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自己幼稚化する自衛隊広報とは?『「戦争ごっこ」の近現代史』【書評】

2025年07月22日 公開

奈良岡聰智(京都大学教授)

戦争と遊びの関連性について解説した書籍『「戦争ごっこ」の近現代史』(人文書院)を京都大学教授の奈良岡聰智氏が紹介する。

※本稿は、『Voice』2024年8月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

自らの役割をかわいらしく表象する?

ひと昔前までの子どもは、よく「戦争ごっこ」をしていた。

実際に屋外で戦わなくても、戦車や小銃を模した玩具は溢れかえっていたし、戦争をモチーフにした児童書や教材類も多数存在した。

いまでは、こうした遊びや玩具はあまり見られなくなってきたが、その痕跡はコンピューターゲーム、アニメやさまざまなサブカルチャーのなかに見出すことができる。

本書は、こうした「戦争ごっこ」やそれに類する児童文化の歴史に焦点を当てて、近現代日本における子ども、戦争と遊びの関連性を分析した研究書である。

著者のサビーネ・フリューシュトゥック氏はカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授で、近現代日本の文化研究を専門としている。

長年ジェンダーや戦争の研究に取り組んでおり、2008年に邦訳された著書『不安な兵士たち』(原書房)は、多くのインタビューを通して自衛隊の実像に迫った画期的著作として知られている。

本書も、長期間にわたる子どもと軍事の関係について考察するという、類書のない斬新な著作に仕上がっている。

第Ⅰ部「戦争ごっこ」では、明治から現代に至るまでの屋外での「戦争ごっこ」、それらが登場する絵本や雑誌、絵地図、絵すごろく、漫画などが分析されている。

著者は、こうした遊びや文化は欧米でも第一次世界大戦期に大流行し、大きな議論を巻き起こしていたという興味深い事実を紹介しつつ、日本においては日清戦争以降、日本が対外戦争を拡大するなかで発展したことを詳細に明らかにしている。

子どもの「戦争ごっこ」は明確に国家のプロパガンダや大衆動員に組み込まれ、戦争遂行を支えた。しかし、1945年の日本の敗戦以降、基本的にはナショナリズムや軍国主義とは無関係なものに変質し、その舞台は侍の時代、遠い未来や宇宙に移行することになった。

第Ⅱ部「戦争のイメージ」では、子ども向けの絵本や雑誌における軍人姿の子どもや、軍人とともに描かれた子どもの表象について論じている。

その際、著者はピエール・ブルデューが提唱した「社会関係資本」などの概念に倣って、「感情資本」という概念を用いて分析を進めている。

著者の言う「感情資本」とは、①子どもは政治的に潔白で、道徳的に純粋だという想定、②大人は子どもを見たらある特定の、予測できる一連の感情をもって反応するものだという期待、を意味する。

著者は「感情資本」が動員され、「穢れのない無垢な存在」とされた子どもの道徳的権威が、戦前の軍国主義、戦後の平和主義を正当化するのに利用されてきたと指摘している。

第Ⅱ部の後半では、近年の自衛隊の広報活動に対する分析がなされている。

世界各国の軍の広報では、軍隊が子ども性を克服し、「男らしさ」「成熟性」を獲得できる組織であると強調されるのが一般的である。

これに対して、法的正当性が脆弱で、社会や近隣諸国との関係が微妙だと自覚している自衛隊では、こうした広報はあまり行なわれない。

1990年代以降、国民の自衛隊に対する支持が向上するなかで、自衛隊は積極的な広報を行なうようになるが、そこでは男性よりもむしろ、幼児化、女性化され、時に性的対象化さえされたキャラクターが多用されてきたと本書は指摘している。

著者はこうした手法を「自己幼稚化」と呼び、自衛隊が自分たちの任務および役割を、小さく、威圧的でなく、子どもらしい、かわいらしい者の観点から表象しようとしているという見方を提示する。

また、こうした広報の仕方は、「戦争をクィア(queer)」する、すなわち戦争と平和、男と女といった境界線を曖昧にしたり、再定義したりする効果をもっているとも述べている。

評者はかねがね、近年自衛隊の広報でなぜ「萌えキャラ」が多用されているのかよく理解できなかったが、本書を読んである程度謎が解けた気がした。

著者の指摘する、子どもの「感情資本」を利用することに伴う問題にも同意する。ただし、日本社会にいまだに自衛隊や軍事的なものに対する偏見やアレルギーが根強く存在することを考えると、自衛隊の広報には独自の難しい事情があるのもよくわかる。

今後どのような方向に向かうのか、注視したい。

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