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ヤングケアラー支援の課題とは? 家族思いの「いい子」ほどはまる罠

2025年07月24日 公開

斎藤真緒(立命館大学産業社会学部教授)

ヤングケアラー

日常的に家族の世話や介護を担う子ども「ヤングケアラー」への支援強化を盛り込んだ改正子ども・若者育成支援推進法が成立した。ケアラーの背景にはいかなる実態があり、私たちはどのような社会をめざすべきか。立命館大学産業社会学部教授の斎藤真緒氏に話を聞いた。

※本稿は、『Voice』2024年8月号より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

法制化までのプロセス

2024年6月5日、参議院本会議において、ヤングケアラー支援を明記した改正子ども・若者育成支援推進法が成立した。同法では、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義している。国や自治体でのヤングケアラーに対する支援の加速化と格差解消を一つの狙いとしている。

2020年から2021年にかけて厚生労働省が実施した実態調査によれば、ヤングケアラーは、小学6年生の6.5%、中学2年生の5.7%、全日制高校2年生の4.1%、大学3年生の6.2%であった(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2021、日本総合研究所2022)。

政府は2021年の経済財政運営の指針(骨太の方針)においてヤングケアラー支援をはじめて明文化した。2023年4月にはこども家庭庁が設置され、現在ヤングケアラー支援の司令塔の役割を担っている。当初は、支援対象として主に「18歳未満の子ども」が想定されていた。

しかし当然のことながら、ケアは18歳で終わるわけではない。むしろ、高等教育機関への進学や就職といった、自分自身のキャリア形成にかかわる重要な若者期に、ケアがライフチャンスの障壁になっているケースも少なからず存在している。

先に紹介した実態調査では、小学生・中学生・高校生の場合、ケアの対象が「幼いきょうだい」が第一位を占めているが、大学生になると第一位は「母親」、第二位は「祖母」となる。ケアが断続的に発生しうる今日の家族状況に鑑みて、18歳未満を対象とする児童福祉法改正ではなく、30代までの若者世代も包摂する子ども・若者育成支援推進法の改正に結実した。

現在地方自治体でも、詳細な実態把握のための調査が進められているが、子ども・若者だけでケアを担っていたり、一日の家事・ケアの時間が3時間を超える子ども・若者が一定数いるなど、支援の必要性が高い子ども・若者の存在が可視化されつつある。今回の法制化が、実効性のある支援のための大きな一歩になることは間違いないだろう。

 

ヤングケアラーとはどのような存在か

私はこれまで、妻や親を介護する男性介護者の実態調査と支援活動を20年続けてきた。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を2009年に立ち上げ、地域での男性介護者の孤立予防活動を続けている。家族の形態が多様化し、家事・育児・介護を一手に引き受ける専業主婦が減少することで、家族のケアのあり方もまた変化してきた。三人に一人が男性介護者となる時代である。

こうした調査研究を通じて、長期にわたる不登校やひきこもりの家族のケア、介護と育児の板挟みとなるダブルケアなど、「介護」という言葉には収まりきらない事例をたくさん目の当たりにしてきた。「ケアラー」とはまさに、高齢者介護だけではなく、多様な家族ケアにかかわる人びとを指す言葉なのだ。

ヤングケアラーと一言で言っても、前述した幼いきょうだいの世話の他にも、認知症の祖父母の見守り、障害のあるきょうだいの世話、精神疾患・精神的不調をかかえる親・家族に対する感情面でのケア、外国ルーツや障害のある家族のための通訳など、ケアの実態はじつに多様である。

これらの子ども・若者たちは、従来、「適切なケアを受けられていない子ども」、すなわち「要保護児童/要支援児童」として把握されることが多かった。しかし、「ケアラー」という言葉を用いることで、単にケアを受けられていないという側面だけではなく、子ども・若者が、家族を支える側に回り、家庭生活の歯車になっているという側面が浮かび上がってくる。

 

ケアがある家庭で育つ・生きるということ

では、具体的にどのような子ども・若者が支援対象となるのだろうか。定義にある「世話を過度に行っていると認められる」とはどういう状態だろうか。家族同士の支えあいが美化されがちな社会風潮のもとで、家族を助けることを「当たり前」だと思う子どもたちは少なくなく、「しんどい」と言いづらくなる可能性も否めない。

支援対象をめぐる議論では、「お手伝い」との違いが焦点化されがちである。経済的自立、精神的自立と並んで、生活面での自立能力(ライフスキル)の獲得という観点からみれば、お手伝いは、すべての子どもがかかわることが望ましい。

①保護者や大人の見守りがあるなかで行なわれているかどうか(緊急事態への対処など)、②スポーツや遊びなど、子どもたちがやりたいことに取り組む時間とエネルギーが確保されているか、といった指標に照らせば、子ども・若者の家事やケア役割が、ルーティン化されていないかを確認することができるだろう。

しかし、こうした指標によって、支援対象か否かを判断するという線引きだけでは不十分である。なぜなら、ヤングケアラーが抱える困難や生きづらさには、実際にどのようなケアを担っているのかという、〈行為〉の水準だけではなく、いつ何時でも、ケアにかかわれるような態勢にしておく、〈状態〉の水準による影響が圧倒的に大きいからである。

いったんケアラーになれば、生活時間と空間はすべてケアを中心として組織化しなければならない。ケアをする相手のために、自分の時間は計画どおりに使えなくなり、ケアと両立できる範囲内での移動しかできなくなる。

また、障害児のきょうだいや、高齢出産で生まれた一人っ子のように、現在進行形でケアを担っていない場合であっても、将来自分が主たるケアラーになる可能性が大きい子ども・若者は少なくないはずだ。支援者・大人の目に見えるケア負担を取り除くことだけが支援ではない。

ヤングケアラーはしばしば「罪悪感」という言葉を使う。自分の夢とケアとが対立せざるを得ないからである。どちらも簡単には離脱できないからこそ、この対立は深刻な矛盾となる。しかも、家族思いの「いい子」ほど、このトラップにはまってしまう。

この葛藤は、「ケアする/しない」といった単純な二者択一では解決しない。ケアがあるかぎり、夢とケアとのあいだのジレンマは果てしなく続くのだ。自分が望む将来の夢を描くことに、不安や困難を抱えている子ども・若者への丁寧な伴走こそが必要なのではないだろうか。

 

ケアラーをささえる仕組みづくり ―家族まるごと支援―

ヤングケアラー及びその家族を支える関係機関

2022年4月、厚生労働省は「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル~ケアを担う子どもを地域で支えるために~」(トーマツ、2022)を公表した。子ども・若者にかかわる児童福祉や教育分野だけではなく、福祉にかかわる関連部署の包括的な連携がめざされている(上図)。

ケアラーのための具体的な支援としては、相談体制の強化のほか、子育て世帯訪問支援事業(ヘルパー派遣)などの活用によって、ケアの代替が検討されているが、そもそも、ケアを必要としている家族への支援が十分でなければ、子ども・若者は安心して自分の人生のための選択はできない。

子ども・若者が、自らの進路やキャリアのために、ケアから離れることになっても、家族へのケアの提供が維持されるためには、家族のサービス利用状況の把握と再検討が同時に実施されなければならない。

だからこそ、ケアを必要とする家族にかかわる部局との協働が必要不可欠なのだ。家族構成員それぞれのニーズを踏まえ、支援サービスを組み合わせていくこうした方法は、「家族まるごと支援 Whole Family Approach」といわれ、イギリスでは法律で明文化されている。

「支援マニュアル」では、「家族を責めることなく、家族全体が支援を必要としていることを各機関が理解すること」が重要であると強調されているように(トーマツ、2022、9頁)、ヤングケアラー支援では、「虐待」パラダイムからの脱却も必要だ。

子ども・若者支援強化のために、親の養育責任を強調してしまうと、結果的に、ケア責任を家族にとどめておくことになってしまい、家族全体を支援する視点が後景化してしまう。ケアの受け手であれ担い手であれ、すべての家族が、ケアがあっても自分が望む人生を歩めるための支援をめざす必要がある。

現在、関係機関によるヤングケアラーの「早期発見」が強調されているが、ケアラーになってしまったあとの「事後救済」だけでは、「家族まるごと支援」の強みは十分に発揮できない。

学校や地域社会によるアンテナだけではなく、地域包括支援センターでの介護相談、妊婦検診、障害者手帳の申請など、社会が新たにケアをキャッチした時点から、ケアを必要とする人だけではなく、その背後にいる家族の生活状況全体を見渡す視点を持ち、特定の家族にケア負担が偏らないようにする、予防的なかかわりが何よりも重要になるだろう。

日本は従来、障害者総合支援法や介護保険制度など、支援を必要とする個人に対する支援制度を整備してきた。ヤングケアラーを通じて明らかになってきたことは、支援を必要とする人を隣で支える家族・ケアラーもまた、社会生活を送るうえでは様々な不利を被る可能性が高いということである。既存の福祉制度の見直しや柔軟な活用だけでは、ケアラーにとっては、間接的・一時的な支援にしかならない。

現在、地方自治体レベルでは、すべての世代のケアラーを支援するための「ケアラー支援条例」が制定される動きがある(2024年5月末現在で28自治体)。いま私たちは、ヤングケアラーを通じて問われている社会的課題について、保護や支援を必要とする「子ども」に特化した問題への対応に限定するのか、多様なケアにかかわるすべての世代のケアラーの支援に拡充させるかという分岐点に立っている。

 

「ワーク・ライフ・ケア・バランス」の実現へ

政府がめざす多機関多職種による「家族まるごと支援」には、決定的に不足している視点があると思われる。それは、ケアラー支援があくまでも「福祉」の課題として位置づけられていることである。端的には、企業を含む経済にかかわる関係機関の参画が構想されていないことである。

「介護離職ゼロ」が叫ばれて久しいが、介護・看護による離職は2022年には約10.6万人(男性約2.6万人、女性約8万人)(令和4年度就業構造基本調査)と、高止まり状態が続いている。経済産業省によれば、働きながらケアをする「ワーキングケアラー/ビジネスケアラー」は2030年にはピークを迎え318万人になると推計されている。

離職や生産性低下による経済損失額は約9.2兆円にのぼる。介護職員数の減少に象徴されるケア人材・サービスの不足は、家族の新たな負担を生み出すことにつながり、さらなる離職増加という悪循環を引き起こしかねない事態が生じている。

いったんケアを理由に仕事から離れてしまうと、短期間で対処することは難しく、簡単には復職できない。

ケア中心の生活ゆえに、社会との接点が乏しくなる中で、ケア役割を終えてもなお、社会に復帰することができない「ミッシングワーカー(消えた労働者)」の増加が、こうしたケアと仕事との両立をめぐるひずみを象徴している。40・50代の「失業者」(求職活動中)72万人に対して、求職活動できずにいる「ミッシングワーカー」は103万人存在すると推測されている(NHKスペシャル取材班、2020)。

こうした現実が示唆しているのは、ケアを担う人にとって、ケアから離れられる時間と場所、ケアラーとしてではなく、個人として評価される人間関係と活躍の場としての仕事は、単なる経済的基盤としてだけではなく、精神面での健康という観点からも極めて重要だということである。

ワーキングケアラーへの支援は、単に困難を抱える一部の社員への「救済」ではなく、人材育成を中核とする長期経営戦略という企業経営にかかわる根幹として位置づけられる必要がある。

他者へのケアだけではなく、社員自身の心身の健康(ガンなどの病気と仕事の両立、社員のメンタルヘルス)など、社員が抱える課題は多岐にわたる。企業には、ケア責任を引き受けずに長時間働ける社員モデルのリニューアルが求められている(経済産業省、2024)。

人が生きていく以上、命を支えるケアという営みはなくならない。まさに「エッセンシャル」なのだ。ケアの負担という次元にのみフォーカスするケアの「リスク」化言説は、ケアの本質を見誤ってしまうのではないだろうか。

命そのものを何よりも尊重し、命を支えるケアという営みを社会の中核に据えてこそ、持続可能な社会が構想できるのではないのだろうか。「ワーク・ライフ・バランス」では、ケアがライフに埋没してしまいかねない。ケアを社会全体で支える仕組みとして、「ワーク・ライフ・ケア・バランス」という視点が今後ますます重要になるだろう。

 

※【参考文献】
・NHKスペシャル取材班、2020、『ミッシングワーカーの衝撃―働くことをあきらめた100万人の中高年』NHK出版新書
・経済産業省、2024、『仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン』
・トーマツ、2022、『2021年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアルーケアを担う子どもを地域で支えるために』
・日本総合研究所、2022、『令和 3 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書』
・三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2021、『ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書』

 

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