ベトナム戦争以後のおおむね半世紀にわたり、大規模な国家間の軍事衝突は発生していません。そこで大きな役割を果たしてきたのが、アメリカの軍事力です。前述した日本が示せる各種アドバンテージも、米軍が東アジアに必要十分な戦力を展開できるという前提に立ってのものです。
ところが、その大前提が今、足下から崩れてきています。それについて詳しく触れていきましょう。
まず、今のアメリカの通常戦力では、ヨーロッパとアジアで同時に紛争が起こっても対処しきれません。より具体的に言うと、ウクライナと台湾で同時に戦うためには足りず、確実に勝利するためには核兵器を使うことを考えなければならないといわれています。
とはいえ、いきなり核という最終手段を選択するわけにもいきませんから、結果的に満足な対処ができない可能性があるのです。
ミリタリーバランスのうち、戦闘機の数で比べてみましょう。第4世代戦闘機と第5世代戦闘機の数を単純に比較すると、中国は今、アメリカの95%くらいの数を保有しています。第5世代戦闘機の数はアメリカがかなり優勢ですが、第4世代戦闘機と合わせると数ではほぼ互角なのです。
空母はアメリカ優位ですが、ほかの主要戦闘艦艇の数でアメリカのおよそ7割弱。単純に断言し難いものはありますが、海空の総合戦力で中国はおおよそ対米7割を超えているのです。
ここで見落としてはいけないのが、この数字が米軍全体と比較したときのものということです。
米軍がアジアに展開できるのは戦力全体を10としたうちの5くらいですから、実際には中国が対米7割強だとしたときに、実は10:7ではなくて、5:7の戦力比なのです。"世界最強米軍"というものは、すでに存在しないのです。
もちろん有事になれば、アメリカは世界中から援軍を呼び寄せて、戦力を10にしようとするでしょう。
しかし中国は、アメリカの残りの戦力5が来る前に戦争を終わらせればいいんだ、と考えるかもしれません。これは、真珠湾攻撃の前に日本軍が考えたロジックと通じるものがあります。
そこで意味を持ってくるのが、日本あるいはオーストラリアなどの同盟国です。5:7のときにアメリカ側の足りない2を日本が埋めることができれば7:7になりますから、中国も簡単には勝てないという計算になります。
ですから、日本の今後の防衛力について、こうした観点での増強が重要なポイントになります。この大国間競争の渦中で中国を抑止するために日本がどれだけ頑張れるかというのが、東アジアの安全保障の趨勢を占う上で非常に大きな要素になってくるのです。
その前提で、2022年12月に「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という戦略3文書が策定されたのです。
更新:12月02日 00:05