ミサイルについて大幅な拡充が図られている点にも留意が必要である。
中国の核兵器に期待される第3の役割は、米国が核兵器を実際の戦場で使用することを抑止するというものだ。
米国防省が毎年発表している中国軍事力報告(2022年版以降)には、「中国では2018年後半ごろから、台湾侵攻部隊に対して米国が低出力核を使用することが懸念され始め、比例的な対応能力を保有することを求める声が見られ始めた」との記述がある。
中国がこうした事態を懸念するのはもっともであり、そのために各種ICBMのような戦略レベルの第二撃能力に加えて、DF─26のような戦域レベルで精度の高い攻撃が可能な中距離核戦力の配備を加速している可能性がある。
更新:06月29日 00:05