中国の圧倒的な戦域打撃能力に対抗するために、日本が早急に取り組むべきこととは? 日米が直面する安全保障課題を念頭に、2025-2028年という時間軸のなかで、日米が取り組むべき政策と具体的な行動につながる提言を、書籍『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』より紹介する。
※本稿は、村野将著『米中戦争を阻止せよ トランプの参謀たちの暗闘』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです
日本は2022年の「国家防衛戦略」および「防衛力整備計画」に基づいて、12式地対艦誘導弾能力向上型や島嶼防衛用高速滑空弾といった国産ミサイルの開発を進めている。
しかし2025年1月時点において、すでに配備可能な状態にある米国の各種地上発射型中距離ミサイル――タイフォン(トマホーク・SM─6用の移動式ミサイルシステム)やLRHWダークイーグル(Long Range Hypersonic Weapon:2025年にも配備可能とされる射程2800kmの極超音速滑空ミサイル)――を日本に配備するか否かについては、少なくとも公式には議論されていない。
人民解放軍は2030年までに中国本土から1400km以内であれば4500カ所、3200km以内であっても850カ所の目標を2回繰り返し攻撃できるほどの圧倒的な戦域打撃能力を保有すると考えられる。
この想定を踏まえると、台湾有事の初期段階においては、嘉手納や普天間、那覇といった沖縄の主要な航空基地に加えて、築城(福岡)や新田原(宮崎)などの九州の航空基地も猛烈な攻撃を受けて一時的に使用不能となる可能性が高い。
また、中国本土から相対的に遠い岩国(山口)や三沢(青森)といった本州の航空基地、さらにはグアムおよびグアム以西の海域に展開しうる空母や強襲揚陸艦でさえも相当の脅威に晒される恐れがある。
LRASM(長距離空対艦巡航ミサイル)やJASSM(対地攻撃用ミサイル)の発射プラットフォームとなる爆撃機や戦闘機は、たとえ近傍の出撃拠点が破壊されたとしても、空中給油機によって航続距離を伸ばすことでより遠方から作戦を行なうことは可能だ(その場合の出撃拠点としては、ハワイや豪州北部のティンダルが考えられる)。
しかしその場合でも、作戦テンポが遅れることは避けられない。搭載するすべてのミサイルを撃ち尽くしたあとに再び前線での攻撃に加わるためには、損害の少ない基地に着陸してミサイルの再搭載を行ない、再出撃するという運用をせざるを得ない(各航空機1機あたりのLRASM最大搭載数は、B─1爆撃機で24発、F/A─18E/Fで4発)。
またイージス艦は、航空機に比べて一度に多くのミサイルを搭載できるものの、SM─3やSM─6などの防空ミサイルも併せて搭載しなければならないことを踏まえると、1隻あたりに搭載しうるトマホークは20〜30発程度にとどまると考えられる。
しかも、ミサイルを再装塡するには原則基地に戻らなければならないという点は、航空機と変わらない(米海軍は、艦艇の垂直発射管にミサイルを洋上で再装塡する方法を複数検討しているが、現時点では技術実証段階である)。
こうした運用条件を踏まえると、日米のスタンド・オフ・ミサイルは、空中発射型や艦艇発射型だけでなく、地上発射型の配備を並行して進めていく必要がある。この点、日本の12式地対艦誘導弾能力向上型は、発射オプションを多様化するなかでも、地上発射型の開発・生産を先行していることは適切と言える。
しかし、一刻も早く中国とのストライクギャップ(打撃力の格差)を埋めるという観点からすれば、これらのミサイルの配備開始時期は早ければ早いほどよい。したがって、日米は米国の地上発射型中距離ミサイルを日本国内に配備するためのオプションについて議論を始めるべきである。
たとえば、米陸軍のタイフォンについてはすでに配備が可能な状態にあり、2024年4月には米比合同演習「サラクニブ」の一環としてルソン島北部への一時的な展開が行なわれている(バシー海峡を通過しようとする人民解放軍艦艇を牽制したり、台湾および中国本土を直接打撃できる位置にある)。
このように、いますぐ恒久的な配備予定地を決めることはなくとも、日米合同演習を通じた機動展開訓練を実施することはできるはずだ。
米陸軍が開発中のLRHWについても、2025年には配備開始が予定されており、類似した性能を有すると見られる日本の島嶼防衛用高速滑空弾能力向上型(ブロック2A/B)の開発・配備スケジュール(ブロック2Aは2027年度以降、ブロック2Bは2030年度以降を予定)に先行する。
2800km近い射程を有するLRHWであれば、政治問題化しがちな南西諸島に配備する必然性はない。むしろ、九州や本州、北海道などに位置する陸上自衛隊の演習場に分散配備することを想定して、弾薬庫や支援施設の建設を検討するほうが有効であろう。
潜在的な目標となりうる中国の軍事施設・重要拠点5万カ所のうち、その約70%は沿岸から400km以内に集中しているため、LRHWのような極超音速滑空ミサイルであれば、九州や本州、北海道に配備した場合であっても、中国沿岸の航空基地を15分以内に打撃することができる。
日米の極超音速滑空ミサイルによる共同攻撃により、一部の航空基地を数時間から数日使用不能にできれば、中国側にもより遠方からの作戦を強いることで、日米の航空戦力が東シナ海から台湾周辺における航空優勢を取り戻すための余裕をつくり出すことが可能だ。
なお、米国が開発している地上発射型中距離ミサイルは、いずれもすべて通常弾頭ミサイルであり、核弾頭の搭載は計画されていない。
しかし、中国や北朝鮮が保有するほぼすべてのミサイルが核・非核両用であることを踏まえると、彼らのミサイルそのものを直接攻撃しない場合であっても、その関連システム等を攻撃対象とする場合には、自ずと核エスカレーションのリスクが生じる。
つまり、たとえ通常戦力による攻撃作戦であるとしても、日米間の緊密かつシームレスなエスカレーション管理が必要不可欠となる。核使用に伴う米軍の作戦は、インド太平洋軍などの戦闘軍司令部ではなく、戦略軍がその指揮権をもつとともに主要な計画立案を行なっており、その細部に関与するハードルは著しく高い。
しかし、日本のスタンド・オフ能力と米国が有する非核の打撃力との一体化を進めていくことで、日本はエスカレーション管理を主体的に行なう責任と権利をもつと同時に、米国の核作戦計画に関与していく段階的な足がかりを得ることが期待できる。
これは核・非核両用の航空機(Dual Capable Aircraft:DCA)とB61核爆弾に基づくNATO型の核共有メカニズムを安易に模倣するよりも、日米が互いに求め合う時代的・能力的要請に即している。
逆に、米国が中距離ミサイルを用いた作戦計画に日本が関与することを拒むようなことがあれば、日本は国民に対する説明責任の観点からも、配備受け入れを拒否することを躊躇すべきではないだろう。
更新:06月27日 00:05