Voice » 社会・教育 » 金のために彼氏のふりを続け、24時間仕事モード「ホストクラブの過酷な感情労働」

金のために彼氏のふりを続け、24時間仕事モード「ホストクラブの過酷な感情労働」

2025年05月30日 公開

佐々木チワワ(ライター)

佐々木チワワ

ホストクラブに頻繁に通い、多額の金銭を投じる「ホス狂い」といわれる女性たちの実態とは?高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、トー横キッズやホストなどの現場を取材してきたライターの佐々木チワワ氏は、著書『歌舞伎町に沼る若者たち 搾取と依存の構造』にて、歌舞伎町やホストクラブに通う女性のリアルを社会学的に分析し、その諸問題の解決策までを提言している。

佐々木氏は同書の中で、ホスト特有の感情労働についても言及している。その一部を紹介する。

※本稿は、佐々木チワワ著『歌舞伎町に沼る若者たち 搾取と依存の構造』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです

 

ホスト特有の感情労働

そもそも、ホストの労働のゴールとは何か。それはやはり、客により多くの金を使わせることである。金を使ってもらうために接客し、自分自身と客の関係を構築し、誘惑する。

すべての感情は売上を上げるために管理し、発露させる必要がある。要は自分自身を欺き顧客に愛の言葉を振りまいても、結果的に客である女性の心に刺さり、トキメかせ、売上として返ってこなくては意味がない。その点においてホストクラブは、自分の感情の管理を主体とする他のサービス業とは一線を画すのである。

こうしたホストの感情労働についてアキコ・タケヤマは、相手の心を誘惑することで操作し満足させたうえで、客側をホスト自身の目的に奉仕するように潜在的に誘うことも感情労働として含まれていると主張する(Staged Seduction,2016)。

「相手のことを好きなフリをする」だけではなく、「相手にそれを信じ込ませ、相手に自分のことを好きにさせたうえで、大金を使ってもらう価値があると感じさせる」というのが、ホストの感情労働の目標だ。

そのためただ相手を喜ばせるだけではなく、時に傷つけたり悲しませたりと、感情に「波」をつくる。表面的には対等な立場を取るとしても、自分の利益のために相手を動かすための労働が必要になるのだ。行きすぎると「洗脳」「マインドコントロール」にもつながりかねない。

ホスト以外にもこうした感情労働を行なっている例が、作家を相手にする編集者である。互いにパワーバランスの違いはあれど、ともに仕事相手を選べる立場にある。編集者は時に作家を褒めちぎり、時に叱咤激励し、やる気を出させるのが仕事だ。自分自身の感情をコントロールしながらも、作家により良い作品を書いてもらうよう「誘惑」するのである。

筆者の周りの作家と編集者の話を聞いていると、「私(作家)のことが嫌いだから編集者があんまり構ってくれないんだ!」とか「恋人の作家に編集者として厳しい言葉を言うと人格否定になりそうで悩んでいる」とか、ホストと姫か?と思わされることが多い。

編集者に限らず、自分の感情だけではなく、相手の感情を利用して自分の労働に利益をもち出そうとする人間は、少なくとも既存の感情労働よりも一段階過酷な労働を行なっていると言える。

「18歳くらいのとき、客とわざと喧嘩してたな。店に入ってきてから喧嘩して、シャンパン入れてもらって、仲直りして前よりラブラブになるみたいな。相手に非があるときにキレて、席もわざとつかなかったりして、女の子が金使ったら機嫌直して自分も謝る。指名したら楽しいってだけだとすぐに他のホストに取られたりするから、喧嘩を繰り返したりぶつかることで関係性が深いって気持ちにさせるんだよね」(20代・ホスト)

こうした感情の起伏をホストが意図的に演出していることは、客もある程度理解している。そうした演出も込みで、ホストクラブという場所でのホスト遊びを楽しんでいるのだ。

「不幸も幸せも、その感情の起伏すべてを買っているのだ。お金を払ったら絶対幸せになれるなんて、そんなのクソくらえだ、つまらない」(拙著『歌舞伎町モラトリアム』KADOKAWA、2022年)

ホストが客と関係性を構築していくプロセスは、LINEに始まり電話、食事など多岐にわたる。「自分を好きになってもらう」まで先行投資し、客として自分にハマってからはその状態を「維持」するためのコストがかかってくる。

LINEをしてもらう、電話をしてもらう、食事に連れて行ってもらうために、店で金を落とす。「飲みたいときだけ連絡し、店で金額相応の接客をしてもらう」だけならこのような対応にはならない。ホストに通う客の多くは、ホストとの日々のコミュニケーションを軸にホスト通いをしており、関係性を保つために高額なサブスクリプションに入会しているようなものなのだ。

「使う金額下げたら、私の扱い悪くなるんだろうなって考えちゃって、月アベ(月にホストに使う平均金額のこと)落とせないです。売れてるホストほど、痛い客は自分で切れるから。売上がないホストは客のほうが立場が上かもしれないですけど、大抵はホストのほうが上だと思います。嫌われたくないからお金を使う。いらないって言われたくない」(20代・風俗嬢)

 

「ホストらしさ」と「彼氏らしさ」

「ホストらしく」自分を装うことで、さらなる売上を求める。なかでも感情労働として最も重労働なのが、客と付き合う「本営」であろう。

アキコ・タケヤマが取材したホストは、客と交際していたときの自分の状態を、「彼氏」として店の外でも24時間仕事モードであり、ホストとして、彼氏としての仕事というダブルシフト状態であったうえで、ホストクラブは「お金を集める表舞台」として役立っていたと述べている。

彼のような立場は都合のいいときは彼氏扱いされ、都合が悪くなったら「所詮ホスト」のように扱われるなど、複雑な側面もある。そのなかで女性客のことを本当に好きになる場合もあれば、好きだったがストレスで気持ちは離れたものの、金のために彼氏のふりを続けるなど、ホストと客の数だけ複雑な人間関係が繰り広げられる。

重要なのは、両者は金銭による支配関係にあることだ。客のほうがホストの売上の大半を占めている場合はホストを金銭的貢献によって縛り、感情労働や自分の求める関係の演出を仕向ける傾向がある。ホストのほうが売上に余裕があり客が振り向いてもらいたい場合は、客側が「いい客らしく」自制的に振る舞うことを求められるのである。

筆者も、ホストに「本営」を受けたことが何度かある。「彼氏」という、他の客に知られたらリスクである関係を築いてでも自分はそばに置きたい客なのだと、自信がもてて率直に嬉しかった。相手が求めてくる限りは、彼氏彼女という疑似恋愛のために大金を投じる覚悟があった。

しかし数カ月が経つと、「自分は本当にお金のためだけの存在なのかな」と相手を試してみたくなったり、「自分が死ぬほど大好きな人間に、自分を好きという噓をつかせて無理やりそばにいさせている」という罪悪感に苦しめられたりと、散々であった。

女性客側は、相手を傷つけないために彼氏として接してくれるホストを「どうせホストだから」と突き放したり、ホストとして売上を求められたら「彼女なのになんでそんなこと言うの」と自分の立場を容易に切り替えたりすることができる。

ホストも客も、金銭を挟んだ曖昧で変化の絶えない関係のなかで、多かれ少なかれ本心を偽り、関わり続ける。ホストらしくあろうとすると、彼氏らしさは消えてしまう。ホストにとって、客がホストらしさと彼氏らしさのどちらに金を使うタイプか見極めるのも重要である。こうした自分の感情を管理しながら他者の感情を誘惑し、関係性を構築する営みは非常に複雑であり、難解な労働であると言えるだろう。

 

Voiceの詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

コミュニティが不足する日本...超高齢社会で“水商売”が果たせる役割とは?

若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授/日本銀行前副総裁),谷口功一(東京都立大学法学部教授)

「日本各地がニセコ化している」インバウンド観光客をターゲットにした都市の変貌

谷頭和希 (都市ジャーナリスト・チェーン ストア研究家) 

満員電車に揺られ、文句も言わず働き続ける...日本人はなぜ“資本主義”が好きなのか?

佐伯啓思(社会思想家),斎藤幸平(経済思想家)